» ソレキアをめぐるTOB合戦

テーマソレキアをめぐる 富士通とフリージアマクロスとのTOB合戦

平成29年2月3日にフリージアマクロス社がソレキア社に対してTOB実施を届け出。同年3月10日には、ソレキア社が本TOBについて反対を表明。同年3月16日に富士通がTOBを届出。ソレキア社は富士通のTOBに対して賛同を表明。その後両社によるTOB価格を両社が競う形で価格が上昇した。

その結果、平成29年5月23日に富士通のTOBが不成立になったと発表した。

※なお、各コメントについては、平成29年5月20日までの本TOBの動向を記載したものであり、最終結果について記載されていないものであります。

「ソレキアをめぐるTOB合戦」

2017年5月24日
小黒健三

公認会計士
小黒健三 やまと監査法人パートナー 専門はアジアM&A支援。東大経卒後、旭硝子、北関東の外食企業を経て、1998年青山監査法人(PwC)入所。2013年1月に独立し、2015年からやまと代表社員。16年間の海外M&A支援実績130件超。共著に「アジアM&Aの実務」(中央経済社)等。人材育成塾「アジアM&A実行の実務」講師。

私が案件組成をメインにやっていた時期に、TOBの対象になりそうな案件を探したときがある。投資銀行や証券会社で案件組成を長く経験した先輩方から教わった法則はこうだった。ターゲットになる会社は、純現預金が厚いにも関わらず、グループ企業など特定取引が多く延び代があり、株価が低くなっているもの。

なるほど、それはソレキアだ。それでも、それを行動に移すものがいるかは、別の次元であることを、身をもって知っている。私を含めて、日本の社会にいるものは、佐々木ベジ氏よりはかなり保守的で、臆病であり、また悲観的である。

 

秋葉原の風雲児 vs 富士通のTOB

今年の2月3日、東証2部上場で押出機などを製造するフリージア・マクロスの会長である、佐々木ベジ氏が、ジャスダック上場のシステム開発会社ソレキアに対して、TOB開始を発表し、富士通とのTOB合戦が続いている。この原稿の提出は5月22日である。丁度TOBの期限の5月23日。TOBの再延長がなければ、この原稿が公表されるころには結果は出ているはずだ。

 

佐々木氏がTOBを提示する直前までソレキアの株価は2000円を切っていた。双方がTOB価格を引き上げ、直近では佐々木氏が5300円、富士通が5000円となっている。5月18日現在の株価は、5400円を超えている。

ソレキア取締役会は3月の段階から、佐々木氏のTOB提案は期会社の事業内容や企業価値の本質を理解しておらず、短期的な視点による経営施策は会社の価値を毀損するとして反対を表明した。買付価格の変更があってもそのスタンスを踏襲している。3月16日にはソレキアとの取引関係が深い富士通が、いわばホワイトナイトとして完全子会社化を目指すTOBに動き、ソレキア取締役会は富士通提案に賛同している(M&A Online)。

 

ソレキアは、1958年の創業当時から約60年にわたり、富士通の販売代理店として活動している。決算短信及び富士通のプレスによれば、2017年3月期は売上高の約2割となる36億円を富士通関連会社に販売している。直近5年間で富士通製品・サービスを販売した顧客数は2500社に達し、富士通グループの営業戦略を補完するパートナー企業である。ソレキアと富士通の対応は、常識的な行動ではあろう。

 


価値分析からみた考察

TOB合戦が続くなかで、佐々木ベジ氏がオーナーのフリージア・マクロスの業績や株価が低迷しており、結果的に富士通がTOBをすると値上がり益を得ることになり、むしろその享受がTOB価格の引き上げの意図ではないか、という意見も見られる。

 

 

 

 

価値分析からみるとどうだろうか。

 

富士通による、3月16日時点の最初の買付価格は3500円/株だった。富士通のプレスリリースで、数値根拠としてアドバイザー等によるバリュエ―ションが公になっている。佐々木ベジ側や既存株主もそれを見たはずだ。市場株価法(2,110円~2,778円)、類似上場会社比準法(3756円~4255円)、DCF法(3200円~5769円)などをもとに、過去のTOBプレミアムなどを参考に決定した、とある。

 

上記を見た時に3500円/株という数値は、佐々木ベジ氏の2800円/円に対する一時的対抗ということでは十分な数値だが、実質はどうだろうか。

完全子会社とする前提でのコントロールプレミアムも考慮すると、本件では市場株価法はほとんど意味をもたない。特殊の事情を考慮すると、本件では類似会社比準法でも合理的な説明がつきにくく、富士通にとっては敵対的TOBが成立し重要な販売パートナーが奪われる懸念を回避する意味があり、機会損失を考えるとそう簡単には引き下がれないことは明らかである。

