» トヨタのM&A戦略

テーマトヨタ自動車が見据える未来(M&A編)

2016年、トヨタ自動車は子会社であったダイハツ工業を完全子会社化し、10月にはスズキ自動車との業務提携を発表しました。

軽自動車市場のシェア1位と2位を誇る各社を、それぞれ完全子会社と提携先とした今、トヨタ自動車はどのような未来を見据えているのでしょうか。

M&Aを切り口とした同社の成長戦略について専門家視点で分析します。

「トヨタのM&A戦略」

2016年12月14日
松本甚之助

弁護士
2006年弁護士登録、2012年アメリカ合衆国ニューヨーク州弁護士登録。クロスボーダーM&Aを含むM&A案件と国際取引、国際紛争、国際倒産処理手続等の渉外案件を中心に取り扱う。現在三宅坂総合法律事務所のパートナーとして、国内案件のみならずASEAN諸国や中国・インドなどにおけるクロスボーダーM&A等提携取引の事例と相談を多く手がけている。

トヨタ自動車株式会社(以下「トヨタ」)は、日本国内では、軽自動車を除くトヨタ・レクサスブランドの販売シェア及び軽自動車を含む販売シェア (ダイハツおよび日野ブランドを含む)でいずれもトップを維持するとともに、グローバルにおいても4年連続の世界一の販売台数を達成している。そのトヨタが2016年中に公表したM&A関連のニュースを元にトヨタの今後のM&A戦略を考察してみたい。

 

 

ダイハツの完全子会社化

トヨタは、2016年1月29日にダイハツ工業株式会社(以下「ダイハツ」)を株式交換により完全子会社化することを公表し、2016年8月1日に、ダイハツを株式交換の手法により完全子会社化した。

その目的については、公表資料において、小型車領域における多様化する顧客の要望に対する商品ラインナップの整備、スピーディーな事業展開、ブランドマネジメントの課題に対処するため、ダイハツをトヨタグループの軽自動車事業、小型車事業を牽引する役割へと転換し、両者間の意思決定の迅速化と責任の明確化を図ること、グローバルなブランド戦略による商品ラインナップの充実、それぞれのブランドの差別化、進化等が目的とされている。

トヨタは、北米には強いものの、新興国では苦戦をしているとされ、上記リリースからは、特にエントリーレベルでの需要の多い新興国開拓においてダイハツを重要な位置づけとしているものと理解をされる。もっとも、ダイハツは、軽自動車販売台数では10年連続で日本市場シェアトップであり、インドネシア及びマレーシアでもその販売台数の上位を占めてきたが、ダイハツの海外展開は両国に限定されているという課題があった。

 

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スズキとの提携とその後

その後、2016年10月12日付でトヨタとスズキ株式会社(以下「スズキ」)とは、業務提携に向けた検討を開始することを公表している。

10月12日に開かれた共同会見では、今回の提携がスズキ側から2016年9月に持ち込まれたものであったということが明らかにされており、ダイハツの子会社化の時点では、スズキとの提携の話は全くなかったようである。

公表段階では、あくまで業務提携に向けた検討をすることだけが公表されたのみであり、具体的な業務提携の中身は明らかにされなかったが、トヨタとしては、ダイハツには新興国の小型車事業の根幹を担わせることを明言しつつも、標準づくりの面で遅れていることを認め、スズキとしては、先進・将来技術の開発に課題を抱えているということが明らかにされている。

特に公表資料には、「この提携の構想は両社以外にもオープンなスタンスであり、将来的には標準化にもつながるものと考えている。」との記載があるが、今まで自前主義を基本とし、標準化においては必ずしも主導的な役割をとれていなかったトヨタが標準化においても業界をリードしていくという方向性を明らかにしており、今後の世界および日本における自動車メーカーの業界再編においても影響があるものと思われる。

たとえば、トヨタが力を入れてきた燃料電池自動車(FCV)などでは、複数のメーカーがFCV車を投入することで、水素ステーションの共有化が図れるなどのメリットが有り、次世代環境車として電気自動車(EV)との競争に勝つ必要があり、FCV陣営への参加メンバーを増やす事が重要な戦略になってくると思われる。また、トヨタは、既に富士重工業株式会社やマツダ株式会社とも提携をしており、今後も必要な技術分野では、業務提携という手法をとっていくことが想定される。

なお、資本提携についてはゆっくり考えるということで両社とも否定しなかったが、今後資本提携に発展する可能性も十分にあるのではないかと考える。確かにダイハツとスズキとの国内のシェアを合わせると60%程度となり、独禁法上の課題を解決する必要はあるが、海外ではトヨタは北米、ダイハツはインドネシア・マレーシア、スズキはインドと強みのある市場が重なっておらず、新興国を中心とした海外展開を進める上では、それほど大きな障害がない可能性が高く、インドでトップシェアを誇るスズキとの提携関係をより強め、新興国市場開拓のノウハウを吸収するメリットがトヨタにあると考えられるからである。

その他専門家コラム

  • 「中小企業のM&A―トヨタのダイハツ子会社化戦略は参考になる」

    小林幸与

    弁護士・税理士

    明治大学法学部卒業後の昭和61年から弁護士活動開始。結婚出産子育てを経て、平成9年より豊島区池袋にて弁護士活動を再開。その後、東京税理士会に登録して税務分野に拡大。法人化を機会に平成26年東京銀座に進出。現在は、弁護士法人リーガル東京と税理士法人リーガル東京の代表として、銀座本店と池袋支店で弁護士5名・税理士2名の体制にて、相続税務や事業承継を含む相続全般・不動産関係に特化した事務所を経営する。

  • 「トヨタ自動車のM&A戦略」

    坂元 英峰

    弁護士

    平成8年京都大学法学部卒、平成10年京都大学大学院法学研究科卒。 平成12年4月弁護士登録。平成17年6月税理士登録。日系企業のアジア進出支援に定評のある弁護士法人マーキュリー・ジェネラルの代表パートナー。 国内外の企業法務、M&A、事業再生等に豊富な経験を有し、社外役員を務める会社も多数あり、各分野に関する講演歴等も多数にのぼる。