» 神明とスシロー(上場会社同士のM&Aの特徴と問題点)

テーマスシローとお米卸の神明が資本業務提携

2017年9月29日、神明グループが回転ずしの「スシロー」を運営するスシローグローバルホールディングス社の発行済み株式の内約33%を、所有していたファンドより取得した、という発表がなされました。

神明グループは元気寿司チェーンを傘下に収めており、かつては「かっぱ寿司」を運営するカッパ・クリエイトに出資してその統合を目指しましたが、結果的にはカッパ・クリエイトを手放すこととなり、失敗とみなされました。

しかし、今回新たに業界トップの座を「はま寿司」と争う「スシロー」を資本参加に組み込むことで、名実ともに業界NO.1を狙う意図があるものと見込まれます。

「神明とスシロー(上場会社同士のM&Aの特徴と問題点)」

2017年10月18日
小坂俊介

弁護士
東京総合法律事務所代表パートナー。同所母体である西川茂法律事務所に2004年10月入所、2009年よりパートナー。主な業務は顧問業務。付随する個別案件として、相続・事業承継、M&AのDDや契約交渉、企業倒産等を扱う。現場主義をモットーとし、クロスボーダー案件では、東南アジア内陸部等のサイトビジットを活発に行う。

■スシローグローバルHD、神明及び元気寿司、資本業務提携へ

2017年9月29日、回転ずし業界首位のスシローグローバルホールディングス【東証一部】(以下、スシロー)、米穀卸で元気寿司の親会社である神明及びすし業態「魚べい」が主柱の元気寿司【東証一部】(以下まとめて、神明)は、資本業務提携を行うと発表しました。

上場企業同士のM&Aということで、その特徴や法的リスクについて触れておきたいと思います。

 

■本件の背景と上場企業同士における資本業務提携の位置付け

資本業務提携を行うからには、双方において、提携の目的というものがありますが、今回の提携について、その目的は具体的には明らかではないものの、神明は米穀物の仕入について一定の競争力があり、川上に強い、対するスシローは、独創的な創作寿司の展開や先進的なIT技術の活用による店舗開発力があり、川下に強い、ということで、それぞれが補完し合うイメージが想像に難くありません。

M&Aの形態には色々とありますが、提携の度合いで順にすると、業務提携→資本提携→親子会社・統合・合併、という順序になるでしょうか。

今回は資本提携ということで、統合や合併よりも、提携感はやや弱いですが、神明からスシローへの一方的な資本投入の形を採っておりますので、神明としては、最終的には親子会社化や統合・合併を目指し、スシローの有する国内多数の店舗を一挙に自社統合させたいという意欲があるかもしれません。

一般的に、上場会社同士が最初の提携として合併や統合を行うことは珍しく、業務提携ないし資本業務提携によって、互いのシナジー効果を検証した上で、更に関係強化のために合併する場合もあれば、逆に提携関係を解消する場合もあります。子会社化や合併・統合となれば、当然、それぞれの異なる企業文化の統合リスクが生じ、TOB等の手続その他一般株主への影響も懸念され、独占禁止法(公正取引委員会)等の規制も含め、相当な管理コストが生じることになり、なおかつ、その関係解消も極めて困難となるため、テストランニングとして資本業務提携を行うことは、上場会社同士では通例の在り方と言えるでしょう。

 

■上場会社同士の資本業務提携におけるインサイダー規制リスク

一般に、上場会社のM&Aでは、インサイダー規制が最も懸念すべき法的リスクと言われます。インサイダー規制では、「重要事実」つまり、投資判断に著しい影響を及ぼす会社情報を知りながら、対象会社がそれを公表する前に、売買することを原則禁止しています。そして、この「重要事実」には、合併や業務提携、解散など会社自らが決定した『決定事実』、資源の発見や取引先との取引停止、主要株主の異動などその会社の意思によらずに発生した『発生事実』などがあり、その該当要件は、金融商品取引法でその細目が定められています。

今回の提携は、神明(元気寿司)側が、スシローの株式を約32%取得するというものであり、TOB(株式公開買い付け)の義務要件には該当しないものの(TOB規制は、特定株主からの譲受の場合、3分の1相当であれば、公開買い付け義務が発生する)、上記のインサイダー規制のために、今回、提携実行前に「公表」した、ということになります。

また、仮にそうした提携関係を解消したり、更に提携関係強化のために子会社化したりすることにおいても、当然インサイダー規制が及び、事前にその公表が必要になるということになります。

加えて、インサイダー規制において、最も懸念する場面がM&Aの調査・実行時点です。

我々弁護士は、M&Aにおいて、法務デューデリジェンス=法務DD(対象会社の法務調査)をプレーヤーとして果たしますが、その過程における資料開示によって、買主側が未公表の「重要事実」を知ってしまった場合には、このような「重要事実」が上場会社自身によって公表されない限りは、当該買主はその会社の株式を取得できなくなってしまう、というおそれがあるわけです。

こうした場面における買主側の対策としては、TOBの場合であれば、公開買付届出書に当該重要事実を記載するなどの対策があり得ますが、今回は上記のとおり、TOBによる必要がないだけに、万が一買主側に重要事実が知れた場合には、取引中止の危険を伴うリスクがあるということになります。

そのため、M&AのためのDD調査においては、相当慎重に開示資料を取り扱い、その情報管理に最善の注意を払う必要があるでしょう。

(了)

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