» 「『強烈なリーダーシップ』〜日本電産株式会社のM&A戦略に見るM&Aの最重要ポイント〜」

テーマ日本電産のM&Aに迫る

今回は日本電産のM&Aについて迫っていきます。

このところ、M&Aを手掛けた多くの企業が減損を出していますが、

今回紹介する日本電産は減損を出さずにM&A後も企業運営をしています。

この理由、日本電産がM&A巧者言われるゆえんについて迫っていきます。

「「『強烈なリーダーシップ』〜日本電産株式会社のM&A戦略に見るM&Aの最重要ポイント〜」」

2017年5月10日
森崎秀昭

弁護士
C-ens法律事務所代表弁護士。2009年から企業法務専門のブティック事務所で上場会社から中小企業の法務を行う。2014年C-ens法律事務所設立。各種業界の中小企業及びIT業界、スポーツ・エンターテインメント業界を中心に対応している。企業の事業戦略に沿った法務サポートをしている。クライアントの本質的な成長にフォーカスを当てたサービスを提供。その一環として、M&Aについても必要なものを提案し、サポートしている。

1.はじめに

2017年(平成29年)4月25日、日本電産株式会社(以下「日本電産」といいます。)は、ドイツの家電部品大手であるセコップグループを1億8500万ユーロ(役220億円)で買収することを発表しました。(http://www.nidec.com/ja-JP/ir/news/2017/news0425-01/ )

日本電産は、1973年(昭和48年)に社長含めわずか4名、小さなプレハブ小屋からスタートした企業です。(http://www.nidec.com/ja-JP/corporate/about/history/all/1970/ )このような京都の小さな会社だった日本電産が、わずか44年で53件もの買収を行い、直近では約220億円もの高額な買収を行ったのです。そして、これらの買収がことごとこ功を奏していることから、日本電産は今では売上高1兆円を超え、営業利益も1400億円を超えているのです。(http://www.nidec.com/ir/management/highlight/archive/ )

そこで、今回は私なりに見た、日本電産のM&A成功のポイントをお話しさせていただこうと思います。

 

2.日本電産の企業理念、経営方針・ビジョン

企業活動を見るには、まず企業理念や経営方針・ビジョンから見るのが基本だと思います。そこで、日本電産の企業理念、経営方針・ビジョンを見てみましょう。

(1)経営基本理念と三大精神

日本電産は、企業理念の一環である三つの経営基本理念として「1.最大の社会貢献は雇用の創出でること」「2.世の中でなくてはならぬ製品を供給すること」「3.一番いこだわり、何事においても世界トップを目指すこと」と定めています。また、三大精神として「情熱、熱意、執念」「知的ハードワーキング」「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」と掲げています。

(2)経営方針とビジョン

次に、経営方針としては、経営方針(経営三原則)として「1.企業とは社会の公器であることを忘れることなく経営にあたる。すなわち、非同族企業をめざし何人も企業を私物化することを許されない。」「2.自らの力で技術開発を行い、自らの力でつくり、
自らの力でセールスする独自性のある企業であること。すなわち、いかなる企業のカサの中にも入らない独立独歩の企業づくりを推進する。」「3.世界に通用する商品づくりに全力をあげ、
世界の市場で世界の企業と競争する。すなわち、インターナショナルな企業になることを、自覚し努力する。」としています。

さらに、ビジョンとして「日本電産グループでは、『精密小型モータ』『車載用モータ』『家電・商業・産業用モータ』『その他の製品グループ』を事業の4本柱として、自立成長と積極的なM&A戦略で、成長戦略を加速させていきます。」と定めています。(経営基本理念及び三大精神について:http://www.nidec.com/ja-JP/corporate/about/philosophy/ 経営方針・ビジョンについて:http://www.nidec.com/ja-JP/corporate/about/vision/ )

