» みんなのウェディング取締役による同社株式の公開買付け

テーマクックパッドの創業者が「みんなのウェディング」をバイアウト

2016年12月22日、みんなのウェディング社の取締役会長である穐田誉輝氏が同社をMBOすると発表しました。

穐田誉輝氏はクックパッドの前社長・創業者で、クックパッド退任後、不動産情報サイトを運営するオウチーノを公開買付で買収するなど、資本家としての積極的な活動を見せています。

今回は「みんなのウェディング」のバイアウトについて考察します。

「みんなのウェディング取締役による同社株式の公開買付け」

2017年3月22日
中島成

弁護士

昭和34年8月生 東京大学法学部卒 裁判官を経て昭和63年4月弁護士。中島成総合
法律事務所を主宰。日本商工会議所・東京商工会議所「会社法制の見直しに関する検
討準備会」委員、東京商工会議所「経済法規・CSR委員会」委員等を務める。平成
16年度まで中小企業診断士試験委員(経営法務)。全国地方銀行協会研修所などで
の講演多数。『図解 会社法のしくみ』(日本実業出版社)『民事再生法の解説~企
業再生手続~』(ネットスクール)など著書多数。

 

【株式公開買付け(※)を手段とするMBO】

結婚式場選びの口コミサイト等を運営する㈱ みんなのウェディング(東証マザーズ上場)の株式について、同社取締役である穐田誉輝氏個人が平成28年12月26日から平成29年2月28日までの期間で株式公開買付け(TOB=Take Over Bid)(以下「本件公開買付け」)を行った。これによって、同年3月7日時点で、穐田氏はみんなのウェディングの株式58.10%を所有する支配株主となった。

穐田氏は、平成27年7月にみんなのウェディングの取締役会長に就任しており、本件公開買付けは、公開買付けを手段とした取締役による会社支配権獲得だから、MBO(Management Buyout=経営陣による買収)といわれるものである。

なお、既に穐田氏は、本件公開買付け以前にみんなのウェディング株式100万株(保有比率12.7%)所有していた。

 

※「株式公開買付け」

買付価格,買付予定数等を電子公告システム(EDINET)で公開し、東証等の金融商品取引市場の外で不特定多数に対し株式買付けを申込む方法で行われる株式の取得

 

【クックパッド㈱との関係 ~本件公開買付けの背景~】

他方、料理レシピ等の情報提供サービスを運営しているクックパッド㈱(東証1部上場)も、平成27年4月から5月にかけて、買付価格1株1400円で、みんなのウェディングに対する株式公開買付を実施していた。

結果、クックパッドは26.88%の株式を有する株主になり、クックパッド代表執行役でもあった穐田氏の所有株と併せると40%の株式を所有するに至った。その後、 みんなのウェディングの取締役の過半数もクックパッド関係者となり、みんなのウェディングはクックパッドの連結子会社となっていた。

したがって、この段階では、穐田氏は、クックパッド側としてみんなのウェディングの経営権を行使し、それをクックパッドの事業戦略に役立てる目論見であったといえる。

しかしその後、穐田氏は、クックパッド創業者の佐野陽光氏と事業多角化をめぐる経営方針で対立し、クックパッド株式を平成28年8月に大量売却した(日経新聞電子版 平成28年12月12日)

そしてその後、穐田氏は、クックパッドから本件公開買付けに応じる承諾を得たうえで、本件公開買付けを実施した。クックパッドは みんなのウェディング株式買い入れ価格一株1400円と本件公開買付けによって支払われる価格一株1000円の差額から生じる株式評価損8億3700万円を計上する見込みとなった。

したがって本件公開買付けの背景には、クックパッドの事業のあり方をめぐって、みんなのウェディングを組み込む等して多角化しようとする穐田氏と、料理レシピなどに集中しようとする佐野氏の路線対立があり、その結果、みんなのウェディングの支配権は穐田氏に集中することとし、クックパッドは、みんなのウェディング経営から撤退するという棲み分けが意図されたことがあったといえる。

 

