» DDホールディングによるエスエルディー公開買付け  -公開買付けを借用した創業者株式買い取りー

テーマDDホールディングス エスエルディーに対するTOB

DDホールディングス(3073、旧ダイヤモンドダイニング)は14日、カフェダイニングなどを展開するエスエルディー(JQ、3223)に対するTOB(株式公開買い付け)を実施すると発表した。大株主から計44.06%の株式を取得し持ち分法適用会社にする。将来的には連結子会社にすることも検討しているという。

買い付け価格は、時価を下回る1株当たり1130円で、買い付け総額は6億8704万円。買い付け予定数の上限は60万8000株で下限は57万6000株。

「DDホールディングによるエスエルディー公開買付け  -公開買付けを借用した創業者株式買い取りー」

2017年12月21日
金子博人

弁護士
金子 博人 (東京弁護士会所属 / 金子博人法律事務所) 事業承継、M&Aなど、ビジネス面でのサポートに力を入れています。今は、インダストリー4.0ないしIOTのマネージメントのコンサルタントに力を入れています。法務だけでなく、海外進出を含め、経営戦略を総合的に支援します。 2014年からは、新たに医療法人、学校法人のM&A,承継、相続に力を入れていますが、さらに、16年は、インダストリー4.0ないしIOTの支援に努力します。

1.買付会社は新しいビジネスモデルの外食産業

2017年11月14日、株式会社DDホールディング(旧株式会社ダイアモンドダイニング。17年9月1日付で社名変更)が、株式会社エヌエルディーに対する公開買付を発表した。

買付会社は、95年6月創業で、07年3月大証ヘラクレス上場し、その後ナスダックスタンダード、東証2部を経て、15年7月、東証1部指定となった。まさに、急発展した企業でDynamic & Dramatic(大胆かつ劇的に行動する)をモットーに、オープンイノベーション企業を目指すとのことだ。 飲食事業を中心に、アミューズメント事業、ウェディング事業、カプセルホテル事業を展開している。

わらやき屋、今井屋、GLASS DANCE、アリスのファンタジーレストラン、ベルサイユの豚、九州熱中屋、アロハ・テーブル、chano-maなど148ブランド424店舗(17年8月末現在)を有する。DDホールディングの特徴は、一ブランドで、多数の店舗展開を目指す従来型の外食産業とは異なるビジネスモデルである。

「世界中に楽しみと驚きを届けたい」、「食材・コンセプト・内装・エンターテイメント等に熱狂的にこだわる」として、17年2月期には、連結純資産39億5500万円、連結総資産187億3700万円、連結売上高305億0900万円、連結経常利益14億3500万円という堂々たるパフォーマンスを誇っている。


2.対象会社は独創的なコンテンツ提供事業会社

対象会社は、買付者より1年早く、94年1月設立で、15年3月19日にJASDAQに上場した。自らを「カルチャーコンテンツ提供事業」と称し、「よい多くの人々を楽しませる」を目指し、音楽、アート、食などを企画融合し、ブランド開発や様々なイベントを企画提供している。

自ら、「Kawara CAFE&DINING」ブランドで、カフェダイニング形態をメインとした飲食店舗を展開する、「飲食サービス事業」も展開している。

ところが売り上げは、15年3月に45億2700万円、16年3月は52億7200万、17年3月は55億050万円と増加しているものの、営業利益は、15年3月に2億0300万円、16年3月に1億0500万円と急減し、17年3月はマイナス5,800万円となってしまった。

売り上げを伸ばしても利益が下がるというのは、経営者にとっては、最もつらいものである。これは、従来のビジネスモデルが限界にていることを意味するからである。

今回のM&Aは、対象会社の救済という側面も強いといえよう。


3.シナジーの展開

外食産業は、今厳しい状況におかれている。もともと過当競争が指摘されているが、それだけでなく、人材不足に悩まされ、酒類消費の低減傾向、ファーストフードやファミレスによる酒類販売強化などで収益性の低下傾向にあり、消費者嗜好の多様化でブランドがすぐ飽きられるという、厳しい状況にある。

