» シャープと鴻海のM&Aについて

テーマ鴻海(ホンハイ)によるシャープ買収について

2016年8月12日、日本のお家芸と言われる、家電大手のシャープが、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業に買収されました。鴻海精密工業は約3,900億円を出資。当初、シャープは産業革新機構からの出資を受け入れる見通しと言われていましたが、最終的に支援額を上積みした、鴻海精密工業に軍配があがりました。スマートフォンや薄型テレビなどの電子機器を受託生産するEMSで世界最大手である、鴻海精密工業の下で、シャープはこれからどうなっていくのでしょうか。

「シャープと鴻海のM&Aについて」

2016年12月7日
漆山伸一

公認会計士
公認会計士、税理士、証券アナリスト。監査法人トーマツ、デロイトトーマツコン サルティング合同会社を経て独立、漆山パートナーズ会計事務所(現税理士法人 漆 山パートナーズ)を設立。現在、株式会社アットタックの代表も務め、会計税務業 務、企業再生、事業承継、M&A、海外資産運用サポートなどのコンサルティング業務 にも多く携わる。その他、上場企業の取締役も歴任している。

ホンハイ精密工業とは?

この会社の名前を皆さんご存知でしょうか? 言わずもがな、2016年にシャープ株式会社を買収した台湾の世界最大電子機器製造受託メーカーです。知りませんよね、少し紹介します。

ホンハイ精密工業は中華民国(台湾)に本社を置き、2005年には台湾中油を抜いて台湾一の売上額の企業となりました。2015年12月期の連結売上高は約16兆円にも及びます。郭会長が、町工場から1代で築き上げました。自社ブランドを持たず、下請けとして、電子機器の組み立てを行っています。一番の取り引き先は、アメリカのアップル。世界の名だたる企業の製品を組み立てています

シャープは7年前、自社ブランドの大型液晶テレビを製造・販売しようと世界最大規模の液晶ディスプレー工場(大阪・堺)を稼働させました。しかし、韓国勢との価格競争に敗れ、巨額の赤字を計上しました。この経営危機をきっかけに、ホンハイは5年前からシャープが建てた堺工場を共同経営しています。
ホンハイは組立てにあたり、ディスプレーなど、多くの部品メーカーと取り引きしています。今後、ディスプレーは、あらゆる電子機器に使われると見ており、自社開発できればさらに高い利益を得ることができると確信していました。そのために、シャープの技術を手に入れたいと考えていました。そこでシャープの買収にも自信をのぞかせていました。まさに下請けメーカーが、発注元のメーカを買収する下剋上のM&Aです。

 

 ホンハイVS産業革新機構

しかし当初、買収交渉を有利に進めていたのは、日本の産業革新機構です。国と民間が出資する投資ファンドです。機構は、大手電機メーカー3社の液晶事業を統合して、ジャパンディスプレーを設立、そこにシャープを加えれば、世界トップシェアとなり、競争力を取り戻せると考えました。この“日の丸液晶連合”、シャープにとっても、国が後ろ盾となる魅力的な提案でした。機構の案は、シャープに3,000億円を出資するのと引き換えに、銀行側にも3,000億円余りの追加支援を求めるものでした。これに対して、ホンハイは6,000億円を超える資金を用意、銀行側には、一切の負担を求めないと説明し、銀行の同意を取り付けました。そして、“100年続いたシャープを、皆さんと一緒に再生させたいと宣言し、結果ホンハイは買収交渉の一番手に躍り出たのです。

 

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ホンハイによるシャープ“買収”の示唆

  • 今日世界市場を相手にしないとメーカーは成り立たない

ホンハイによるシャープの力の逆転は、実は今に始まったことではなくもうとっくに起こっていました。ホンハイという名前は、日本では知れていませんが、国際的にはある意味、シャープよりも有名な企業です。なぜ、そういう力をつける企業が台湾、中国で出てきたか。多くのメーカーが製品の設計、開発、製造で一番付加価値が低いのは製造とか、組み立てと考え、この部分は下請けにすべて任せていました。しかも、日本はコストを安くするためにと、中国にこれを全部出しました。しかしこれを全部まとめると、とんでもないスケールになります。ビックスケールになると、それを作る力がノウハウとして蓄積されます。今大量生産するとしたら、世界の中ではホンハイなくては全く製品が行き渡らない状況になってきています。日本も全部、ホンハイに頼っているっていうこういう状態が生まれてしまっています。結果膨大な利益をもたらすことになるのです。

  • 海外企業のM&Aにおける駆け引きのうまさ

ホンハイも最終的にはシャープの3,888億円の第三者割当増資を引き受け、議決権の66%を握る筆頭株主となりました。シャープの業績悪化や将来負債となる恐れのある偶発債務を踏まえ、出資を当初予定の4,890億円から1,000億円程度減らしました。それなら当初の機構の金額とほぼ変わらない数字になります、これも手元資金の余裕がもたらした結果であろう。日本人もグローバルな視点から、M&Aにおける駆け引きを行い、ある意味卑怯と思われても契約を成就する、そのぐらいの気迫が必要です。

これは何も大企業だけの問題ではなく、中小企業にも当てはまることです。私どものクライアントでも、海外企業との交渉に負けて撤退をせざるを得ない企業が多々あります。交渉です、交渉、多分練習が必要ですね。日頃のビジネスで磨いていきましょう。私も含めて・・・

その他専門家コラム

  • 「シャープと鴻海」

    中島成

    弁護士

    昭和34年8月生 東京大学法学部卒 裁判官を経て昭和63年4月弁護士。中島成総合 法律事務所を主宰。日本商工会議所・東京商工会議所「会社法制の見直しに関する検 討準備会」委員、東京商工会議所「経済法規・CSR委員会」委員等を務める。平成 16年度まで中小企業診断士試験委員(経営法務)。全国地方銀行協会研修所などで の講演多数。『図解 会社法のしくみ』(日本実業出版社)『民事再生法の解説~企 業再生手続~』(ネットスクール)など著書多数。

  • 「シャープと鴻海のM&Aについて(M&A交渉の素材として)」

    絹川恭久

    弁護士

    1979年愛知県生まれ、東京都出身。弁護士登録後、沖縄県内の法律事務所で民事、刑事、家事、地元企業関連法務等幅広く弁護士業務を経験した後、米国に留学。帰国後現在所属する弁護士法人キャストに参画し、2012年から現在まで香港拠点担当として香港に赴任する。 2014年12月にLi & Partners所属の香港ソリシターとして登録し、香港において日系企業の訴訟、買収・合弁契約等各種契約締結支援等、海外進出企業法務全般、及び日本人個人富裕層の海外資産管理、国際相続等グローバルな業務を取り扱う。 (著書:「国際弁護士が教える海外進出やっていいこと、ダメなこと」価格2600円+税)詳細はこちら→ http://u0u0.net/A2SH

  • 「鴻海(ホンハイ)は本当に大規模な人員削減をするのか?」

    中原 陸

    M&Aアドバイザー

    インクグロウ株式会社 事業戦略部 統括マネージャー 1983年5月生まれ 中小企業向けの経営コンサルティングに従事した後、2011年にバイアウトしたインクグロウに転籍。実施主義のコンサルティング経験を活かし、数多くのM&A案件の成約に関与。食関連事業を得意とし、業界への知見やM&A経験で支持を得ている。