» オウチーノの『決断』~なぜTOBに応じたのか~

テーマクックパッド創業者によるオウチーノ買収について

2016年10月、ある会社株式のTOB(公開買い付け)が発表されました。

不動産情報サイトを運営するオウチーノ(証券コード:6084)が、クックパッドの前社長穐田誉輝氏が同社の株式のTOBを表明し、同社がその買い付けに応じました。

このTOBの理由は何か、今後どの様に進展していくのか、そもそも、TOBとは何か。一見難しく、M&Aと言えばこのTOBを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。

今回もプロの視点から切り込んで参ります!!

「オウチーノの『決断』~なぜTOBに応じたのか~」

2017年2月15日
花澤健司

公認会計士

大手監査法人で会計監査業務および会計アドバイザリー(IPO、企業価値評価、企業再生及びM&Aのための財務デューデリジェンス)の業務に従事したほか、PE Fundおよび不動産ファンドに対して、M&Aアドバイス及び会計スキーム構築アドバイス、内部統制アドバイスに行った。2012年1月より独立開業、バイオベンチャーのCFOや資金調達支援といったコンサルティング以外の業務も積極的に行っている。

M&A綜合会計事務所 公認会計士 花澤健司

穐田氏の名前は記憶に新しい

不動産ポータルサイトを運営する株式会社オウチーノ(以下、「オウチーノ」といいます。)は2016年10月28日、穐田誉輝氏(以下、「穐田氏」という。)による株式公開買い付け(TOB)と自己株式の処分、穐田氏および他4名(以下、5名を総称して「穐田氏ら」という。)に対して第3者割当増資を実施することを発表しました。

 

この穐田氏の名前は記憶に新しい。それは穐田氏が現在も取締役兼執行役として就任しているクックパッドにおいて、2016年1月にクックパッドの創業者との間でお家騒動があり、同社社長を退任するということが世間の注目を集めたことにある。

ただ、この穐田氏は、元々ネット業界では著名な投資家・経営者であり、大手VC経て、2001年よりカカクコム代表取締役に就任され、同社の東証マザーズへの上場(2003年、2005年には東証1部へ市場変更)を経て、クックパッドに2007年より社外取締役として就任し、以降クックパッドの上場(2009年、2011年には東証1部へ市場変更)および社長退任までの間業績を伸ばし続けてきた経緯がある。

 

オウチーノ及び井端社長はなぜこのような決断をする必要があったのか

クックパッドのお家騒動はさておき、穐田氏が実施したオウチーノへのTOBそのものは創業者で現社長の井端純一氏及び井端氏の配偶者である井端まどか氏が応募した時点で成立するため、いわば出来レースであったのだが、2016年12月3日にTOBが、同年12月9日には第3者割当増資及び自己株式の処分が無事に終了したことがオウチーノから発表されている。この一連の取引により、オウチーノの約66%の株式を穐田氏らで保有することになっている。なお、上場は維持される。

 

この発表により、オウチーノの株価はどうなったかというと2016年10月12日に793円の年初来安値を記録していたのが、一転TOB価格である807円を大幅に更新し4,640円(2017年2月6日)まで高騰している。

 

ではオウチーノ及び井端社長はなぜこのような決断をする必要があったのか。同社の足元の業績をみてみると下記の通りである。

 

 

オウチーノの業績

 

 

 

 

 

当期利益、営業CFは2年連続赤字であり、営業CFのマイナス分を2015年12月期に短期借入金(財務CFのプラス)で補っている状況である。

株価についても、このような会社の状況を反映し、時価総額は2013年12月期に上場してから約5分の1になっている。

オウチーノがここまで追い込まれた原因は一つにはWeb戦略の遅れ等が指摘されている。同社の売上の過半をしめる不動産ポータルサイトは物件の掲載情報は㈱ネクストが運営するHOME’Sや㈱リクルートが運営するSUUMOに比べて2倍以上の開きがあるという情報もあり、収益自体も伸び悩んでいる。

一方でオウチーノのただ手をこまねいていたわけではなく同社の中期経営計画「Vision2017」を策定し、サイト運営の強化や不動産の売買・仲介するプロパティ事業といった新規事業へ進出により、売上規模を2016年12月期に25億円、2017年12月期には41億円を目指すことが公表されていた。しかし、結果としては同社の業績は芳しくない状況にある。まず、不動産の売買・仲介するプロパティ事業に関しては中期経営計画の結果を待たず、2017年3月をもって撤退を表明し、また、同事業に関連しモンゴルの建設業者と結んだ大型アパートメントの開発に絡んで発生した債権約1億6千万円について回収に懸念が発生している。この回収懸念債権はオウチーノの直近の連結純資産の20%にもあたり、仮に債権が回収できないとなると同社に与える影響は極めて大きいものと考えられる。

