» KDDIによるソラコムの買収と独占禁止法への影響

テーマKDDIによる、「IoT」関連のベンチャー企業、ソラコムの買収について

2017年8月2日、KDDIは、「IoT」関連のベンチャー企業、ソラコムの買収を発表しました。買収金額は約200億円と言われています。ソラコムは、従業員数約40人、創業3年未満というスタートアップ企業であり、このようなスタートアップ企業が、これだけ大型規模で買収されるというのは、国内でも珍しいケースになります。このニュースについて、プロの視点で解説いたします。

「KDDIによるソラコムの買収と独占禁止法への影響」

2017年9月20日
加藤一真

弁護士
敬和綜合法律事務所所属。東京大学を卒業後、2006年に弁護士登録。2013年、ベルギーのルーヴェン大学にてEU法の法学修士を取得。2014年まで、米国ワシントンDCのクリアリー ゴットリーブ スティーン&ハミルトン法律事務所にて執務し、多くの国際カルテル案件に関与。日本に帰国後は、独占禁止法、金融規制法、EU案件、M&A案件など、多数の渉外案件を中心に取り組んでいる。

はじめに

2017年8月1日、KDDI株式会社(「KDDI」)は、株式会社ソラコム(「ソラコム」)の発行済株式を取得する株式譲渡契約(「本契約」)を締結した。ソラコムは、IoT(Internet of Things)プラットフォームを提供する、日本のベンチャー企業である。今回の株式取得によるソラコムの買収(「本件買収」)は、設立から3年に満たないスタートアップであったソラコムが、総額200億円とも報じられた金額で買収されたことでも注目を集めた。ただし、実際の買収金額は非公表とされている。

 

外部投資家からの株式取得

KDDIによる本件買収は、M&Aのうち、株式取得の手法によるものである。したがって、本件買収におけるKDDIの交渉及び契約の相手方は、ソラコム自身ではなく、ソラコムの既存株主であった。ソラコム社長の玉川憲氏のインタビューによると、本件買収により、ソラコムの既存株主のうち外部投資家は全持ち株をKDDIに譲渡するが、ソラコムの経営陣は引き続き株式を保有する、とのことである。

 

本件買収がなされるまでに、ソラコムは外部投資家4社から資金調達を行っている。この4社は具体的には、ベンチャーキャピタルのWorld Innovation Lab、同じくベンチャーキャピタルのインフィニティ・ベンチャー・パートナーズ、プライベートエクイティファンドのPavilion Capital、そして日本の投資運用会社であるスパークス・グループという構成のようである。本件買収に当たり、これら4社が、ソラコムの株式をKDDIに譲渡することに同意した、ということになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

仮に本件買収の総額(KDDIによる株式買取代金)が200億円であったとすると、これはM&Aの規模としてどの程度の位置づけとなるのだろうか。2016年のM&Aは、件数が2,652件、総額が16兆6,133億円であったといわれている。平均すると、M&A 1件当たりの金額は、62.6億円となる。したがって、本件買収の総額はその3倍強に相当する。しかし、本件買収は、その金額だけで注目されたのではなく、対象会社のソラコムが設立されてから3年未満であったことも大きい。この点、独占禁止法の観点からも、本件買収は以下のとおり興味を引く事例である。

 

独占禁止法に基づく事前届出

日本の独占禁止法は、本件買収のような株式取得について、次の3要件(①ないし③)のすべてを満たすものを、公正取引委員会への事前届出の対象としている。

① 株式の取得会社について、その企業グループの国内売上高の合計額が200億円を超える。

② 株式の発行会社(すなわち対象会社)及びその子会社の国内売上高の合計額が50億円を超える。

③ 株式取得の結果、取得会社が保有する対象会社の議決権の割合が20%又は50%を超えることとなる。

事前届出は、株式取得等の企業結合によって「一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる」場合に当たらないかを審査する目的で要求される。事前届出の対象となる株式取得は、届出の受理から30日間、その実行が禁止される。

 

本件買収をみると、①については、株式の取得会社であるKDDIの企業グループの国内売上高合計額は、200億円を超えるものと考えられる(KDDIの2017年3月期の全世界の連結売上高は47兆4,826億円であった)。また、③については、本件買収により、KDDIはソラコムの議決権の50%超を保有することになるようである。

 

これに対し、②の要件については、ソラコムの売上高は公表されていない。ただ、ソラコムが設立から3年弱であり、かつ日本だけでなく米国、デンマーク及びシンガポールにも拠点を設置してビジネスを展開していることから、国内売上高に関しては50億円以下である可能性もある。その場合は、②の要件が満たされないため、本件買収は事前届出の対象とならない。

 

取引価額基準の導入

もっとも、ソラコムはIoTプラットフォームを提供する企業である。このようなプラットフォーム事業を提供する企業は、その市場に対する影響力に比べて、売上高が相対的に小さいことがある。かかる場合に、(上記②の要件を満たさないことで)独占禁止法に基づく事前届出を免れてよいのか、売上高が小さくても「一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる」場合があり得るのではないか、という議論が国内外でなされており、実際にドイツでは、取引価額基準というものが導入されている。これは、売上高の小さな企業を対象とするM&Aであっても、当該M&Aの取引価額が一定規模を上回る場合は、競争の実質的制限のおそれがあるものとして、やはり事前届出の対象とする考え方である。ドイツでは、4億ユーロ(約520億円)超という取引価額基準が採用された(ただし、当事会社に一定の売上高があることも要件とされている)。

 

本件買収は、総額200億円と報じられており、上記ドイツの基準額には届かない。しかし、設立から間もなく、売上高もそれほど大きくない(可能性のある)企業が巨額で買収されるという先例が生まれることで、今後日本でも、事前届出の要件を見直して上記取引価額基準を導入すべきとする議論が加速する可能性があり、立法論の行方が注目される。

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  • 「ソラコムはなぜIPOではなくバイアウト(売却)というエグジット(出口)を選んだのか?」

    川井隆史

    公認会計士

    当時世界最大級の会計・コンサル企業であったアーサーアンダーセン、米コカ・コーラやGEなどのグローバル企業で事業計画やM&A後のインテグレーション責任者など従事後、その経験を生かし外資系日本法人のCFOや上場ベンチャー企業の役員などを経て創業。現在ハンズオン・CFO・パートナーズ㈱ 代表取締役社長として PMI業務(買収後統合業務)や外資系企業・ベンチャー企業の外部CFO業務、経営改善・税務会計コンサルティングなどを行っている。

  • 「KDDIによるソラコムの買収」

    藤原宏高

    弁護士

    弁護士法人ひかり総合法律事務所、代表弁護士の藤原宏高です。 2006年~2014年までミネベア株式会社社外監査役、2016年~現在は、株式会社三越伊勢丹ホールディングスの社外監査役を務めております。 これまで顧客本位のリーガルサービスを目標として,ワンストップサービスを実現させるべく海外法律事務所ともネットワークを構築し,中小企業の海外進出支援や,中小企業の事業承継とM&A取引などに積極的に取り組んで参りました。