» 一味違う大黒屋HDによるブランドオフの買収 -日本企業がM&Aで失敗しないために

テーマ大黒屋ホールディングスと株式会社ブランドオフの資本業務提携の覚書について

大黒屋ホールディングス株式会社は、2017年6月15日、株式会社ブランドオフとの間で資本業務提携に向けた覚書を締結することを自社の取締役会において決議したことを公表しました。

 

「一味違う大黒屋HDによるブランドオフの買収 -日本企業がM&Aで失敗しないために」

2017年8月18日
川井隆史

公認会計士
当時世界最大級の会計・コンサル企業であったアーサーアンダーセン、米コカ・コーラやGEなどのグローバル企業で事業計画やM&A後のインテグレーション責任者など従事後、その経験を生かし外資系日本法人のCFOや上場ベンチャー企業の役員などを経て創業。現在ハンズオン・CFO・パートナーズ㈱ 代表取締役社長として PMI業務(買収後統合業務)や外資系企業・ベンチャー企業の外部CFO業務、経営改善・税務会計コンサルティングなどを行っている。

はじめに

大黒屋ホールディングス(以下「大黒屋HD」)が6月15日、ブランドオフを買収すると発表しました。国内と香港、台湾に50店を展開するブランドオフとの協業で拡大を図り、ブランドリユースと質事業での世界ナンバーワンを目指します。大まかな仕組みとしては中国CITIC XINBANG ASSET MANAGEMENT CORPORATION LTD.(以下、「CITIC」といいます。)が大黒屋HDの子会社である株式会社エスビーオー(以下「SBO」)に30%出資したのちこのSBOがブランドオフの株式を100%取得します。ブランドオフとの資本業務提携の最終締結後には事業再構築のため追加出資等を行う予定です。

 

今回の買収の狙い

今回は業界第二位の大黒屋(売上約206億円)による三位のブランドオフ(売上約201億円)の買収であり、売上合計は業界第一位のコメ兵の約401億円を抜いて第一位になる可能性が高いです。これは典型的なセールス型(営業型)です。詳細はhttps://ma-jouhouhiroba.jp/procmmt_column/20161123003/ を参照していただければと思いますが

「営業とは基本的に1件1件顧客を獲得していく活動であるが、M&Aは投網で掬うように一気に顧客ベースを拡大する広い意味での営業活動」という意味でのセールス型としています。ブランドオフは国内及び海外(香港及び台湾)に50店舗を展開し、400名を超える従業員を擁しており、一気に顧客ベースを今回のM&Aで投網を使って掬うように拡大していく、ここが狙いと思われます。

 

一味違うポイント

今回のM&Aのディールの条項を見るとセールス型(営業型)として一般的な日本企業にありがちな業界一位に目がくらみ無理に焦って買収するといった失敗を避ける試みが巧みにされています。以下プレスリリースからの引用です。「本資本業務提携の実行は、①本資本業務提携に関する最終契約が締結されること、②ブランドオフ、ブランドオフの既存金融機関及び当社間において、当社が合理的に満足できるブランドオフの事業計画(当社との業務提携を前提としたブランドオフの店舗再編及び従業員の再配置等の取り決めを含みます。)について合意できること、③本資本業務提携のために必要な資金のCITIC からの調達が完了していること等が前提となります。」

①は当たり前だと思うのですが②の部分は非常に重要です。つまり最終合意の前にきちんとPMI(買収後統合)のプランを作成してそれが合意に至らない場合は実行されないということです。日本企業でなかなか買収契約締結までに店舗再編や従業員の再配置などのPMIプランまできっちり決めて締結できる会社はなかなかありません。

そのほかにも事業再編で追加出資の可能性を言及しておりますが、追加出資を含めたすべての出資は20億までと決めてずるずる深入りはしないと宣言しているのも、いい意味で慎重です。

加えて、③であるように中国最大級の金融グループであるCITICと「あなたがお金入れないとこのディールなくなるよ」といったギリギリの厳しい交渉をやり切るというのもなかなかないことです。それ以前にCITICと中国で合弁会社を展開しており、CITICと、もともと関係性は深いという部分はあるとは思われますが、そもそもCITICのような巨大金融グループと東証2部上場レベルの企業の提携は不思議に思われます。

これについて、大黒屋HDは再生ファンドが母体であり社長の小川浩平氏もアジアを中心に活躍されたファンド経営者であることが大きな要因でしょう。そういった意味でM&Aの手法が洗練されているのもレベルが高いプロフェッショナルが関わっていることを考えれば当然と思われます。

記事を読んで推測するにブランドオフは爆買いブームが沈静化で経営危機に陥ったものの大黒屋HDはこのように厳しい交渉を当初からしていたためある程度時間がかかったのはないかと思われます。しかし、最終的には最良の経営判断として傘下にはいったということでしょう。CITICをからませるといった大胆な手法をとりながらも、条件は細かく慎重に詰めていくといった「大胆かつ慎重」な比較的成功しやすいM&Aの事例かと思われます。

その他専門家コラム

  • 「大黒屋ホールディングス株式会社の子会社による株式会社ブランドオフの買収」

    藤原宏高

    弁護士

    弁護士法人ひかり総合法律事務所、代表弁護士の藤原宏高です。 2006年~2014年までミネベア株式会社社外監査役、2016年~現在は、株式会社三越伊勢丹ホールディングスの社外監査役を務めております。 これまで顧客本位のリーガルサービスを目標として,ワンストップサービスを実現させるべく海外法律事務所ともネットワークを構築し,中小企業の海外進出支援や,中小企業の事業承継とM&A取引などに積極的に取り組んで参りました。

  • 「大黒屋HDによるブランドオフ買収、その先にあるもの」

    阪野公夫

    弁護士

    阪野公夫法律事務所 代表(愛知県弁護士会所属) 1974年生まれ。早大卒。2003年に弁護士登録。主に愛知県や名古屋市における、中小・中堅企業の倒産や事業再生・M&Aの案件に携わる。最近では、コア部門の事業譲渡と清算を行う第二会社方式による再生案件に数多く関与。企業破産や破産管財人での実績も多数。2013年3月には「金融円滑化法終了を踏まえた事業再生の最新実務とM&Aの活用方法」の講演を共催。

  • 「世界No1を狙う大黒屋ホールディングスによるブランドオフの買収」

    河本秀介

    弁護士

    敬和綜合法律事務所所属。東京大学法学部卒業後、三菱重工業株式会社資金部における4年間の勤務を経て、2007年に弁護士登録。 以後、企業での勤務経験を活かした実践的な角度によるコーポレート分野のリーガルアドバイス、M&Aアドバイス、企業間訴訟などを幅広く手掛けるほか、IT法務や金融・ファンドの分野にも独自の強みを持つ。