» セブン&アイ・ホールディングスの米国での挑戦ー子が親を超えたビジネス

テーマセブン&アイ・ホールディングスが米国のコンビニエンスストア事業などを買収

2017年4月6日、セブン&アイ・ホールディングスは、米国の連結子会社を通じて、Sunoco LP社からコンビニエンス事業とガソリンスタンド事業の一部を取得する、と発表しました。

取得対象となる事業の店舗数は1100店舗以上となり、米国事業会社の中期目標である31年度までの1万店舗達成に向けて、大きな弾みとなると考えられます。

このM&Aの目的や中身について考察します。

「セブン&アイ・ホールディングスの米国での挑戦ー子が親を超えたビジネス」

2017年5月31日
鼎博之

弁護士
弁護士 鼎 博之(かなえ・ひろゆき)第二東京弁護士会及びニューヨーク州弁護士会所属。早稲田大学法学部、イリノイ大学アーバナ・シャンぺーン校ロースクール修了。所属するアンダーソン・毛利・友常法律事務所において、M&A、海外進出支援業務、雇用問題・労働法に関するコンサルティングに注力している。著書・論文に「M&A実務の基礎」(商事法務 2015年)(共著)、「企業経営を育てるコーポレートガバナンス 監査役の機能強化」(THE LAWYERS 2015年)などがある。

 

セブンイレブンの発祥と日本の独自性

「7-Eleven」のロゴは、今や日本中のどんな小さな町でも見ることができるロゴマークである。このロゴを冠したコンビニエンスストアは、現在、日本国内で19,000店、ライセンス契約を締結しているグループ外の店舗を含めて、世界17カ国で59,000店を超える店舗を構える世界ブランドとなった。

この「7-Eleven」の発祥地は、実は米国であることを知っている人は、意外と少ないのではないだろうか。セブンイレブン発祥の地はアメリカテキサス州であり、元々は氷の小売店から始まったという。1927年にセブン-イレブンの前身であるサウスランド・アイス社はサービス向上のため週7日午前7時から午後11時までの一日16時間営業を始めた。1946年からは、開店する時間帯の名前をとり入れてそのまま「7-Eleven」とした。実に合理的な名称である。1973年(昭和48年)、日本のイトーヨーカ堂が、米国の会社からライセンス契約を受け、日本でコンビニエンスストアを開始するに至った。

ここからが、セブンイレブンが日本的な進化を遂げた点である。米国の店舗は、郊外のロードサイドが主な立地で、車のドライバーにガソリンを販売すると同時に、飲み物やサンドイッチなどを提供する店舗形態である。一方、日本は米国ほど車社会ではないため、車で立ち寄る郊外より、駅の周辺や住宅街の中に立地しており、おにぎりやお弁当などの他、お総菜やおでんなど日本の独自開発製品を投入し、大型小売店舗にはない、近くて便利な小売店を目指したところに成功の鍵があった。セブンイレブン以外のブランドも含め、コンビニは、瞬く間には日本中を席巻していった。

一方、「7-Eleven」発祥地の米国では、ライセンサーであるサウスランド社が、1980年代になって経営不振に陥り、1991年(平成3年)に経営破綻したことで、会社ごとイトーヨーカ堂に買収された。その後、セブンイレブンは、米国でのコンビニ事業を展開するだけでなく、中国や東南アジア諸国にも展開している。

このように「7-Eleven」ブランドのグローバル化を推進するために、セブン&アイ・ホールディングスは、平成29年4月6日、米国Sunoco LP社からコンビニ事業及びガソリン小売り事業の一部を3,650億円で買収するという決定をした。本稿では、米国発祥のアイデアが、日本的な進化を遂げて、ついには親の事業も買収してしまうというセブンイレブンの例を題材に、海外展開における日本的特徴を探ってみたいと思う。

 

今回の買収の詳細

セブン&アイ・ホールディングスのIR情報によると、今回の買収は、平成28年10月に発表した中期経営計画のもと、平成31年度における商品平均日販5,000ドル及び米国の店舗数1万店を目指すためのステップであるという。

今回買収する事業の内容を見てみよう。

取得する事業は、Sunoco LP社が米国テキサス州及び米国東部地域で展開するガソリンスタンド及びコンビニエンスストア1,108店舗である。この事業の取得価額は、3,659億96百万円であり、単純に計算すると1店舗あたり3億3,000万円の買収価額である。

今回は、会社丸ごとの買収ではなく、ガソリンスタンド及びコンビニ1,108店舗の買収という形式をとった。そこで、比較のために、Sunoco LP社の財務内容を見てみよう。