【本件公開買付けのような取締役によるMBOは、取締役と会社・株主との利益相反行為にならないか】

本件公開買付け当時、穐田氏は みんなのウェディングの取締役だった。取締役には、会社に対する忠実義務(※)があり(会社法355条)、企業価値を上げることで株主の利益を実現すべき立場にある。

ところが本件公開買付けは、取締役が他の株主から株式を大量取得しようとするものだから、まず価格で株主と利益が対立する。取締役は価格が低いほどよいし、売却しようとする株主は高いほどよい。それだけでなく、取締役に株式が集中して上場が廃止されるのであれば残存株主の利益を害する。当該取締役に支配が集中することで会社の事業にマイナスとなることが明らかな場合も、MBOは会社・株主の利益と対立する。

 

※「忠実義務」

取締役個人の利益と会社の利益が対立したときは会社の利益を優先すべき義務

 

そのため、経産省のMBOに関する指針(平成19年9月4日)は、

・MBOが意図的に株価を下げて実施されようとしていないことについて株主に情報を開示すること、また公正な評価機関の価格算定書を取得すること、

・第三者委員会にMBOの合理性について意見を求めること、

・公開買付け期間を長めに設定し、競争者たる他の公開買付者が現れ得る期間を取ること、公開買付け成立のための取得株式数の下限を高く設定し、なるべく多数の株主の意思が反映されるようにすること等を求めている。

本件は一株1000円での公開買付けけであった。独立した第三者評価機関による3種の算定方法によれば、一株価格は、734円から1200円で、公開買付けけ発表日である平成28年12月22日の株式市場の終値は804円だった。したがって、算定値の中間値近く、発表日終値の24%プラスで価格設定されたことで、意図的に低い株価で公開買付けを実施しようとするものではないことが示されているといえる。 ただし、公開買付けが終了した後である平成29年3月10日時点では株価は1370円になっている。この時点で公開買付け価格の37%プラスである。市場は本件公開買付けに好感を示したといえるだろう。

また本件公開買付けでは、みんなのウェディング、及びクックパッドから独立性を有する第三者委員会が設置され、本件公開買付けはその後も上場を維持することが前提とされていたことなどから、他の株主の利益も配慮されている等とされている。

公開買付け期間は30営業日とされた。法定最短期間20営業日より長めに設定されている。10日しか最短より長くない理由は、既にクックパッドが本件公開買付けに応じると平成28年12月22日に公表していため、対抗して公開買付けを行う者が現れる可能性が事実上なかったことによると考えられる。

他方で、買付数の下限は、既にクックパッド所有の204万7000株と同数に定められたから、できるだけ多くの株主の賛同を得るというガイドラインにはそぐわないようにも思われる。

しかし、事前に公開買付けに応じる約束ができていたクックパッドら5社所有の株式が合計325万8200株(所有割合41.39%)であるのに対し、本件公開買付けにおける買付予定数の上限は419万5700株とされたから、約100万株程度(所有割合約11%)は、他の株主からの買付けが予定されていた。一応の配慮はされたといえるであろう。

 

【最後に】

株式取得資金について、本件では自己資金等で賄われた可能性があるものの、通常はMBOを行おうとする取締役以外に、資金を用意する投資ファンドや金融機関が登場し、その分利益相反関係がさらに錯綜する。

この点、中小企業でも事業承継等のためにMBOが行われることがある。しかしそれとは異なり、上場企業のMBOは、「投資家(株主)に対する公正の確保」が特に強く求められる。関係者は、そのことを常に意識しておかなければならないことになる。

(終)

その他専門家コラム

  • 「クックパッド前社長によるみんなのウェディングMBO」

    北川朝恵

    弁護士

    紀尾井町法律事務所所属。慶應義塾大学卒。2004年10月弁護士登録。2009年度第二東京弁護士会常議員。2014年度日本弁護士連合会代議員。2007年度から現在に至るまで第二東京弁護士会刑事弁護委員会副委員長。企業法務事件にとどまらず、労働事件、一般民事事件、家事事件、刑事事件など幅広い業務を取り扱っています。法人から個人まで様々な依頼者のニーズに応えるきめ細やかなリーガルサービスを心掛けています。