» ソラコムはなぜIPOではなくバイアウト(売却)というエグジット(出口)を選んだのか?

テーマKDDIによる、「IoT」関連のベンチャー企業、ソラコムの買収について

2017年8月2日、KDDIは、「IoT」関連のベンチャー企業、ソラコムの買収を発表しました。買収金額は約200億円と言われています。ソラコムは、従業員数約40人、創業3年未満というスタートアップ企業であり、このようなスタートアップ企業が、これだけ大型規模で買収されるというのは、国内でも珍しいケースになります。このニュースについて、プロの視点で解説いたします。

「ソラコムはなぜIPOではなくバイアウト(売却)というエグジット(出口)を選んだのか?」

2017年9月20日
川井隆史

公認会計士
当時世界最大級の会計・コンサル企業であったアーサーアンダーセン、米コカ・コーラやGEなどのグローバル企業で事業計画やM&A後のインテグレーション責任者など従事後、その経験を生かし外資系日本法人のCFOや上場ベンチャー企業の役員などを経て創業。現在ハンズオン・CFO・パートナーズ㈱ 代表取締役社長として PMI業務(買収後統合業務)や外資系企業・ベンチャー企業の外部CFO業務、経営改善・税務会計コンサルティングなどを行っている。

はじめに

KDDIがIoT通信プラットフォーム「ソラコム」の株式を取得して連結子会社化しました。詳細はまだ明らかにされていませんが新聞記事などでは約200億円で過半数を取得などと書かれています。ソラコムはIoT通信のプラットフォーム事業のベンチャーで2014年11月の創業です。創業後半年余りの2015年6月にはInfinity Venture Partners(以下、IVP)およびWorld Innovation Lab(以下、WiL)から7.3億円を調達し、2016年5月以降にはシリーズBラウンドでやはりIVPとWiLやスパークスグループなどから約30億円調達しています。

 

今回の買収についての推測

連結子会社化といっても正式な東京証券取引所への適時開示はなく不明なことが多く、ある程度想像で書いている面はご容赦ください。今回はIVPとWiLという比較的アーリーステージに強いベンチャーキャピタル(以下VC)の意向が強いのではないかと思われます。

その理由の一つとしてIVPへの主要投資家としてKDDIがあがっていることもあります。そして、アーリー段階としては巨額と言える資金調達をしていることからもかなりの株式割合をVC側が保有していたと想像されます(優先株を発行してVC側の議決権をある程度制限していた可能性もありますが詳細不明です)。資本準備金を含む資本金が約37億円で外部資本が単純な足し算で約37億になるのでほとんど資本金は外部資本のように見えます。オーナー側は持株がおそらく少なく、一般論としては資本政策の失敗ともいえます。しかし、社長の玉川氏としては自分の持株割合よりも資金を早く調達してスピード感をもって経営を展開していく方向を選択したのではないかと思われます。また、IVPやWiLとの信頼関係も強かったのかもしれません。

そしてエグジット(出口)戦略として公開してVCの持分が不特定多数の株主に分散するのであれば少しでも事業に理解のあるKDDIに株を持ってもらったほうが望ましいというのが今回のKDDIによる買収になったと想像されます。

 

今回の買収の行方と課題

ソラコムにとっては巨大資本の資金力によるグローバル展開の加速度化やKDDIのメガ通信キャリアとしてのビジネス基盤とソラコムの通信プラットフォームの組み合わせができ、今までのMVNO(仮想移動体通信事業者)であった時よりも素早い事業展開ができるという利点があると思われます。IoTの場合、大企業であっても最初はスモールスタートで比較的小資本で試験導入というケースも多いのでその入り口をソラコムでしっかり捕まえ、将来大規模に展開するときにはKDDI のサービスと組み合わせ大きく展開していくといった方向性が理想的な方向性ではないかと思われます。

KDDIは起業家支援プログラム「KDDI ∞ Labo」をはじめ、KDDIはこれまでも積極的にスタートアップを支援してきたという実績はあるので比較的組みやすい相手と言えるでしょう。

しかし、KDDIは上場企業であり特にグローバルに迅速に展開するといった際の意思決定において一定のプロセスを踏む必要があります。また、コンプライアンスの意味でも親会社であるKDDIに対し報告をきちんと行いKDDIはそれをきちんとモニタリングしていく必要性があります。記憶に新しいのはDeNAの医療系キュレーションサイト「WELQ」で起こした騒動で、ベンチャー企業らしい自由な社風が単なる子会社の放任になってしまい大きく全社的なブランドイメージを損ねる結果となってしまいました。KDDIの場合、かなりコンプライアンス面や内部統制面は厳しく運用されている企業と思われますのでその点は比較的懸念は低いかもしれません。しかし、一方大企業なりの意思決定の遅さやリスク回避的な行動がベンチャー企業の創造力を殺してしまう懸念点はあります。ベンチャー企業を傘下に持つ場合、スピードや自由さとコンプライアンスや内部統制とのバランスをどうしていくかは大きな課題だと思われます。

その他専門家コラム

  • 「KDDIによるソラコムの買収」

    藤原宏高

    弁護士

    弁護士法人ひかり総合法律事務所、代表弁護士の藤原宏高です。 2006年~2014年までミネベア株式会社社外監査役、2016年~現在は、株式会社三越伊勢丹ホールディングスの社外監査役を務めております。 これまで顧客本位のリーガルサービスを目標として,ワンストップサービスを実現させるべく海外法律事務所ともネットワークを構築し,中小企業の海外進出支援や,中小企業の事業承継とM&A取引などに積極的に取り組んで参りました。

  • 「KDDIによるソラコムの買収と独占禁止法への影響」

    加藤一真

    弁護士

    敬和綜合法律事務所所属。東京大学を卒業後、2006年に弁護士登録。2013年、ベルギーのルーヴェン大学にてEU法の法学修士を取得。2014年まで、米国ワシントンDCのクリアリー ゴットリーブ スティーン&ハミルトン法律事務所にて執務し、多くの国際カルテル案件に関与。日本に帰国後は、独占禁止法、金融規制法、EU案件、M&A案件など、多数の渉外案件を中心に取り組んでいる。