2015年12月期  営業収益999,801   営業利益24,825   経常利益 20,829

2016年12月期  営業収益837,932   営業利益11,204   経常利益△2,937

(単位は百万円)

 

上記のとおり、2016年12月期は、前年度と比較して、営業収益・営業利益とも減少し、経常利益もマイナスになっている。営業収益の減少は、主にガソリン単価の下落と店舗増に伴う販売管理費の増加によるもので、支払利息14,141百万円が大きく影響して赤字に転落した。2015年から2016年にかけて、前年度の900店舗から1,345店舗まで1年間で445店舗も増加したことから販売管理費が急増したものである。このような状況下で、現地会社のオーナーは、1,108店舗の売却に応じたと思われる。

コンビニの営業形態が異なるので、単純な比較は正確ではないが、試みにセブン&アイ・ホールディングスの平成29年2月期決算短信の数字をもとに、日本国内の「7-Eleven」のコンビニと上記の買収対象となった米国のコンビニ事業を比較してみよう。

日本国内の「7-Eleven」は、19,422店舗で、営業収益は2兆5,506億40百万円、営業利益は3,131億95百万円(営業利益率12%)、1店舗あたりの営業収益は131百万円、営業利益は1,612万円である。

一方、Sunoco LP社全体の営業成績は次の通りである。

2015年12月期、店舗数900、1店舗あたりの営業収益1,110百万円・営業利益23百万円

2016年12月期、店舗数1,345、1店舗あたりの営業収益622百万円・営業利益8百万円

2016年12月期は、大きく営業収益が減少し営業利益も減少した。やはり、米国における「7-Eleven」は、ガソリンスタンドとしての性格が強く、ガソリン単価の下落の影響が色濃く出ているものと思われる。

いずれにせよ、今回の買収は、赤字の法人からガソリンスタンド及びコンビニエンスストア1,108店舗の資産を取得価額3,659億96百万円で買収するものであり、単純計算で、1店舗あたり3億3,000万円の買収価額であることから、相当多額の「のれん」を計上する取引と分析することができる。

 

今回の米国でのコンビニ店舗の買収は、北米事業に新展開をもたらす好機となるか

今回の資産買収前の北米におけるコンビニ事業は、7-Eleven, Inc.という現地会社によって運営されている。平成28年12月末時点で、8,707店舗を展開しており、米国及びカナダにおいても積極的に店舗の買収を繰り返している。また、ファーストフードやプライベートブランド商品の開発を行っている。上記期末における自営店と加盟店の売上を合計したチェーン全店売上は、2兆7,351億99百万円である。北米事業個別の経常利益は開示されていない。

平成29年2月期の海外コンビニ事業全体の営業収益は、1兆6,585億42百万円、営業利益67,421百万円となっており、営業利益率4%であるから、日本国内の営業利益率12%と比べると見劣りがする。

日本国内のコンビニは、日常生活に必要な売れ筋商品に限定して提供している。各種公共料金の収受やセブン銀行でのATMサービス、最近注目されるインターネット通販商品の受け取り場所としての利用、コピー機の設置やデジタル写真のプリントなど考え得るあらゆるサービスを提供しており、都市においては地震や天災の際の非常用食品の提供など地域社会と連携した活動をしており、コンビニで働いている作家村田沙也香の執筆する小説「コンビニ人間」が芥川賞を受賞するなど社会的認知度を得た存在である。

 

終わりに

結局、「7-Eleven」は、発祥地である米国の事業に源流を得てはいるものの、日本の独自の文化と社会的ニーズを取り込み、フランチャイズビジネスとしてのコンビニ事業を日本独自の観点から発展させた好例と言えよう。日本のコンビニが、中国や東南アジアに展開されている事実は、日本のコンビニが成熟段階に入っており、その結果、日本の経営スタイルを確立させて、海外に展開するというまさに日本のお家芸の一つである。今回、本来、子の立場である日本の「7-Eleven」が発祥地である米国テキサス及び東部のコンビニ1,108店舗の資産を買収するという取引は、時代の先駆けを象徴する事例の一つと思われる。北米における「7-Eleven」が、ガソリンスタンドから脱皮し、いかなる発展を遂げるかを期待しつつ、今後の推移を見守りたい。 (了)

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    松本甚之助

    弁護士

    2006年弁護士登録、2012年アメリカ合衆国ニューヨーク州弁護士登録。クロスボーダーM&Aを含むM&A案件と国際取引、国際紛争、国際倒産処理手続等の渉外案件を中心に取り扱う。現在三宅坂総合法律事務所のパートナーとして、国内案件のみならずASEAN諸国や中国・インドなどにおけるクロスボーダーM&A等提携取引の事例と相談を多く手がけている。