» 日本電産の企業戦略とM&Aの活用

テーマ日本電産のM&Aに迫る

今回は日本電産のM&Aについて迫っていきます。

このところ、M&Aを手掛けた多くの企業が減損を出していますが、

今回紹介する日本電産は減損を出さずにM&A後も企業運営をしています。

この理由、日本電産がM&A巧者言われるゆえんについて迫っていきます。

「日本電産の企業戦略とM&Aの活用」

2017年5月10日
加藤一真

弁護士
敬和綜合法律事務所所属。東京大学を卒業後、2006年に弁護士登録。2013年、ベルギーのルーヴェン大学にてEU法の法学修士を取得。2014年まで、米国ワシントンDCのクリアリー ゴットリーブ スティーン&ハミルトン法律事務所にて執務し、多くの国際カルテル案件に関与。日本に帰国後は、独占禁止法、金融規制法、EU案件、M&A案件など、多数の渉外案件を中心に取り組んでいる。

はじめに

日本電産株式会社(「日本電産」)は、1980年代からM&Aを活発に行ってきた。過去3年間をみても、主なM&Aとして13件が実行されている。日本電産は、M&Aをどのように位置づけており、今後どのようにM&Aを活用していくのか。これらの点を理解するには、日本電産の企業戦略を把握する必要がある。

 

5つの製品グループ

まず、日本電産の事業内容を確認すると、日本電産には以下の5つの製品グループが存在する。

 

① 精密小型モータ: ハードディスク用モータが主力である。

② 車載及び家電・商業・産業用製品: 車載製品には、電動パワーステアリング用モータなどがある。また、家電・商業・産業用製品には、エアコン用モータなどがある。

③ 機器装置: 産業用ロボットなどが含まれる。

④ 電子・光学部品: デジタルカメラ用シャッターなどが含まれる。

⑤ その他

 

以上のうち、①精密小型モータ、②車載及び家電・商業・産業用、③機器装置の3つのグループで、日本電産の売上高のうち、94%を占めている。中でも、車載及び家電・商業・産業用は、5つの製品グループの中で最大の売上高、全体の48%を占める。他方で、車載及び家電・商業・産業用の営業利益率は、5つのグループの中で最低の数字にとどまっている。

 

中期戦略目標「Vision 2020

日本電産は、2015年4月に中期戦略目標「Vision 2020」を発表した。「Vision 2020」は、2020年度に達成すべき目標を設定したものである。その具体的な内容は次のとおりである。

・売上高2兆円(うちM&Aにより約5000億円)

・営業利益率15%

・株主資本純利益率(ROE)18%

・グローバル5極経営管理体制の確立(日本、中国、アジア、米州、欧州・中東・アフリカ)

 

日本電産の売上高は、2020年度の上記目標2兆円に対し、「Vision 2020」が発表された直前の2014年度は1兆0284億円、2016年度は1兆1993億円であった。このうち、精密小型モータについては、「Vision 2020」では4000~6000億円が目標とされているのに対し、2014年度は3980億円、2015年度は4480億円で、すでに目標を達成済みである。つまり、ほぼ現状維持が目標であるということができる。

 

他方で、車載及び家電・商業・産業用のうち、車載製品については、「Vision 2020」で売上高7000億~1兆円が目標とされている。車載製品の売上高は2014年度が1970億円、2016年度で2611億円であったことから、かかる目標は非常に野心的なものといえる。また、家電・商業・産業用製品については、売上高4000~6000億円が目標とされているところ、2014年度は2630億円、2016年度は3109億円であった。

 

次に、日本電産の営業利益率は、上記のとおり、「Vision 2020」による2020年度の目標が15%である。この目標が発表された直前の2014年度の営業利益率をみると、精密小型モータが15.8%、機器装置が16.3%であったのに対し、車載及び家電・商業・産業用は8.0%であった。つまり、「Vision 2020」は、車載及び家電・商業・産業用の営業利益率を他のグループ並みに引き上げることを実質的な目標としている。なお、2016年度の営業利益率は、精密小型モータが15.5%、機器装置が17.8%であったのに対し、車載及び家電・商業・産業用は10.2%であった。

 

このように、日本電産の中期戦略目標「Vision 2020」の実質的な狙いは、車載及び家電・商業・産業用グループ、特に車載製品について、売上高を大幅に積み増しすることと、営業利益率を他の製品グループ並みに引き上げることにあるということができる。

 

過去3年間のM&A

以上を踏まえて、日本電産が過去3年間に行った13件のM&Aについて見てみよう。

 

まず、M&Aの対象となった製品グループをみると、やはり車載、あるいは家電・商業・産業用のいずれかのみとなっている。その内訳は、車載製品の分野で4件、家電・商業・産業用製品の分野で9件であった。「Vision 2020」の実質的な狙いに忠実な結果ではあるものの、最も注力すべき車載製品の分野での案件数が比較的少ない。

 

次に、M&Aの対象事業の地域をみると、欧州・中東・アフリカが8件と最も多い。次いで米州が多く、中国及びアジアは件数では少ないようである。特に、車載製品の分野では、過去3年間で中国での事業を手に入れることができていない。

 

また、M&Aの法的な手法については、基本的な方針としては、対象会社の株式あるいは持分の100%取得が行われている。過去3年間で見れば、13件中9件がかかる方法でのM&Aであった。その他の方法としては、事業資産の譲受けが行われた例が複数存在する。

 

過去3年間のM&Aの対象となった製品分野及び地域(なお、1件で複数をカバーしている場合

がある。)

 

 

 

まとめ

以上のとおり、日本電産としては、車載製品について売上高及び営業利益率のいずれも大幅増を目指しているにもかかわらず、M&Aによる成果はまだ上げられていないのが現状である。案件の規模からいっても、過去3年間の大型買収案件は家電・商業・産業用製品の分野のみにとどまっている。したがって、今後2~3年の間に、車載製品の分野で大型M&Aを成立させることが日本電産の課題であり、おそらくかかるM&Aを実現させていくことになるであろう。

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  • 「「『強烈なリーダーシップ』〜日本電産株式会社のM&A戦略に見るM&Aの最重要ポイント〜」」

    森崎秀昭

    弁護士

    C-ens法律事務所代表弁護士。2009年から企業法務専門のブティック事務所で上場会社から中小企業の法務を行う。2014年C-ens法律事務所設立。各種業界の中小企業及びIT業界、スポーツ・エンターテインメント業界を中心に対応している。企業の事業戦略に沿った法務サポートをしている。クライアントの本質的な成長にフォーカスを当てたサービスを提供。その一環として、M&Aについても必要なものを提案し、サポートしている。

  • 「巧者に学ぶM&A ~日本電産のM&A~」

    中野友貴

    弁護士

    クレア法律事務所所属弁護士。 2010年慶応義塾大学総合政策学部卒業、2012年北海道大学法科大学院卒業。ベンチャー企業支援を主な業務とする現事務所に所属し、法務デューデリジェンス、契約書の作成・審査、サービスの適法性審査など、ベンチャー企業にかかわる法務支援を総合的に取り扱う。 著書として『IoTビジネスを成功させるための法務入門』(第一法規株式会社)。