» RIZAPのジーンズメイト買収を、そのM&A戦略から紐解く

テーマRIZAPグループがジーンズメイトをグループ化

破竹の勢いで成長しているRIZAPグループが、TOB(株式の公開買い付け)を通じてジーンズメイトの株式を取得し、グループ化させると1月16日に発表されました。

既に大株主との公開買い付けに応じる旨の契約を締結しており、過半数となる発行済み株式の約52%を取得する見込みです。

RIZAPグループのアパレル事業を考察します。

「RIZAPのジーンズメイト買収を、そのM&A戦略から紐解く」

2017年1月18日
中原 陸

M&Aアドバイザー
インクグロウ株式会社 事業戦略部 統括マネージャー 1983年5月生まれ 中小企業向けの経営コンサルティングに従事した後、2011年にバイアウトしたインクグロウに転籍。実施主義のコンサルティング経験を活かし、数多くのM&A案件の成約に関与。食関連事業を得意とし、業界への知見やM&A経験で支持を得ている。

RIZAPグループとアパレル業界

RIZAPグループのM&A戦略全般に関するプロコメも以前書きましたので、是非合わせてご拝読くださいませ。

「RIZAPグループはM&Aで急成長を実現する」

さて、2017年1月16日、RIZAPグループとジーンズメイト、それぞれが資本提携に関するリリースをしました。内容としては、RIZAPグループがジーンズメイトの株式に対する公開買い付けを行い、その過半数以上の株式を取得してグループ化させる、というものです。

RIZAPグループは2012年にマタニティ関連商材などを扱うエンジェリーベの買収によりアパレル業界には参入済みです。また、それ以降2015年に夢展望(アパレル小売り)、2016年にMARUKO(補正下着)を買収しており、アパレル業界が積極的に投資していく事業ドメインであることは決算説明資料を踏まえても明らかでした。2016年度上半期におけるアパレル事業売上の全体に占める割合は13%程度ですが、今回のジーンズメイト買収により、アパレル事業の売上比率は3割弱にまで伸長することとなり、RIZAPグループの主力事業の一つとなる見込みです。一方で営業利益全体に占める割合は極めて少なく、2016年2月期において約6億の営業赤字と業績低迷するジーンズメイトをグループに入れることで、グループ貢献度は更に悪化する見込みです。これをどのようにプラスへと転換していくのか、を考えます。

 

ジーンズメイトとアパレル業界

2000年ごろのジーンズメイト最盛期には、売上高は200億円を超えています。若年層向けの低価格アパレルショップとして人気を博し、一時代を築いた企業であると言えるでしょう。しかし、昨年度決算では、売上高は93億円と最盛期の半分以下となり、2009年決算から8年連続で最終赤字を計上しています。店舗数は最盛期と比較してあまり変わっていないことから、店舗当たりの売上が半減しており、当時の集客力・販売力を維持できていないことが分かります。

その背景としては、当時と比較してファッションが多様化しているがために、ジーンズメイトのファッションを好む市場が単純に縮小していること。また、ユニクロを筆頭に多様化した市場の幅広いニーズを捉える企業が市場シェアを急速に伸ばしていることで、ジーンズメイトの元々の顧客が他社に流出してしまったことがあると考えます。2000年当時約2000億円だったファーストリテイリングの売上は2016年で約8000億円にまで伸びていますし、1995年に設立されてジーンズメイト最盛期には売上が20億円にも満たなかったストライプインターナショナル(earth music&ecologyなど)は売上高1000億円を超えていますので無理もありません。

既に旬が過ぎていると言える赤字体質のジーンズメイトを、今何故RIZAPグループは買収するのでしょうか

 

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何故ジーンズメイトなのか?

何故ジーンズメイトなのか。

RIZAPグループは自社の事業ドメインを「自己投資産業」と定義づけています。その対比を「生活必需品産業」と定義し、同社では参入しない市場としています。ですから、まずジーンズメイトは自己投資産業であるということになります。自己投資産業とは、マズローの欲求5段階説における最上位である「自己実現欲求」を叶える産業としています。

<マズローの欲求5段階説とは>

人間の欲求は5つの段階を経るというもの。1段階目は生理的欲求で、「生きたい」という欲求のこと(食べたい、飲みたい)。2段階目は安全欲求で、「安全に生活したい」という欲求(住む家が欲しい、健康でいたい)。3段階目は社会的欲求で、「社会に属したい」という欲求(友達が欲しい、国籍が欲しい)。4段階目は承認欲求で、「他者に認められたい」という欲求。そして5段階目が自己実現欲求で、「自分が本当にやりたいことをやりたい」という欲求(既に社会に認められている人が更なるチャレンジをする。

※5段階説として有名ですが、自己実現欲求の上には自己超越欲求があると、後にマズローは追加発表しています。

上記の通り、「自分が本当にやりたいことをやりたい」という欲求に、ジーンズメイトという事業が応えうると判断したいということになりますが、恐らくアパレル産業自体がそういうものだと定義しているものと推定します(ファッションが自己表現的なものになりつつあるため)。

さて、その上でジーンズメイトの再生ですが、ジーンズメイトの強みを考えます。まず、赤字決算を連続してはいるものの、90店舗以上の店舗網を保有していることは強みと言えます。店舗出店には大きな投資が必要ですので、90店舗もの販売チャネルを抱えることは容易ではなく、それ自体が店舗を持たない企業と比較すれば大きな強みとなります。同社リリースでは、「リブランディング」という改革方針が掲げられていますが、リブランディングできた時にはこの店舗網が強い力を発揮することとなるでしょう。

そして、売上が減少しているとはいえ、未だ90億円もの売上高があることも強みと言えます。それだけの既存客がいるということで、この既存客のニーズを深堀して捉えることができれば、例えば机上の計算にはなりますが、既存客が1年間にジーンズメイトで購入する金額を1.5倍にできればそれだけで45億円もの規模の売上改善ができます。リリースで「商品力強化」「販売力強化」という改革方針が掲げられていますが、それがなされたときに、一から顧客を開拓するよりも既に90億もの売上分の既存客がいることで、その効果が迅速に発揮されることとなるでしょう。

最後4つ目の改革方針として、コスト構造の見直しを主体とした「業務再構築」を掲げていますが、ジーンズメイトの粗利率は約45%と業界的には決して低くはなく、即ち根本のビジネスはまだ十分に活きていると言えます。一方で、営業赤字になってしまっているということは、ビジネスを市場に届ける過程に問題や無駄などがあるということで、高収益のRIZAPが行っているPL管理やマネジメントなどの手法がその改善に役立つことになると思われます。

総じて考えると、ジーンズメイトはその低迷する業績や、メディアなどで言われるほど悪い状態ではなく(純資産は47億円もあります)、むしろ再生の可能性を非常に秘めた企業であると思います。そこに目をつけ、資本提携を実現したRIZAPグループはさすがだと思いました。今後がますます楽しみです。

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