» 寿司ビジネスのフランチャイズによる海外展開とローカリゼーション

テーマ元気寿司、シンガポールのフランチャイジーを子会社化

2016年11月末、回転寿司大手の元気寿司株式会社は、シンガポールのフランチャイジーを子会社化することを決定しました。

元気寿司は海外事業分野では主に米国に進出をしていますが、今回は現地のビジネスを直営で運営していくことでブランド価値向上を狙う見通しです。

日本の誇る食文化である「和食」は、2013年10月にユネスコの無形文化遺産に登録され、ここもと日本の食文化の中心地である築地には早朝より多くの海外観光客の姿も見ます。

その中でも「寿司」は早くから「sushi」として海外に紹介されている和食であり、先進国はもとより、今では世界中に寿司・和食専門店が存在するほどの人気と知名度を誇ります。

今回は日本の誇る文化の一つである「寿司」。回転寿司業界の今後についてプロの視点から切り込んでいきます。

「寿司ビジネスのフランチャイズによる海外展開とローカリゼーション」

2017年2月8日
鼎博之

弁護士

弁護士 鼎 博之(かなえ・ひろゆき)第二東京弁護士会及びニューヨーク州弁護士会所属。早稲田大学法学部、イリノイ大学アーバナ・シャンぺーン校ロースクール修了。所属するアンダーソン・毛利・友常法律事務所において、M&A、海外進出支援業務、雇用問題・労働法に関するコンサルティングに注力している。著書・論文に「M&A実務の基礎」(商事法務 2015年)(共著)、「企業経営を育てるコーポレートガバナンス 監査役の機能強化」(THE LAWYERS 2015年)などがある。

はじめに

「寿司」は、世界中で最も有名な日本食である。当初は、欧米の高級すし店で日本人の現地出向社員や日本贔屓の欧米人の社交の場として寿司店が利用されていた。他方、カリフォルニア州においては、現地で収穫されるアボカドを使用したカリフォルニア巻きのような日本とは別の食材を利用した現地化が進んだ。近年では、回転寿司と持ち帰り寿司のお陰で、高級な日本食通から中間層にまで幅広い顧客層を取り込んだために、「寿司」は世界中に広まっていった。

アジアにおいては、最初、台湾や香港ですしブームが起こり、その波は、シンガポールやマレーシア、タイ、インドネシアなどの東南アジア諸国にも広がりを見せている。

ところが、このように「寿司」のグローバル化という現象が生じている一方で、マーケットが成熟段階に入り、競争が激化していることも事実である。元気寿司は、2016年11月、シンガポール現地のフランチャイジーを子会社化することを決定した。元気寿司のフランチャイジー子会社化を題材に、海外展開におけるフランチャイズビジネス展開の方向性を探ってみたいと思う。

海外展開とビジネス方式の潮流

元気寿司のIR情報によると、同社の海外展開は1992年、ハワイに現地子会社を設立したことに始まる。翌1993年にフランチャイズ方式によって、シンガポールに展開し、以後、中国大陸、タイ、インドネシア、香港、フィリピン、カンボジアなどアジア地区を中心に世界10カ国地域の現地企業9社とフランチャイズ契約を締結し、平成28年9月末現在で151店出店し、アジア・中東地域においては130店を開設している。フランチャイズ方式での店舗展開は、現地の優良企業と契約を締結し、商標使用の許諾と経営指導及びノウハウの提供を行い、売上金から一定割合のロイヤリティを受け取ることを内容としている。寿司の提供という性質から、日々新鮮な食材の供給が不可欠の業態であり、フランチャイズ本部からの米穀、魚介類の供給が生命線である。最近では、まぐろやさんま等の魚の供給逼迫や価格変動により、特に手頃な価格で寿司を展開する元気寿司にとって、重要な事業運営のリスク要素となっている。

フランチャイズ方式による海外での事業展開は、現地の事業会社の人的資源と資本を利用し、短期間で大量かつ効率的に、また経営リスクの低減化の観点からも望ましいと思われる経営手法である。例えば、日本における海外飲食店の展開においても、マクドナルドやケンタッキーフライドチキン、あるいはスターバックスなど、フランチャイズ方式が主流である。これは、フランチャイズ本部にとって、商慣習の違いや人的資源の問題から、商標使用の許諾と経営指導及びノウハウの提供を行うことにより、資本の投入なしにロイヤリティの回収を図ることができる効率的な経営手法であるからである。

一方で、マーケットが飽和、成熟段階に入ると、顧客のニーズが変化し、多様化が進んでくる。シンガポールは、2015年の統計で世界中の国の中で、一人あたりの国民総所得が52000ドル、米国に次ぐ第9位であり、一人あたりの国民総所得が36000ドル世界第24位の日本より遙か上位に位置する国である。したがって、日本より豊かな国民の多様なニーズに対応するためには、回転寿司だけではなく、新業態の開発や新規出店など、日本本社からのてこ入れが必要な拠点であると考えたことは極めて必然のことである。

寿司のグローバル化とローカリゼーション(現地化)