つまり、客観的にみて、3,500円は低めである(=つまりもっとあげられる)、と少しでもバリュエ―ション実務を知っているものは思ったのではないだろうか。佐々木氏や、ソレキアの株主も思ったに違いないし、1600円~1700円を前後していた過去の水準はやはり低すぎた、と確信したかもしれない。

前述したとおり、佐々木べジ氏のTOB価格引き上げ合戦のなかで、富士通のTOB価格の提示は、3500円から5000円まで上がった。一度明らかになってしまった情報について、市場を騙すことはできない。

 

ソレキアの業績は、2017年3月期では営業利益で2.6億円であり、減価償却を考慮し、過年度や来期予想から正常的なEBITDAは4~5億円と想定される。

TOB合戦で上がった直近株価5320円/株だと時価総額は55億円となる。うち、現預金は35億円で借入金が11億円、それにデットライクの退職給付引当金が13億円なので、ネットキャッシュは10億円程度、となろう。時価総額からネットキャッシュを控除した収益性に基づく事業価値を45億円とすると、EBITDA乗数倍率は10倍前後ということになり、低いとはいえないが、5000円~5500円というのは、そろそろ上値も限界だが、合理性のある水準にはなっているように感じる。


本件の行方

佐々木氏がソレキアに提示したTOBに係る回答書では、従業員の士気を高めるための競争原理の導入、仕入の多様化によるコストダウンを通じたROE経営の導入などの企業価値の向上策などが提案されている。Bloomberg情報によれば、佐々木氏はソレキア株について、「株価純資産倍率(PBR)は長年とても低く、業績が悪いにもかかわらず、問題視されておらず、株主に対する説明もなかった」と言い、大株主の立場で「長く低迷していたソレキアの業績を立て直したい」とある。佐々木氏は、ソレキア取締役会には富士通から役員が送られ、富士通に取り込まれてしまっている、そのために業務の改善が可能、と言及している。

 

TOB合戦の一連の中で、メーカー系商社が割安に放置されている、という認識を改めてもったものも多いはずである。富士通自身もそのように感じたのではないだろうか。ソレキア社員が自ら市場を切り開く意識を替え、長く低迷していたソレキアの業績を立て直したい、という観点も考慮したTOBの提示について、価値分析の視点から見る限り、佐々木氏のロジックに大きな破綻は見られていない。その過程の中で佐々木氏の中に、多少は値上がりとしての期待があったとしても、ソレキアが相当に割安であった、という点は十分に立証したであろう。その意味でも、佐々木氏の最初の挑戦は遂げられた。

 

富士通のTOB参加のプレスリリースやその対応は組織としてしっかりしてモノで、それを行うべき戦略的説明や価格説明まで含めて、誠意も感じる用意周到なものであった。そこには日本を代表する組織として、限られた時間の中で準備も含めてさすがというものを感じた。ただし、市場は別の魔物だということを今回感じざるをえなかった。結果は出ていなものの、富士通が情報をきちんと開示しすぎた点も含めて、最終的な勝者は佐々木ベジ氏だという気がする。

 

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  • 「金融商品取引法から見るソレキアをめぐるTOB合戦」

    大塚 一暁

    弁護士

    弁護士 大塚一暁 大塚・川﨑法律事務所代表パートナー。2006年弁護士登録後大手渉外法律事務所であるアンダーソン・毛利・友常法律事務所にて執務、その後2012年大塚・川﨑法律事務所を設立。中小企業から上場会社等に至るまで幅広く、M&A取引(デューデリジェンス及び契約交渉等)、MBOファイナンス等の買収ファイナンス、ストラクチャードファイナンス、金融規制等のアドバイスを専門として業務を行う。また、ベンチャー企業の支援も多数行っている。

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    金子博人

    弁護士

    金子 博人 (東京弁護士会所属 / 金子博人法律事務所) 事業承継、M&Aなど、ビジネス面でのサポートに力を入れています。今は、インダストリー4.0ないしIOTのマネージメントのコンサルタントに力を入れています。法務だけでなく、海外進出を含め、経営戦略を総合的に支援します。 2014年からは、新たに医療法人、学校法人のM&A,承継、相続に力を入れていますが、さらに、16年は、インダストリー4.0ないしIOTの支援に努力します。

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    坂元 英峰

    弁護士

    平成8年京都大学法学部卒、平成10年京都大学大学院法学研究科卒。 平成12年4月弁護士登録。平成17年6月税理士登録。日系企業のアジア進出支援に定評のある弁護士法人マーキュリー・ジェネラルの代表パートナー。 国内外の企業法務、M&A、事業再生等に豊富な経験を有し、社外役員を務める会社も多数あり、各分野に関する講演歴等も多数にのぼる。