» アサヒビール、旧SABミラーの東欧事業を買収

テーマアサヒビールが世界最大手のビール会社から一部事業を買収

2016年12月13日にアサヒビールが東欧のビール事業を買収することについて大筋合意したと発表しました。

興味深いのはその相手先がビール会社世界最大手のアンハイザー・ブッシュ・インベブ(ベルギー)という点です。

世界最大手が切り離す事業を、アサヒビールはどのような目的で買収するのでしょうか。

「アサヒビール、旧SABミラーの東欧事業を買収」

2017年3月7日
家永勲

弁護士
家永 勲 弁護士法人ALG&Associates パートナー・弁護士 東京弁護士会所属 上場企業が手がけるM&Aにおける法務DDの責任者として対応するほか、会社法を活用した買収目的に適したスキームの策定等も実践し、M&Aに関わる法務問題を幅広く取り扱っている。 企業法務におけるトラブルへの対応とその予防策に関するセミナーのほかストレスチェックやマイナンバーなど最新の法改正に即したセミナーや執筆も多数行っている。

昨年、アサヒビールホールディングス株式会社が、中東欧5ヶ国の事業会社および「Pilsner Urquell」をはじめとする有力なブランドの知的財産権の譲渡を受けるという、大規模な国際的M&Aが実施されました。

当該M&Aの取引価額が、日本円にして約8883億円という高額であったことが報道においても広く取りざたされており、このような巨額なM&Aの実施において役員がいかなる情報に基づき、判断に至ったのか非常に気になるところです。

今回は、M&Aにかかる経営判断が会社法上の役員責任においてどのように判断されているのかについて、見ていこうと思います。

 

  • 株式価格の決定と経営判断の関係について

過去に、日本国内におけるM&Aの実施にかかる取締役らの責任について、裁判所が判断したケースが存在します。特に、参照される判例として、平成22年7月15日に最高裁が下した判決が存在します。

事案の概要は、持株会社による事業会社の完全子会社化に当たって、持株会社が、合意により事業会社の株式の買い取りを進めていたところ、株式の価額が第三者による評価の約5倍であったことを理由に、株主が、取締役らの善管注意義務違反を理由として損害賠償責任を負担すべきとして提訴したという事案でした。

一見すると、第三者による評価の約5倍という株式の価額は、不合理なようにも思われますが、このような決断を行った役員らの責任を問うことができるのかが問題となりました。

最高裁は、「事業再編計画の策定は、完全子会社とすることのメリットの評価を含め、将来予測にわたる経営上の専門的判断にゆだねられていると解される。」と判断し、その決定の過程、内容に著しく不合理な点がない限り、取締役の善管注意義務に違反するものではないと判断基準を整理しました。

これは、アメリカ等においては、「Business Judgment Rule(経営判断の原則)」と呼ばれる、役員らの経営責任の問い方を日本の会社法に基づく役員の賠償責任を整理したものといわれています。

この判例においては、事案に即して、取締役は、「完全子会社化するという目的」のために、①株式の評価額以外にも、②取得の必要性、③財務上の負担、④株式取得を円滑に進める必要性の程度等をも総合考慮することを認めています。

 

  • 本件巨額買収における役員らの判断について

本件買収については、事前の予測からは、推定評価額は約6900億円などと報道されており、買収決定の報道直後にはアサヒビールホールディングスの株価が続落するなどの影響が出ていました。

しかしながら、経営判断の原則に即して考えてみると、その目的や本件買収における取引過程を踏まえると、著しく不合理とはいえるものではないといえるでしょう。

まず、本件買収における目的は、アサヒビールホールディングス株式会社が「グローバルプレイヤーとして独自のポジションを確立する」という長期ビジョンの達成に向けて、「国際事業の成長エンジン化による『稼ぐ力』の強化」という戦略の一環として実行されています。とすると、買収対象としては、自社が保有していない強みとして十分なブランド力を有しているなど代替困難な価値を有していることは重要であると考えられます。また、本件買収は、入札方式によって行われたとの報道からすると、代替困難なブランド力を獲得するために必要な価額を決定しなければならず、推定的な価値よりも高額となることもやむをえない方式であったともいえます。

以上のようなことを踏まえると、価格決定の側面だけをみて、推定評価額よりも高額であったとしても、海外におけるブランド力の強化の重要性(特に、西欧における事業基盤を既に獲得していた点とのシナジー効果などの予測)という目的やその獲得の必要性を踏まえて、将来的な点も含めて財務上の負担を正確に予測して行われたとすれば、役員らの責任が生じる可能性は低いといえるでしょう。

以上

 

その他専門家コラム

  • 「リーガル面から視る、アサヒビールの欧州企業の買収戦略」

    阪野公夫

    弁護士

    阪野公夫法律事務所 代表(愛知県弁護士会所属) 1974年生まれ。早大卒。2003年に弁護士登録。主に愛知県や名古屋市における、中小・中堅企業の倒産や事業再生・M&Aの案件に携わる。最近では、コア部門の事業譲渡と清算を行う第二会社方式による再生案件に数多く関与。企業破産や破産管財人での実績も多数。2013年3月には「金融円滑化法終了を踏まえた事業再生の最新実務とM&Aの活用方法」の講演を共催。

  • 「アサヒビールの買収は高値づかみか?-「セールス型買収」の見地からみると」

    川井隆史

    公認会計士

    当時世界最大級の会計・コンサル企業であったアーサーアンダーセン、米コカ・コーラやGEなどのグローバル企業で事業計画やM&A後のインテグレーション責任者など従事後、その経験を生かし外資系日本法人のCFOや上場ベンチャー企業の役員などを経て創業。現在ハンズオン・CFO・パートナーズ㈱ 代表取締役社長として PMI業務(買収後統合業務)や外資系企業・ベンチャー企業の外部CFO業務、経営改善・税務会計コンサルティングなどを行っている。

  • 「アサヒビール,旧SABミラーの東欧事業を買収」

    藤原宏高

    弁護士

    弁護士法人ひかり総合法律事務所、代表弁護士の藤原宏高です。 2006年~2014年までミネベア株式会社社外監査役、2016年~現在は、株式会社三越伊勢丹ホールディングスの社外監査役を務めております。 これまで顧客本位のリーガルサービスを目標として,ワンストップサービスを実現させるべく海外法律事務所ともネットワークを構築し,中小企業の海外進出支援や,中小企業の事業承継とM&A取引などに積極的に取り組んで参りました。