(3)成長戦略の手段としてのM&A

このように、日本電産は、明確にそのビジョンにおいて、「積極的なM&A戦略」によって成長戦略を加速させていくと明言しています。つまり、日本電産は、自社で1から開発・製造・販売などのビジネスを創出するだけではなく、経営手法としてのM&Aに重点をおいて、既存の製品や販路を取得しているのです。まさにこのような点が日本電産の急成長における重要な要因と言えるでしょう。

3.日本電産のM&Aポリシー

積極的にM&Aを行っている日本電産は、お買い得な企業があれば買いあさっているでしょうか?次に日本電産がどのような方針に基づいてM&Aを行っているか見てみましょう。

(1)時間を買う

日本電産は、三つの経営基本理念からもわかるように、「世界」で「一番にこだわ」っている企業です。日本においてM&Aという言葉が流行する前、今から30年以上も前の1984年(昭和59年)から日本電産は、積極的にM&Aを行っています。日本電産の歴史はまさにM&Aの歴史といっても過言ではないくらい、M&Aは重要な成長戦略であるということがこのことからも見て取れます。

しかし、日本電産はやみくもにM&Aを行っているものではありません。あくまでも「『回るもの、動くもの』に特化し、技術・販路を育てあげるために要する『時間を買う』という考えに基づ」いてM&Aを行っています。(http://www.nidec.com/ja-JP/corporate/about/ma/

そして、当初はM&Aで買収等を行う企業についても、業績が良い会社を高値で買収するのではなく、「赤字で倒れそうな会社を買収して、これを日本電産で再建して、その会社の優れたモーター技術を取得する。」という明確なポリシーのもとに行われてきました。

(2)失敗しない買収

そして、驚くべきことに、日本電産は買収した赤字企業の従業員を解雇(リストラ)するのではなく、既存の従業員の能力を引き出して再建しているのです。これはまさに、日本電産の三つの経営基本理念の第1番目にうたわれている「最大の社会貢献は雇用の創出であること」に合致したものです。

なぜそのようなことが可能かというと、日本電産は「3Q6S」として「3Q:良い社員、良い会社、良い製品」「6S:整理、整頓、清潔、清掃、作法、躾」を掲げ、これを買収企業に徹底することで、買収企業の再建を果たしてきたようです。具体的には、三協精機株式会社は、年間287億円の赤字経営だったにもかかわらず、日本電産が買収した翌年には、177億円の黒字経営に再建されたのです。(「太陽よりも熱い男 日本電産創業永守重信ものがたり」参照:http://az369030.vo.msecnd.net/pdffile/corporate/nagamori.pdf )

 

4.日本電産におけるM&A成功のポイント

私は、日本電産がM&Aを効果的に活用できているポイントは3つあると思われます。1つ目は、「回るもの動くもの」に限定していること。2つ目は、「時間を買う意識」が明確であること。そして、3つ目は、「強力なリーダーシップによる企業文化の統合」です。

(1)回るもの動くものに限定

日本電産は、買収する企業や事業の分野について、「回るもの動くもの」に限定しています。これは、むやみに安い企業を買収するのではなく、本体である日本電産の事業との相乗効果が見込まれる企業・事業に限定して買収しているということです。

自社の事業分野と異なる事業を買収することは、新規事業に参入するという点でのメリットは十分にあると思います。しかし、日本電産では、全く新しい新規事業にM&Aで参入するということではなく、自社の経験やノウハウなども効果的に注入できる分野に絞ることで、効果的な買収を果たしていると思われます。

(2)時間を買う

M&Aの大きなメリットは、自社で経験・ノウハウ・技術・販路などを1から開発・開拓するよりも、既存のものを取得した方が「早い」という時間的なメリットが大きく上げられます。このポイントを失念すると、何のための買収かわからなくなり、買収した企業や事業を自社のものにすることにいたずらに時間を浪費して、自社事業すら衰退することもありえます。

