» 中小企業のM&A―トヨタのダイハツ子会社化戦略は参考になる

テーマトヨタ自動車が見据える未来(M&A編)

2016年、トヨタ自動車は子会社であったダイハツ工業を完全子会社化し、10月にはスズキ自動車との業務提携を発表しました。

軽自動車市場のシェア1位と2位を誇る各社を、それぞれ完全子会社と提携先とした今、トヨタ自動車はどのような未来を見据えているのでしょうか。

M&Aを切り口とした同社の成長戦略について専門家視点で分析します。

「中小企業のM&A―トヨタのダイハツ子会社化戦略は参考になる」

2016年12月14日
小林幸与

弁護士・税理士
明治大学法学部卒業後の昭和61年から弁護士活動開始。結婚出産子育てを経て、平成9年より豊島区池袋にて弁護士活動を再開。その後、東京税理士会に登録して税務分野に拡大。法人化を機会に平成26年東京銀座に進出。現在は、弁護士法人リーガル東京と税理士法人リーガル東京の代表として、銀座本店と池袋支店で弁護士5名・税理士2名の体制にて、相続税務や事業承継を含む相続全般・不動産関係に特化した事務所を経営する。

◆はじめに

◆トヨタがダイハツを子会社とした目的・方法

◆M&A戦略としての株式交換のメリット・デメリット

◆株式交換の税務について

 

 

  • はじめに

自動車最大手のトヨタ自動車株式会社(以下「トヨタ」といいます)の子会社であるダイハツ工業株式会社(以下「ダイハツ」といいます)は、2016年7月27日付で上場廃止をして、トヨタが株式100%を保有する完全子会社となりました。

トヨタは、ダイハツの株式の過半数を元々保有して親子会社の関係にありましたが、ダイハツを完全子会社にする方法として「株式交換」というM&Aの一方法をとりました。この方法は中小企業のM&Aの方法としても利用できますので、トヨタが用いた株式交換の目的や税務上の扱いなどを解説いたします。

  • トヨタがダイハツを完全子会社とした目的・事情について

トヨタは、新興国自動車市場の強化という戦略のもとに、ダイハツのライバルで新興国市場に強いスズキとの提携を検討中と報道されています。

またトヨタはダイハツの軽自動車販売低迷による業績悪化を問題にしていたようで、ダイハツとスズキの軽自動車市場での競争を沈静化しようと考えているとも言われます。

このような目的から、トヨタは、株式の過半数を保有し親子会社の関係にあるダイハツを、完全子会社化しようとしたのでしょう。

どういうことなのか、具体的に説明します。

トヨタもダイハツも上場会社ですが、トヨタが株式100%保有の完全子会社にすることにより、ダイハツは上場廃止になります。このことを会社の経営支配の観点からみると、経営の意思決定がより迅速にできるというメリットが生じます。以前よりトヨタはダイハツの株式の過半数を保有していたので、経営の実質的支配権がありましたが、少数株主の存在を無視できません。ダイハツの少数株主が自らの利益のみを目的として株主権を行使すると、トヨタは迅速な意思決定ができなくなる恐れがあるのです。そういう事態は、軽自動車のグローバル競争で遅れをとるリスクがあるとの経営判断でしょう。またダイハツを完全子会社化することで完全コントロールできれば、ダイハツのライバルであるスズキとの提携が円滑にできるとの経営判断もあると思います。

ダイハツはトヨタの子会社として親子上場をしていましたが、最近の税務や会計の動き、上場子会社へのガバナンスの困難さ、適時開示や内部統制報告制度への対応など親子上場のメリットが薄れてきている事情もあると思います。

トヨタによるダイハツの完全子会社化の構造は、トヨタの株式とダイハツの株式との交換という形式で行われました。交換比率は、トヨタ株1に対しダイハツ株0.26の割合です。

トヨタは、新株発行でなく自己株式(トヨタが保有する自社株)とダイハツ株式と交換しました。ダイハツは、株主総会の特別決議(議決権の3分の2以上の賛成)で可決され、ダイハツは上場廃止になりました。

 

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  • MA戦略としての株式交換のメリット・デメリット

M&Aとは、支配権の移動を伴う企業間の資本取引ですが、中小企業で用いられる手法は「買収」がほとんどです。「買収」には、「株式取得」と「事業譲渡」の2つの方法があり、さらに「株式取得」の一方法として「株式交換」があります。他の株式取得の方法としては「株式譲渡(売買)」「第三者割当増資」があります。

「株式交換」は、前記トヨタとダイハツの例にあるように、自社株式(前例でトヨタ株)と相手先会社の株式(前例でダイハツ株)を交換して、相手先会社(前例でダイハツ)を譲受け、相手先会社(前例でダイハツ)を子会社として傘下におくことです。前例のトヨタとダイハツのように、上場会社の場合に利用されやすいです。相手先会社の株主は、取得した親会社の上場株を必要に応じて売却処分できるからです。