また、新規事業として全国の医師・病院検索サイト「Dr.O-uccino」や台湾における協業ビジネスのインバウンド事業(外国富裕層の日本不動産への投資ニーズに 対する仲介ビジネス)も減損損失や協業先への貸付金の回収可能性に疑義が発生していること等に関連する損失を計上するため、2016年12月期は目標の売上高25億円には遠く届かず、約11億円の売上と3.8億円程度の当期純損失を計上する予定である。現状では同社が描いていた中期経営計画の達成は困難ばかりでなく、資金的な問題も発生している状況にある。

今回のTOBを含む一連の取引に関してなぜ実施されたのか

このような状況下の中で、実施された今回のTOBを含む一連の取引に関してなぜ実施されたのか、穐田氏らの勝算はどこにあるだろうか。

 

TOBに先駆けて公表された「当社株券に対する公開買付けに関する意見表明及び投資契約書締結のお知らせ」には、今後インターネットを利用した不動産取引は拡大していくと考えられ、ユーザー重視の姿勢を徹底した経営体制の構築や人材確保を図り、ユーザー利便性の高いサービスを開発・提供していくことで事業価値の増大を図ると記載されている。また、オウチーノは穐田氏からは資金面もさることながら、人材強化を図るためのサポートも期待されていることが表明されている。確かに今回の第3者割当増資の引受人の穐田氏らの中にはクックパッドの元CTOも含まれており、彼らはオウチーノと顧問契約を締結し、オウチーノの事業運営のサポートをするとのことである。これらのIRを見る限りは新しいことに手を出すのではなく、まずは穐田氏が中心になり本業の不動産ポータルサイト事業の強化と収益基盤の安定を目指していくようである。ただ、穐田氏は現在クックパッドの取締役であり、その他も方々もまずは顧問契約となっているため取締役等責任のある立場に就任するわけではない。この点についてはオウチーノからも穐田氏サイドからも現時点では何も公表されていない。

次の焦点は、2017年3月末に予定されているオウチーノの株主総会である。現在は、現社長の井端氏の退任が決まっているのみであり、その他株主総会に向けて、穐田氏がどのように動き、また今後オウチーノが不動産ポータルサイトの事業者としてどのようなサービス展開をされるのか、穐田氏の次の一手に期待したい。

その他専門家コラム

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    小林幸与

    弁護士・税理士

    明治大学法学部卒業後の昭和61年から弁護士活動開始。結婚出産子育てを経て、平成9年より豊島区池袋にて弁護士活動を再開。その後、東京税理士会に登録して税務分野に拡大。法人化を機会に平成26年東京銀座に進出。現在は、弁護士法人リーガル東京と税理士法人リーガル東京の代表として、銀座本店と池袋支店で弁護士5名・税理士2名の体制にて、相続税務や事業承継を含む相続全般・不動産関係に特化した事務所を経営する。

  • 「オウチーノ買収を例にした公開買付けと第三者割当増資を組み合わせた取引の留意点」

    松本甚之助

    弁護士

    2006年弁護士登録、2012年アメリカ合衆国ニューヨーク州弁護士登録。クロスボーダーM&Aを含むM&A案件と国際取引、国際紛争、国際倒産処理手続等の渉外案件を中心に取り扱う。現在三宅坂総合法律事務所のパートナーとして、国内案件のみならずASEAN諸国や中国・インドなどにおけるクロスボーダーM&A等提携取引の事例と相談を多く手がけている。

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    弁護士

    弁護士 飯島康央
    紀尾井町法律事務所所属。2000年4月弁護士登録。2015年度第二東京弁護士会副会長。2015年6月からパルシステム生活協同組合連合会員外監事を務めています。
    離婚や相続問題、交通事故や消費者事件などの他、企業間の法的トラブルに関する訴訟事件や契約書の作成、審査、債権回収、労務問題など、中小企業の法務支援にも力を注いでいます。

  • 「クックパッド元代表のTOBによりオウチーノは再成長するのか」

    照井 久雄

    中小企業診断士

    インクグロウ株式会社 取締役 事業戦略部長
    中小企業診断士
    1978年7月生まれ
    経営コンサルタントとして提携フランチャイズ本部の立ち上げをした後、証券会社で公開引受業務や中堅中小企業の資金調達の支援を行う。
    その後、中小企業を中心としたM&A業務に従事し、2013年にインクグロウ株式会社に入社。現職として数多くのM&Aを成功に導く。