» クックパッド前経営者によるオウチーノ買収―その法律と税務を解説

テーマクックパッド創業者によるオウチーノ買収について

2016年10月、ある会社株式のTOB(公開買い付け)が発表されました。

不動産情報サイトを運営するオウチーノ(証券コード:6084)が、クックパッドの前社長穐田誉輝氏が同社の株式のTOBを表明し、同社がその買い付けに応じました。

このTOBの理由は何か、今後どの様に進展していくのか、そもそも、TOBとは何か。一見難しく、M&Aと言えばこのTOBを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。

今回もプロの視点から切り込んで参ります!!

「クックパッド前経営者によるオウチーノ買収―その法律と税務を解説」

2017年2月15日
小林幸与

弁護士・税理士

明治大学法学部卒業後の昭和61年から弁護士活動開始。結婚出産子育てを経て、平成9年より豊島区池袋にて弁護士活動を再開。その後、東京税理士会に登録して税務分野に拡大。法人化を機会に平成26年東京銀座に進出。現在は、弁護士法人リーガル東京と税理士法人リーガル東京の代表として、銀座本店と池袋支店で弁護士5名・税理士2名の体制にて、相続税務や事業承継を含む相続全般・不動産関係に特化した事務所を経営する。

2017年2月13日

弁護士・税理士 小林幸与

1.オウチーノ買収の経緯・手法

2.株式公開買付(TOB)の法律と税務

3.第三者割当増資の法律税務問題

1.オウチーノ買収の経緯・手法について

料理情報サイトを運営するクックパッド㈱は、佐野陽光氏が創業した会社ですが、同社に出資し上場会社になるまで大きくしたのは、クックパッド㈱の代表取締役であった穐田誉輝氏でした。ところが創業者の佐野氏と社長の穐田氏との間で経営方針の対立が生じ、2016年3月、定時株主総会後の取締役会で、穐田氏はクックパッド㈱の代表取締役を解任されました。

その後穐田氏は、保有していたクックパッド㈱の株式の大半を売却し、同年10月28日、東証マザーズに上場する㈱オウチーノの株式公開買付を発表しました。㈱オウチーノ経営陣は、直ちに穐田氏が実施する株式公開買付(TOB)に賛同することを表明し、穐田氏及びクックパッド㈱の執行役員だった4名に第三者割当増資の方法で新株を取得させること、かつ公開買付者を引受先とした自己株式の処分を実施すると発表しました。

㈱オウチーノ創業者の井端純一氏は、自らが保有する同社株式22%分を穐田氏に売却し、2017年3月29日に任期満了で代表取締役を退任する予定です。なお株式公開買付の買付代金は約5億2000万円、新株発行と自己株式処分による調達資金は約9億円であり、穐田氏側は、これによって㈱オウチーノの約66%の株式を保有することになります。

このような㈱オウチーノ買収について、穐田氏自身は、投資目的による出資と言っていますが、額面のとおり受け取られていません。2017年3月開催予定の㈱オウチーノ定時株主総会で経営陣が一新され、経営手腕ある穐田氏とクックパッド㈱の執行役員だった4名が、㈱オウチーノの経営を担っていくとの期待から、同社の株式が買われ、高騰しました。

2.株式公開買付の法律と税務について

穐田氏が実施した株式公開買付(TOB, takeover bid)とは、特定の株式会社の株式買付について、買付価格・買付期間・買取株式数を公告し、不特定多数の株主から株式市場外で株式を買い集める制度です。対象会社の経営権を取得する目的で実施されることが多いようです。

買収される会社の経営陣の賛同を得て実施する株式公開買付は、友好的TOBと言われ、買付価格の競り上げる圧力が不十分なことから、買付価格の妥当性について売り手株主側に不満が生じることがあります。穐田氏によるオウチーノ株式の買付は、友好的TOBの一つでしょう。

買収される会社の経営陣の賛同を得られないのに実施される株式公開買付は、敵対的TOBと言われ、経営陣が買収対抗策を講じます。

金融商品取引法は、上場株式を発行会社以外の者が市場外(市場内の立会外取引を含む)で買付などするときには、買い手側の買付後の株式保有割合が3分の1超になる場合(または60日間で10名超から買付後の株式保有割合が5%を超える場合)などには、原則として公開買付の方法によらなければならないとされています。

