» M&Aにおける企業提携等の継続的契約のリスク

テーマ元気寿司、シンガポールのフランチャイジーを子会社化

2016年11月末、回転寿司大手の元気寿司株式会社は、シンガポールのフランチャイジーを子会社化することを決定しました。

元気寿司は海外事業分野では主に米国に進出をしていますが、今回は現地のビジネスを直営で運営していくことでブランド価値向上を狙う見通しです。

日本の誇る食文化である「和食」は、2013年10月にユネスコの無形文化遺産に登録され、ここもと日本の食文化の中心地である築地には早朝より多くの海外観光客の姿も見ます。

その中でも「寿司」は早くから「sushi」として海外に紹介されている和食であり、先進国はもとより、今では世界中に寿司・和食専門店が存在するほどの人気と知名度を誇ります。

今回は日本の誇る文化の一つである「寿司」。回転寿司業界の今後についてプロの視点から切り込んでいきます。

「M&Aにおける企業提携等の継続的契約のリスク」

2017年2月8日
小坂俊介

弁護士

東京総合法律事務所代表パートナー。同所母体である西川茂法律事務所に2004年10月入所、2009年よりパートナー。主な業務は顧問業務。付随する個別案件として、相続・事業承継、M&AのDDや契約交渉、企業倒産等を扱う。現場主義をモットーとし、クロスボーダー案件では、東南アジア内陸部等のサイトビジットを活発に行う。

■純資産2,600万円の赤字企業を3億円で売却

元気寿司は、回転すしのチェーン展開の中でも、早くから海外展開を推し進めている。今回、シンガポールにてフランチャイズ方式によって展開していた、Genki Sushi Pte Ltd.の株式を取得して子会社化するとのことであるが、これも海外の事業展開の推進の一環と言える。

同社IRによれば、「直営で運営しブラッシュアップすることが、ブランド価値を更に高め、今後のフランチャイズ展開及び目標の達成に不可欠と判断し、取得を決定」、とのことであるが、ここでは、その買収金額(全株式譲渡価格)が302百万円であったことに注目したい。

Genki Sushi Pte Ltd.は、その経営情報(平成27年12月期の実績)によると、

純資産 26,807,410円

売上高 666,816,191円

当期利益 -13,011,906円

とのことである(1シンガポールドルを80.7円と計算)が、

これに対して、買収金額は約302百万円である。

純資産2700万円の赤字会社というのは、一般的によくある中小企業の規模感であろう。これを約3億円で売却できたことは、売主側にとっては概ね成功と評価できる事案である。Genki Sushi Pte Ltd.の譲渡株主は、現地シンガポールの3名であり、彼らは今回の取引で相当な譲渡益を獲得することとなった。

■買収価格はどのようにして決まるか。

一般に買収価格は、時価純資産+営業権(のれん代)で決まると考えられている。

時価純資産は、決算書の貸借対照表をベースに含み損益や税効果、各種リスク等を踏まえて時価相当として修正された資産額であり、一般にデュー・デリジェンスを通じて定量化されるが、一方でのれん代は概ね実質利益の3年程度が目安とされているものの、その概念は非常にあいまいである。そのため、この営業権のれん代といった純資産+αの要素をどのようにしてカウントするが、買収の成否を左右することがある。

 

中小企業においてありがちな売主側の背景として、社長に相当する承継者がいない、という問題がある。しかし、これはともすれば、「オーナー社長がいなければ事業が成り立たない」、という企業価値低下を連想する要素になる。そうした売主側の消極的動機を強調していては、買主側が高値をつけることは難しくなるし、事案として、承継者不在を理由としたM&Aでは、営業権のれん代をゼロカウントされることも珍しくない。

 

今回の元気寿司の例は、シンガポール現地の株主にとっては、好材料に恵まれた例といってよいだろう。元気寿司は、かねてより海外展開を推進し、平成26年には国内大手のかっぱ寿司との提携協議が白紙撤回となり、海外のスピード展開を目論んでいると思われる。それ故に、オペレートに一定の限界があるフランチャイジーに対して、直営化のために経営権を高値で譲り受けても、中長期視野で考えれば、さほど高い買い物ではないと考え、買収に至ったと考えられる(ウラの事情は分からないが。)。

