» グリーのスリーミニッツ買収~その買収価格とアーンアウト~

テーマグリーによる3ミニッツ買収

2017年2月2日、グリー株式会社は動画メディアや動画マーケティングなどを手がける株式会社3ミニッツの株式を取得し、子会社化することを発表しました。取得価額は43億円。業績連動型のアーンアウト方式を採用しており、3ミニッツの今後3年度の決算数値に応じて追加代金が発生する可能性があるとしています。

今回は何故グリーが3ミニッツを買収するのかについて考察します。

 

「グリーのスリーミニッツ買収~その買収価格とアーンアウト~」

2017年5月22日
中島成

弁護士
昭和34年8月生 東京大学法学部卒 裁判官を経て昭和63年4月弁護士。中島成総合 法律事務所を主宰。日本商工会議所・東京商工会議所「会社法制の見直しに関する検 討準備会」委員、東京商工会議所「経済法規・CSR委員会」委員等を務める。平成 16年度まで中小企業診断士試験委員(経営法務)。全国地方銀行協会研修所などで の講演多数。『図解 会社法のしくみ』(日本実業出版社)『民事再生法の解説~企 業再生手続~』(ネットスクール)など著書多数。

 

 平成29年2月2日、グリー株式会社は 株式会社3ミニッツ(スリーミニッツ)の株式を、同社代表取締役や投資事業有限責任組合などの株主計14名から、取得価格(含アドバイザリー費用)43億円で取得し、完全子会社にすると発表した。

3ミニッツは、国内最大級のインフルエンサーネットワークを有し、オリジナル動画コンテンツの企画制作等を手がけるベンチャー企業である。

 

 

 

【買収価格の合理性】

3ミニッツは、平成26年9月19日に設立されたばかりの非上場企業で、平成27年8月期の売上約6000万円が、平成28年8月期に4億4000万円と急伸している。

他方、純資産は、平成27年8月期約4600万円、翌28年8月期約1億3700万円にすぎず、しかも平成27年8月期に約1億7500万円、翌28年8月期に約4億7300万円の営業赤字を計上している。

また、3ミニッツは、営業利益と経常利益が殆ど同じ数字であるため、金融機関へ利息を殆ど支払っていない可能性があり、とすると金融機関からの借入を殆どせず、自己資本で事業を展開していた可能性がある。それにもかかわらず、3ミニッツの資本金は約4億2200万円だから、上記2年連続の赤字によって、資金繰りが相当不安定になり、財務の建て直しを図れるスポンサーが必要になっていたと考えられる。

 

他方、買収する側の上場企業たるグリーからすれば、そのような純資産しか有さず、かつ営業赤字を拡大している設立3年目の会社の株式に対し、上記43億円という値をつけてまで取得することの合理性、根拠を説明する責任が生じる。

一般に、3ミニッツのような非上場会社の株式取得価格は、純資産+暖簾代(将来利益を生み出す期待の評価)で決まることが多く、この算式にあてはめれば、40億円を超えるであろう株式価格の殆ど全ては、暖簾代=将来利益を生み出すことへの期待ということになる。その期待が適切であることの説明が求められることになる。

 

グリーの田中社長は、この点について、今後は3ミニッツの手がける3分程度の動画が最も気軽なコミュニケーションツールになるうえ、3ミニッツは、動画を作る広告主への提案力が強い旨説明している(日経新聞電子版 2017年4月14日付)。

グリーは、3ミニッツ買収発表直前である平成29年2月1日、グリーの100%子会社たるGlossom株式会社が、スマートフォン向け動画公告ニーズに対応するサービスの提供を開始した、と発表しており、ここからも、スマートフォンにおける動画公告を収益の一つの柱に育てようとしていることが窺われる。3ミニッツの買収もその一環といえるだろう。

 

他方、これまでのグリー自身の営業成績の推移からすれば、グリーは、新たな収益の柱を急ぎ構築する必要性に迫られていた。そのことも赤字会社を殆ど暖簾代で買収するという本件M&Aの背景にあると思われる。

グリーは、2012年に、DeNAらと共に、ソーシャルゲームの高額課金の原因と指摘されたコンプリートガチャ(コンプガチャ)を廃止することを発表し、2013年には未成年者に課金上限額を上回る請求をしていたと自ら公表した。その後、売上は2014年6月期約1256億円→2015年6月期約925億円→2016年6月期約699億円と急激に減少し、同様に営業利益も、約350億円→202億円→142億円と急激に減少していたからである。

収益の柱を求める大きな必要性が、3ミニッツの買収価格を決めさせた背景にあるといえる。

 

【アーンアウト】

しかも、グリーは、今回の3ミニッツ株式の買収対価につき、上記43億円だけではなく、3ミニッツの今後3年度の決算数値に応じて追加代金が発生する可能性があると発表している。

M&A取引実行後に、対象事業が一定の指標を達成した場合に追加代金を支払うことをアーンアウト(earn out)と呼び、代金額がM&Aの売手と買手でなかなか合意に至らない場合等にこの手法が用いられることがある。

売手からすれば、M&A取引実行(クロージング)時では十分満足する金額が得られなかったとしても、対象事業が買手の支配下で一定の売上や営業利益、EBITDA(利息・税・減価償却額を控除する前の営業利益=その事業自体が生み出せるキャッシュ)等の財務指標を達成した場合や、あるいは、例えば新薬の承認認可を得るなどの非財務指標を達成した場合には、追加代金を得られると約束されることで、それを期待してM&Aを実行しようということになる。買手からすれば、買収した事業が期待したとおりに結果を出した場合は、追加代金を支払うことに納得感を得られる、というメリットがあるからである。

 

アーンアウトは、実際には契約が複雑になること等から、日本で用いられた実績は多くない。本件3ミニッツ買収は、その一事例となるものである。

ただし、どのような場合に追加代金が発生するかがM&A契約の中で具体的に定められることが重要であるものの、平成29年2月2日のグリーの発表では、どのような実績が生じた場合に追加代金を支払うかがはっきりしていない。

 

いずれにせよ、本件では、グリーが、3ミニッツの事業を何としても買収すべきと経営判断したことが、その買収価格、アーンアウト条項の存在から見て取れるのである。

その他専門家コラム

  • 「グリーによる3Minute買収について」

    北川朝恵

    弁護士

    紀尾井町法律事務所所属。慶應義塾大学卒。2004年10月弁護士登録。2009年度第二東京弁護士会常議員。2014年度日本弁護士連合会代議員。2007年度から現在に至るまで第二東京弁護士会刑事弁護委員会副委員長。企業法務事件にとどまらず、労働事件、一般民事事件、家事事件、刑事事件など幅広い業務を取り扱っています。法人から個人まで様々な依頼者のニーズに応えるきめ細やかなリーガルサービスを心掛けています。

  • 「グリーの買収による新規事業戦略」

    漆山伸一

    公認会計士

    公認会計士、税理士、証券アナリスト。監査法人トーマツ、デロイトトーマツコン サルティング合同会社を経て独立、漆山パートナーズ会計事務所(現税理士法人 漆 山パートナーズ)を設立。現在、株式会社アットタックの代表も務め、会計税務業 務、企業再生、事業承継、M&A、海外資産運用サポートなどのコンサルティング業務 にも多く携わる。その他、上場企業の取締役も歴任している。