これに対しては、新規ブランドの開発、仕入れ面のスケールメリット追求、優秀な人材の獲得、資源配分の適正化、事業領域の強化・拡大などが求められている。

今回のM&Aは、これらの面で、シナジーが期待できると思われる。買付けグループはディナー営業主力、対象会社はカフェダイニングであり、一方が夜間、他方が24時間経営と、補完し合える関係にある。また、展開地域が共通しているため、ドミナント効果、共通購買、営業バックアップ部門の強化などが期待で来る。さらに、対象会社にとっては買付けグループの会員制度システムンへの参加による、客誘導が可能となるであろう。

また、買付会社は新たなブランド開発をすることが企業戦略の核心であるが、この点の支援こそ対象会社の得意とするところであり、この面でも、シナジーは期待できるはずである。


4.巧妙なスキーム

 今回の公開買い付けは、特異である。公開買付けと言いながら、当初から、一般株主の応募を期待していない。

公開買付けの場合、通常は、マーケット価格にプレミアムを載せて募集する。ところが今回は、マーケット価格が一株1300円前後なのに、買付価格は一株1130円である。これでは、一般株主には、応募するメリットがない。通常通り、マーケットで売った方がずっと有利だからである。

これでもM&Aが成り立つのは、買付け予定数の上限を608、000株(46.51%)としているが、このうち、576,000株(43.86%)分は、事前に、応募を受けているからである。

筆頭株主である代表取締役会長青野玄氏が、その所有する全株たる544,000株(41.61%)と、6位の高橋正彦氏の32,000株(2.25%)については、応募合意が成立しているのだ。

とはいえ、応募合意の43.86%(これが買付け予定の下限)は勿論、上限の46.51%でも、過半数には達しない。これでは、買付会社は人事権を取れないはずであるが、11月14日付で両者間は業務提携契約を締結し、公開買付会社が、取締役の過半数の指名権を得ることになっている。その上で、対象会社を、持ち分適用関連会社とするという。対象会社の創業社長だった青野玄氏も経営から離れることとなる。

となれば、公開買付けを経なくても、この事前合意で、買付けは、ほぼ目的を完了していると言えよう。ではなぜ、公開買付けという方法を取ったかと言えば、それは、買付価格を安くしたかったからであろう。

前述のとおり、営業利益は、赤字となっている。にもかかわらず、17年3月期の決済では、純資産が7億3900万円にすぎないのに、時価総額は16億9000万(1株1300円)ぐらいとなり、株価価が割高に見えたと思われる。

仮に、証券会社の仲介で「相対取引」(市場外取引)をした場合、東証やJASDAQのルールでは、直近の終値の上下7%以内で価格設定しなければならない。しかし、本件の1130円という価格は、1300円前後であった当時のマーケット価格とは、15%前後の価格差がある。そこで、7%ルールに縛られない、公開買付けというテクニックを採用したと考えられる。

ただ、この価格設定が不合理で、マーケット価格に悪影響を与えたとなれば、一般株主から裁判所に対し買付差止めを請求される危険が出てくる。

今回は、第三者機関からの株式価値算定書は無いが、幹事会社のSMBC日興証券による株式価値算出結果が公表されている。それによると、市場株価法では1,290~1,308円(直近1か月終値平均13、08円 直近3か月平均1,290円)、類似上場会社比較法では913~1,032円、DCF法では1,102~1、499円とのことで、少なくとも、価格が不合理でないとのお墨付きは取得している。

問題は、対象会社のマーケットがどう反応するかであるが、公開買付けが発表された11月14日後、株価は急上昇し、12月初め2000円を超えた。その後、1800円台へ沈静化したが、市場は間違いなく、極めて好意的に反応したと言えよう。

営業利益が悪化し、赤字転落した対象会社にとり、今回のM&Aは、救世主と映ったのであろう。

ところで、買付け会社の株価を見ると、公開買付け発表後、4500円から5000円へ増加した。12月に入り、下落して4500円へ戻っている。株主はシナジーを期待し、好意的にみていると言えよう。

となれば、株主から、買付差止めを請求される危険はないであろう。


5.最後に 

今回は、上場会社であっても、公開買付けを借用すれば、創業家株式を「相対取引」で買い取って、効率よく支配権を確保できることを教えてくれる。今後の実務に参考となる、興味ある事例である。

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