 

こうした例をとって考えると、自社譲渡を考える売主側の立場では、自分の会社がどのような相手先企業にとって価値があるか、という買主相手の具体的イメージを持つことが重要であるということができる。

■M&Aにおける提携契約等の継続的契約のリスク

どのような会社でも強みというものがあり、その強みを生かした営業をしている。かたや、その営業の取引先にとっては、その取引が価格競争に晒されることは脅威となる。そのため、M&Aを考えるときには、一般的に営業の取引先が候補とされることが多い。要するに、M&Aの交渉は、営業と同様に自由競争の中で行われるのが一般的である。

しかし、今回の元気寿司のGenki Sushi Pte Ltd.買収はやや趣が異なる。

買収理由は、フランチャイジーの直営化、ということであるが、もしフランチャイズ契約の任意解約が認められていたとすれば、単純に現地法人とのフランチャイズ契約を解約して、別途法人設立という手段もあったであろう。しかし、こうした提携契約等の継続的契約は、契約期間中の解約に制限が設けられていることがある。

そのため、買収以外の方法としては、契約の満了を待つしかないが、それでは海外のスピード展開にとって、支障や障壁となる。つまり、今回の元気寿司の直営化のための買収は、いわば事業の支障や障壁を除去するため、という理由にも見える。

こうした提携契約やライセンス契約の継続的契約は、M&Aで一定の障壁としての存在感を示すときがある。

例えば、ヨーロッパのハイブランドの国内ライセンシー事業であれば、ブランドホルダーとの間で、ミニマムオーダー等一定の拘束を合意させられている。そのため、今回の元気寿司の例とは逆に、こうした拘束がM&Aにおける譲渡の足かせになる場合がある。

こうした意味においても、提携契約等の継続的契約の内容に不当拘束等の問題がないかどうか、日頃から、留意する必要があると言えるだろう。

 

以上

その他専門家コラム

  • 「『元気寿司、シンガポールのフランチャイジーを子会社化』に見る戦略」

    吉村史明

    公認会計士

    吉村 史明
    北海道出身。一橋大学(商学部経営学科)卒。
    平成3年公認会計士2次試験合格後、太田昭和監査法人(現新日本監査法人)に入所。金融商品取引法監査、会社法監査並びに株式公開支援業務に従事。平成7年公認会計士登録。平成12年監査法人退所後、公開準備会社に転職。公開業務終了後、独立。
    現在は、税理士法人 AKJパートナーズにて、M&Aに関わる企業デューデリジェンス・組織再編・税務、不動産投資コンサルティングに従事。

  • 「寿司ビジネスのフランチャイズによる海外展開とローカリゼーション」

    鼎博之

    弁護士

    弁護士 鼎 博之(かなえ・ひろゆき)第二東京弁護士会及びニューヨーク州弁護士会所属。早稲田大学法学部、イリノイ大学アーバナ・シャンぺーン校ロースクール修了。所属するアンダーソン・毛利・友常法律事務所において、M&A、海外進出支援業務、雇用問題・労働法に関するコンサルティングに注力している。著書・論文に「M&A実務の基礎」(商事法務 2015年)(共著)、「企業経営を育てるコーポレートガバナンス 監査役の機能強化」(THE LAWYERS 2015年)などがある。

  • 「元気寿司に見る、海外事業展開とM&A」

    照井 久雄

    中小企業診断士

    インクグロウ株式会社 取締役 事業戦略部長
    中小企業診断士
    1978年7月生まれ
    経営コンサルタントとして提携フランチャイズ本部の立ち上げをした後、証券会社で公開引受業務や中堅中小企業の資金調達の支援を行う。
    その後、中小企業を中心としたM&A業務に従事し、2013年にインクグロウ株式会社に入社。現職として数多くのM&Aを成功に導く。