「株式交換」は、親会社になる会社が上場会社のケースが多いのですが、子会社になる会社は、非上場の中小企業であるケースもあります。この場合の交換比率については、双方が上場であるケースと比べると、公正さを担保しにくいデメリットがありますが、取得した親会社の上場株を上手に売却すれば相当の売却益が見込めます。

非上場会社である中小企業同士が、組織再編の方法として「株式交換」を利用するケースも少なくありません。なぜなら税制適格要件を満たす株式交換なら双方の会社と株主に税務上のメリットがあるからです。税務上のメリットなどについては後述します。

なお、株式交換は、ある会社を買収したいが、買収資金がない場合などに利用できるメリットがありますが、会社株主からすると取得した株式が非上場会社の場合、株式の現金化が難しくなります。もっとも株式交換が行われる場合、反対の株主は、会社に保有株式の買い取り請求ができます。この場合会社は「公正な価格」で買い取らなければならないですが、「公正な価格」の金額が問題になり、訴訟に発展するケースもあります。

また親会社となる企業としては、子会社の不要資産、簿外債務、偶発債務を引き継ぐ可能性があるというデメリットがあります。

非上場の中小企業同士でも、株式交換によって完全子会社化するのは、

非支配株主に対する配当を考慮しなくてもよくなり経営資源を企業グループ内に留保できること、完全子会社化によって経営を完全コントロールでき企業グループとして一体的経営ができる、という経営上のメリットがあるからです。

また、相続税対策として、同族会社の株式評価額を引き下げるために、

株式交換による持ち株会社化の手法を使うこともできます。ただし株式保有だけを目的とした特定会社とみなされないよう注意が必要です。

 

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  • 株式交換の税務について

税務上「株式交換」は、所有株式の売却・対価の受け取り・新株式の取得という一連の取引とみなされます。したがって完全子会社となる会社の株主及び完全親会社となる会社の株主について、株式交換による利益は、原則としては、課税対象になります。

ただし、組織再編税制の一つとして、一定の税制適格要件を満たせば、株式交換による利益について、株主は課税されません。これを適格株式交換と言います。

株式交換すると、原則として完全子会社の保有資産(土地等・有価証券・

繰延資産等)が時価評価され、評価益が法人税の課税対象になりますが、

適格株式交換であれば、子会社の資産も簿価が継続され課税されません。

次に税制適格要件を満たす株式交換について、説明します。

以下の要件ABCDを満たせば、適格株式交換として株式交換による課税

が繰り延べられます。

(要件A)完全子会社の株主に完全親会社の株式以外は交付されないこと

(要件B)a株式交換前に、同一の者が完全親会社と完全子会社の株式の各50%超を保有する関係にあること、またはb株式交換前に、完全親会社と完全子会社の一方が他方の株式の50%超を保有する関係にあること

(要件C)株式交換前に、同一の者が完全親会社と完全子会社の株式の100%を保有する関係にあること

(要件D)株式交換後も、同一のものによる支配関係または当事者間の支配関係が継続することが見込まれていること

なお、(要件C)の代わりに、以下の(要件E)及び要件ABDがあれば、適格株式交換として課税されません。

(要件E)株式交換前に、同一の者による支配関係または当事者間の支配関係があり、次の要件を満たすこと。

a株式交換前の完全子会社の従業員の概ね80%以上が、引き続き、完全子会社の業務に従事する見込みであること。

b完全子会社が株式交換前に営む主な事業が完全子会社により引続き営まれる見込みであること。

前述のトヨタとダイハツの株式交換は、上記の要件ABEDを満たす適格株式交換となり、課税されません。

なお要件BCDEを全て満たさなくても、共同事業を営むための株式交換で完全子会社の株主が50人以上である場合に、一定の要件を満たせば、適格株式交換として課税の繰り延べができる場合があります。

以上

 

 

 

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  • 「トヨタのM&A戦略」

    松本甚之助

    弁護士

    2006年弁護士登録、2012年アメリカ合衆国ニューヨーク州弁護士登録。クロスボーダーM&Aを含むM&A案件と国際取引、国際紛争、国際倒産処理手続等の渉外案件を中心に取り扱う。現在三宅坂総合法律事務所のパートナーとして、国内案件のみならずASEAN諸国や中国・インドなどにおけるクロスボーダーM&A等提携取引の事例と相談を多く手がけている。

  • 「トヨタ自動車のM&A戦略」

    坂元 英峰

    弁護士

    平成8年京都大学法学部卒、平成10年京都大学大学院法学研究科卒。 平成12年4月弁護士登録。平成17年6月税理士登録。日系企業のアジア進出支援に定評のある弁護士法人マーキュリー・ジェネラルの代表パートナー。 国内外の企業法務、M&A、事業再生等に豊富な経験を有し、社外役員を務める会社も多数あり、各分野に関する講演歴等も多数にのぼる。