» 巧者に学ぶM&A ~日本電産のM&A~

テーマ日本電産のM&Aに迫る

今回は日本電産のM&Aについて迫っていきます。

このところ、M&Aを手掛けた多くの企業が減損を出していますが、

今回紹介する日本電産は減損を出さずにM&A後も企業運営をしています。

この理由、日本電産がM&A巧者言われるゆえんについて迫っていきます。

「巧者に学ぶM&A ~日本電産のM&A~」

2017年5月10日
中野友貴

弁護士
クレア法律事務所所属弁護士。 2010年慶応義塾大学総合政策学部卒業、2012年北海道大学法科大学院卒業。ベンチャー企業支援を主な業務とする現事務所に所属し、法務デューデリジェンス、契約書の作成・審査、サービスの適法性審査など、ベンチャー企業にかかわる法務支援を総合的に取り扱う。 著書として『IoTビジネスを成功させるための法務入門』(第一法規株式会社)。

2017年4月26日、日本電産株式会社は、米国のプレス関連機器メーカであるヴァムコ・インターナショナル(ペンシルベニア州)を約220億円(185百万ユーロ)で買収すべく、サイニングしたことを発表しました(クロージングは6月末頃想定)。

日本電産は、総合モータメーカとして、HDD用モータ、家電・AV用ファンモータ、CD・DVD用モータなどにおいて、世界トップシェアを誇っています。2017年度3月期決算においては、売上高・営業利益等で過去最高を更新しています。

 

日本電産の大きな特徴の一つとして、海外企業を含めたM&Aに非常に積極的であり、かつ、失敗しないM&A巧者であるという点が挙げられます。

ここ10年において23件(うち20件が海外企業)というハイペースでM&Aを行っており、M&Aに積極的であることが明らかです。一般にM&Aには、言わずもがな失敗がつきものであり、ハイペースなM&Aを行なえば当然にそのようなリスクは高まります。

しかし、日本電産のM&Aにおいては、M&Aが事業発展の原動力になっています。同社の2007年3月期の売上高と、2017年3月期の売上高を比較すると、6300億円から1兆200億円へと伸長させているところ、個別業績における売上高の伸長は、1800億円から2100億円であり、M&Aを抜きにして日本電産の急成長がないことがわかります。

また、永守社長によると「52回の買収で一度も減損損失を計上していない」とのことであり、同社のM&A戦略の巧さが伺われます。

 

 

日本企業の多くが海外企業の買収を得意としているとはいえない状況があります。東芝によるウエスチングハウスの買収例や、日本郵便によるオーストラリアの子会社の買収例など、海外買収が巨額の損失をもたらす例がしばしば見られます。

M&Aの失敗には、想定していたシナジーが得られない、高値つかみをしたなどが考えられるところですが、日本電産は、このような失敗がないことから、重要な手本になる者と思われます。

 

 

では、日本電産のM&Aが巧みであるのはどのような要因があるのでしょうか。永守社長によると、「価格・経営への関与・相乗効果」を成功のポイントに挙げています(日経新聞電子版2017年4月26日付記事参照)。

一つ目の、価格とは買収価格のことですが、買収企業の業績の改善やシナジーによって確実なキャッシュフローを得ることができるのかという点を十分に把握することが重要になるものと思われます。

二つ目の経営への関与は、同社が重視するPMIにポイントがあるものと思われます。PMIとはPost Merger Integrationの略であり、買収後の統合をいいます。経営陣及び重要役職などマネージャーレベルの統合の問題、人事労務関係にかかわる従業員レベルでの統合の問題、諸規程など制度レベルの統合の問題、企業風土レベルの統合の問題などPMIを進める中で検討するべき事項は多岐にわたります。

日本電産は、買収先企業の立て直しに成功していることから、このようなPMIに成功していることがわかります。特に、日本電産は、企業カルチャーの統合を徹底するとのことであるため、そのビジネス手法は参考になるものと思われます。加えて、買収先の選択において、PMIが円滑に進められるか買収先であるか否かも重視されている可能性も大きいと思われます。

三つめの相乗効果(シナジー)は、販路の拡大、重点分野の技術発展、コストの削減などがありえます。日本電産のM&Aを見てみると、車載及び家電・商業・産業用モータメーカを買収して海外での販路の拡大を見据えた例があります。同社は、もともと精密小型メーカの売上高に占める割合が大きかったところ、車載及び家電・商業・産業用モータメーカを集中的に買収して、現在では、精密小型メーカと同等の割合にまで伸ばしています。

今回の買収先であるヴァムコ・インターナショナル社の買収目的も、日本電産の可変速モータ技術との組み合わせることにより製品力を向上させることが目的とされていることから、得意分野での販路拡大を狙ったものといえるでしょう。

 

M&Aのうち特に海外M&Aについては、リスクが高いとして敬遠されることも多いといえますが、日本電産のように適切なM&A戦略に基づいて成功させる例もあります。日本電産のM&A手法を取り入れて、積極的な拡大を検討されてみたらいかがでしょうか。

以上

その他専門家コラム

  • 「日本電産の企業戦略とM&Aの活用」

    加藤一真

    弁護士

    敬和綜合法律事務所所属。東京大学を卒業後、2006年に弁護士登録。2013年、ベルギーのルーヴェン大学にてEU法の法学修士を取得。2014年まで、米国ワシントンDCのクリアリー ゴットリーブ スティーン&ハミルトン法律事務所にて執務し、多くの国際カルテル案件に関与。日本に帰国後は、独占禁止法、金融規制法、EU案件、M&A案件など、多数の渉外案件を中心に取り組んでいる。

  • 「「『強烈なリーダーシップ』〜日本電産株式会社のM&A戦略に見るM&Aの最重要ポイント〜」」

    森崎秀昭

    弁護士

    C-ens法律事務所代表弁護士。2009年から企業法務専門のブティック事務所で上場会社から中小企業の法務を行う。2014年C-ens法律事務所設立。各種業界の中小企業及びIT業界、スポーツ・エンターテインメント業界を中心に対応している。企業の事業戦略に沿った法務サポートをしている。クライアントの本質的な成長にフォーカスを当てたサービスを提供。その一環として、M&Aについても必要なものを提案し、サポートしている。