シンガポールにおいては、寿司のグローバル化とローカリゼーション(現地化)と呼ばれる現象が発生している。通常、寿司は食材が生の魚介類ということで、年中暑い東南アジアにおいては、敬遠されていた食材である。そこで、シンガポールにおいては、現地の人の味に対する好みも手伝って、日本よりは塩分がより強く、スパイシーで、かつオイリーな味となっている。日本で通常使用される醤油やわさびだけでなく、唐辛子、カレー、黒胡椒などの香辛料がふんだんに使用される。したがって、日本ではまず見られないスパイシーツナ巻き、スパイシーサーモン巻き、唐辛子サーモン巻き、唐辛子かに巻き、唐辛子えび巻き、カレー寿司、黒胡椒かに寿司、えび天寿司、ディープフライ豆腐巻きなどがメニューに並んでいる。さらに西洋料理の食材を使用したバーガー寿司、チーズ寿司まである。

また、高級店を除いて、寿司飯には、カリフォルニア米やオーストラリア米が使用されているが、これらの米も高価なので、いわゆる日本のねばりのあるジャポニカ米の代わりに安価なタイ米が使用される店も多い。

さらに、日本の寿司店では修行10年というように寿司職人になるための修行が施されることが多いが、シンガポールの寿司店では、シンガポールの現地の職人が3ヶ月か6ヶ月のトレーニングで寿司職人になる。したがって、これらの現地人寿司職人は、「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」というようないくつかの挨拶のための日本語を知っているだけで、それ以外の日本語が使用されることは稀である。

このように、食材から職人までローカリゼーションが進んだお陰で、寿司は東南アジアで確固たる地位を占めるようになっている。

今回の現地フランチャイジーの買収は、海外展開に新展開をもたらす好機

上記のように、寿司のグローバル化とローカリゼーションは、フランチャイズ方式に様々な転機をもたらしている。シンガポールは、地理的特性と経済的な立ち位置から、今後の東南アジアやオセアニア地区に展開するにあたって、寿司店のフランチャイズビジネスの発信基地になり得る存在である。

 

もっとも、現地フランチャイジーの経営が好調な場合は、5年あるいは10年の契約期間が満了するまでには、本部からの意向は反映しにくい。まして、単純に契約期間が満了して本部が更新の拒絶をしようとしても、現地のフランチャイジー保護法などの規制があり、簡単に契約を終了することは不可能な場合がある。したがって、契約期間の満了により、フランチャイズ契約を解除し、提携相手を変更したり、直営に切り替えようとすることで多くの紛争が発生している。私の経験でも、フランチャイズ契約の更新時のトラブルで裁判沙汰になった多くの事例をみている。

今回の現地フランチャイジーであるGenki Sushi Singapore Pte. Ltd.の最近3カ年の売上高と当期利益を見てみよう。(1シンガポールドル80円として計算)

2013年12月期 売上高332,098,560円   当期利益△10,938,880円

2014年12月期  売上高427,240,720円   当期利益 18,487,040円

2015年12月期 売上高661,032,160円   当期利益△12,899,040円

上記のとおり、売上高が上昇している割には利益が上がっていないし、過去3年間で2回も赤字を計上している。このような状況下で、現地会社のオーナーは、本部に対して、3億2百万円での売却に応じたと思われる。

結局、元気寿司本部は、現地フランチャイジーの了承を得て、直営化の決断に至ったのであり、今後シンガポールに限らず、アジア新興国におけるフランチャイズの展開のために一歩進めたということが言える。

法的側面からみれば、フランチャイズ契約において、2年ないし3年間、赤字が継続した場合はフランチャイズ契約を解除することができるという契約条項を加えることが、赤字のフランチャイジーとの契約を解消するために必要かつ有効な紛争リスク回避の方策と言えよう。

終わりに

上記の元気寿司の事例は、シンガポールという富裕層から中間層の多いマーケットにおいて、既に寿司店が成熟段階に入っており、その結果顧客のニーズが変化し、多様化が進んでくるという典型的な事例である。そのような成熟したマーケットにおいて、日本の寿司文化を中間層まで普及させたという元気寿司でさえ、何らかの改善策をとらない限り、時代の要請に応じられないのではないかと危機感にかられ、今回、現地フランチャイジーの子会社化という一歩進んだ手法をとった。この意味において時代の先駆けを象徴する事例と思われる。将来の発展を期待しつつ、今後の推移を見守りたい。 (了)

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    吉村史明

    公認会計士

    吉村 史明
    北海道出身。一橋大学(商学部経営学科)卒。
    平成3年公認会計士2次試験合格後、太田昭和監査法人(現新日本監査法人)に入所。金融商品取引法監査、会社法監査並びに株式公開支援業務に従事。平成7年公認会計士登録。平成12年監査法人退所後、公開準備会社に転職。公開業務終了後、独立。
    現在は、税理士法人 AKJパートナーズにて、M&Aに関わる企業デューデリジェンス・組織再編・税務、不動産投資コンサルティングに従事。

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    小坂俊介

    弁護士

    東京総合法律事務所代表パートナー。同所母体である西川茂法律事務所に2004年10月入所、2009年よりパートナー。主な業務は顧問業務。付随する個別案件として、相続・事業承継、M&AのDDや契約交渉、企業倒産等を扱う。現場主義をモットーとし、クロスボーダー案件では、東南アジア内陸部等のサイトビジットを活発に行う。

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    照井 久雄

    中小企業診断士

    インクグロウ株式会社 取締役 事業戦略部長
    中小企業診断士
    1978年7月生まれ
    経営コンサルタントとして提携フランチャイズ本部の立ち上げをした後、証券会社で公開引受業務や中堅中小企業の資金調達の支援を行う。
    その後、中小企業を中心としたM&A業務に従事し、2013年にインクグロウ株式会社に入社。現職として数多くのM&Aを成功に導く。