株式公開買付に応じなかった少数株主については、スクーイーズ・アウト(少数株主排除)の手続を実施することもできますが、今回のオウチーノ買収では、その手法は取られていません。

株式公開買付に応じた個人株主は、通常の株式市場での売買と同様に、譲渡益に課税され、申告分離課税の対象となります。また法人株主が、株式公開買付に応じた場合も、その譲渡益に課税されます。

また上場会社が自社株式を公開買付した場合、みなし配当課税などの問題が生じますが、オウチーノ買収は、そのケースではありません。

3、第三者割当増資の法律と税務について

オウチーノ側が実施した第三者割当増資とは、特定の第三者に新株引受権を与える方法による増資手続であり、上場会社の場合、資本提携・事業支援・会社再建などのために実施されることが多いようです。また敵対的買収の対象となった会社が防衛策の一環として行うケースもあります。

第三者割当増資は、発行価額が適正価額(時価)なら取締役会決議で発行できますが、特に有利な価額で新株発行するときは株主総会の特別決議が必要であり、また著しく不公正は方法による新株発行は、発行の差し止め請求の対象になります。なお第三者割当増資を行う会社は、有価証券届出書に第三者割当の合理性必要性に関する会社の判断を説明することが義務付けられています。

ところで第三者割当増資は、適正な価額(時価)で発行するならば、発行会社側も新株取得者側も、課税されることはありません。

しかし第三者(個人・法人)が、有利な発行価額で新株を取得すると、その発行価額と適正価額(時価)との差額について、贈与または経済的利益の供与があったものとみなされ、課税対象になります。

すなわち株式の有利発行をするなら既存株主に平等に新株の引受けをさせさせるべきであり、一部の株主または第三者に対する新株の発行は、時価による新株発行でないと、株式引受側に課税リスクが生じることに注意してください。

 

その他専門家コラム

  • 「オウチーノの『決断』~なぜTOBに応じたのか~」

    花澤健司

    公認会計士

    大手監査法人で会計監査業務および会計アドバイザリー(IPO、企業価値評価、企業再生及びM&Aのための財務デューデリジェンス)の業務に従事したほか、PE Fundおよび不動産ファンドに対して、M&Aアドバイス及び会計スキーム構築アドバイス、内部統制アドバイスに行った。2012年1月より独立開業、バイオベンチャーのCFOや資金調達支援といったコンサルティング以外の業務も積極的に行っている。

  • 「オウチーノ買収を例にした公開買付けと第三者割当増資を組み合わせた取引の留意点」

    松本甚之助

    弁護士

    2006年弁護士登録、2012年アメリカ合衆国ニューヨーク州弁護士登録。クロスボーダーM&Aを含むM&A案件と国際取引、国際紛争、国際倒産処理手続等の渉外案件を中心に取り扱う。現在三宅坂総合法律事務所のパートナーとして、国内案件のみならずASEAN諸国や中国・インドなどにおけるクロスボーダーM&A等提携取引の事例と相談を多く手がけている。

  • 「「クックパッド前代表取締役によるオウチーノ買収」」

    飯島康央

    弁護士

    弁護士 飯島康央
    紀尾井町法律事務所所属。2000年4月弁護士登録。2015年度第二東京弁護士会副会長。2015年6月からパルシステム生活協同組合連合会員外監事を務めています。
    離婚や相続問題、交通事故や消費者事件などの他、企業間の法的トラブルに関する訴訟事件や契約書の作成、審査、債権回収、労務問題など、中小企業の法務支援にも力を注いでいます。

  • 「クックパッド元代表のTOBによりオウチーノは再成長するのか」

    照井 久雄

    中小企業診断士

    インクグロウ株式会社 取締役 事業戦略部長
    中小企業診断士
    1978年7月生まれ
    経営コンサルタントとして提携フランチャイズ本部の立ち上げをした後、証券会社で公開引受業務や中堅中小企業の資金調達の支援を行う。
    その後、中小企業を中心としたM&A業務に従事し、2013年にインクグロウ株式会社に入社。現職として数多くのM&Aを成功に導く。