(3)強力なリーダーシップによる企業文化の統合

2012年(平成24年)8月10日の日本経済新聞内の記事において「登山に例えれば、M&Aは契約の時点で2合目までしか登ってない。残り8合分の企業文化の違いを擦り合わせる「PMI」という手間のかかる作業で、これがまた難しい」という日本電産永守重信社長のコメントが記載されていました。(「PMI」とは「Post Merger IntegrationM&Aによる統合効果を確実にするために、M&A初期段階より統合阻害要因等に対し事前検証を行い、統合後にそれを反映させた組織統合マネジメントを推進すること。」Weblio辞書より)そして、上記でも記載したように、日本電産の「3Q6S」を永守重信社長が自ら買収企業に刷り込むことによって企業文化の統合を果たしてきました。

私自身、様々なM&Aをサポートしていますが、特に買収や事業を譲り受ける場合には、この企業文化の統合が大きなポイントになります。

日本電産は、このポイントの解決策として、3Q6Sの徹底などを通じて、企業文化を融合させて行き、買収企業の再建を行ってきたのでしょう。

5.中小企業でも可能なM&A戦略

上記で見てきたように、日本電産は設立から約10年経ったまだまだ小さな企業であった頃から、M&A戦略を積極的に取ってきました。これは決してM&Aという名前の響きの良さやかっこよさに憧れて行われて来たものではありません。企業としての目指すべき方向性を明確に定め、その方向性に合致する手法の一つとしM&Aを用いているのです。

そして、日本電産のM&Aを見ると、「企業文化の統合」というところが最重要ポイントであると思います。これをクリアしてきた大きな要因は、「永守重信社長」という強烈なリーダーシップを発揮できるトップの存在であるように思います。多くの中小企業においても、強力なリーダーシップを発揮できる社長がいる場合には、日本電産のように積極的にM&A戦略をとることで、効果的な事業の拡大が可能でしょう。

もし仮に、永守重信社長のようなリーダーシップがみなさんに無いとしたら。

心配する必要はありません。人は想いがあればいくらでも変化・成長することは可能です。

また、強烈なリーダーシップもある意味では一つの手段です。目的はあくまでも「企業文化の統合」なのです。もちろん、企業が変化するのですから、社長の変化・成長も必要です。しかし、永守重信社長のようなリーダーシップを発揮しなければ、企業文化の統合が不可能かというとそうではありません。企業文化の統合のためには、大きな理念などの共有だけではなく、日常の業務フローの改善や人事規程の整備、その他日常の様々な行動・習慣を変化させていくことで対応することが可能です。このような一つ一つを変化させることによって、自然と社長の器も変化していきます。そして、このような変化・成長のために、私たちのような専門家がいるのです。

中小企業の経営という日本を支える仕事をされているみなさんも、もしこの記事を読まれましたら、まずはご自身がなぜ創業したのか?なぜ現在社長に就任しているのか?自社の理念は何なのか?などを自問自答していただいて、目指すべき方向性を再度確認してもらえたら幸いです。

そして、目指すべき方向性のためにM&Aという手法が必要であれば、勇気を持って一歩踏み出してみるのも良いかもしれません。その勇気がみなさんの会社や他の会社に大きな光を差し込むことになるかもしれません。

以上

 

 

 

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    加藤一真

    弁護士

    敬和綜合法律事務所所属。東京大学を卒業後、2006年に弁護士登録。2013年、ベルギーのルーヴェン大学にてEU法の法学修士を取得。2014年まで、米国ワシントンDCのクリアリー ゴットリーブ スティーン&ハミルトン法律事務所にて執務し、多くの国際カルテル案件に関与。日本に帰国後は、独占禁止法、金融規制法、EU案件、M&A案件など、多数の渉外案件を中心に取り組んでいる。

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    中野友貴

    弁護士

    クレア法律事務所所属弁護士。 2010年慶応義塾大学総合政策学部卒業、2012年北海道大学法科大学院卒業。ベンチャー企業支援を主な業務とする現事務所に所属し、法務デューデリジェンス、契約書の作成・審査、サービスの適法性審査など、ベンチャー企業にかかわる法務支援を総合的に取り扱う。 著書として『IoTビジネスを成功させるための法務入門』(第一法規株式会社)。