» タカタの事業再生と「民事再生法+事業譲渡」スキーム

テーマ転落した元超優良企業、エアバッグのタカタが民事再生

2017年6月26日、エアバッグ製造のタカタ社が東京地方裁判所に民事再生法の適用を申請し、受理された。負債総額は1.7兆円とも目され、戦後最大規模の経営破綻となる。

スポンサーになるのは、中国資本の米自動車部品メーカー。全ての事業を引き受ける予定。

元々はエアバッグメーカーとして世界2位のポジションにあり、日本が誇る超優良企業だったが、遂には民事再生の果てに外国資本傘下に下った。

「タカタの事業再生と「民事再生法+事業譲渡」スキーム」

2017年8月10日
小坂俊介

弁護士
東京総合法律事務所代表パートナー。同所母体である西川茂法律事務所に2004年10月入所、2009年よりパートナー。主な業務は顧問業務。付随する個別案件として、相続・事業承継、M&AのDDや契約交渉、企業倒産等を扱う。現場主義をモットーとし、クロスボーダー案件では、東南アジア内陸部等のサイトビジットを活発に行う。

1 タカタの倒産

「世界のタカタ」

タカタは、1933年創業の東証1部上場企業である。1960年に日本初の2点式シートベルトを発表し、以来、エアバッグ、チャイルドシートなどを全世界で量産し、エアバッグとシートベルトでは世界シェア20%に上る。2006年に東証一部に上場し、2016年9月末時点で21ヶ国に54工場がある。売上高は6625億円(17年3月期)。

「エアバッグの異常破裂」で経営が悪化

タカタの「エアバッグ」が、異常破裂関連事故を発生させた。ロイターによると海外で16人が死亡し、180人超が負傷。日本でも2015年に重傷事故を大けがをする事故が発生した。リコール対象製品は世界で約1億個にのぼり、費用総額は1兆3000億円になると見られ、平成29年6月26日、民事再生法上の手続き開始決定の申立を行った。

 

2 KSS社による支援

民事再生手続き上では、タカタの全事業について、中国「寧波均勝電子」傘下の米自動車部品メーカー「キー・セイフティー・システムズ(KSS)」が譲渡を受ける見通しとなっている。いわば、KSSSが再建を主導するスポンサーにつく見通し。譲渡対価は現時点で積算1750億円になっているという。寧波均勝電子とKSSを合わせた売り上げ規模は約30億ドル(約3300億円)であるため、売上高が6625億円(17年3月期)に上るタカタの事業譲受は「小が大をのむ」形となり、いわばKSSにとっても社運をかけたM&Aと言えるだろう。

 

3 想定されるM&Aの内容と債権者との調整

今回のKSSによるM&Aの詳細はまだ明らかにされていないが、概要としては、事業部門全般をKSSに譲渡し、その譲渡代金をリコール費用に充当しつつ、既にリコール費用の一部を肩代わりしている自動車メーカーや資金の借入先である銀行、社債権者などには、大幅な債権カットをお願いする、というものである。同社によれば、従前はいわゆる私的整理によって再建を図っていたようであるが、しかし、第三者委員会の委員長を務める弁護士によれば「債権者全員の同意を得る私的整理は難しかった」とのことで、今回、民事再生法による手続に踏み切った。

 

4 そもそも民事再生とは

民事再生は、平成12年4月よりスタートした「再建型」の倒産制度であり、裁判所の管理下にあって、現経営陣による経営を引続き認めたまま、債権カットを主たる内容とする再生計画案の可決認可を目指す。

倒産制度としては、事業廃止型として「破産」「特別清算」、事業継続型として「民事再生」「会社更生」がある。

一般に大規模倒産案件では、事業価値の既存(倒産イメージの回避)が最重要課題の一つであり、そのため、「破産」「特別清算」よりも再建型である「民事再生」「会社更生」が選択される。

また、再建型の「民事再生」「会社更生」のうち、「会社更生」は手続が厳格であり、経営陣の交代も生じるため、債権者にとっては安心感のある手続であるが、期間が長期になるため、一般にはまず「民事再生」、その見通しが暗い場合に「会社更生」に切り替える、という段取りが取られることも多い。

特に本件のような単独再建ではなく、スポンサー型のケースでは、事業価値毀損を防ぐため、早期のスポンサー支援を実現する必要があり、その意味では「民事再生」の選択が有意であったと考えられる(単独再建をしたJALやこれを目指す東芝が会社更生なのは、長期の手続に亘ってでも債権者の十分な理解を得るため。)

 

5 民事再生+事業譲渡を選択する理由

上記でも触れたが、スポンサー型の再建計画では事業価値毀損を防ぐため、スピーディな民事再生の手続の利用に理由がある。

また、その手続内でM&Aの方法として、今回は株式譲渡等の方法ではなく、事業譲渡の方法が予定されている。これは、KSS最高財務責任者(CFO)のジョー・パーキンズ氏が、「エアバッグのリコール問題を抱えるタカタの債務問題からは遮られていると自信がある」と述べたとおり、リコール事業のみをタカタに残したまま、本来の正常な事業部門だけを譲り受けたいと言う、KSS側の要望によるものと考えられる。

さらに、M&Aにおいて一般的に看過できない免除益課税リスクについても、本件において、相当に考慮されていると見られる。

 

6 倒産型M&Aにおける債務免除益リスク

一般に債権カットによる債務免除益課税は民事再生等の法的手続きにおいても同様に生じるが、これに対して、特例により、様々な損金による相殺が認められており、その代表例として、期限切れ欠損金などを挙げることができる。

ただ、こうした相殺できるだけの損金がどうしてもない場合には、債権カットを暦年に跨がせる方法もあるが、それ以外にも、倒産会社そのものの買収をあきらめ、欲しい事業だけ切り出して取得する手法を再検討することもある。倒産会社が債務免除益の問題をどのように解決するかは買収者の関心事ではなくなるため、M&Aはより支障なく進めることになる。

今回のタカタのケースのように、事業譲渡+清算という手法を用いることで実質的に買収社に対する課税を免れることができるため、こうした税務上の事情も加味して今回のスキームが選択されたものと思われる。

倒産時のM&Aでは、免除益課税の問題は検討すべき最重要課題の一つとなることが多い。

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