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テーマM&Aが失敗する要因と成功のためのポイント

M&Aが失敗する要因と成功するためのポイントを、公認会計士 花澤先生に事例を交えて解説頂きました。

「M&Aが失敗する要因と成功のためのポイント」

2017年11月13日
花澤健司

公認会計士
大手監査法人で会計監査業務および会計アドバイザリー(IPO、企業価値評価、企業再生及びM&Aのための財務デューデリジェンス)の業務に従事したほか、PE Fundおよび不動産ファンドに対して、M&Aアドバイス及び会計スキーム構築アドバイス、内部統制アドバイスに行った。2012年1月より独立開業、バイオベンチャーのCFOや資金調達支援といったコンサルティング以外の業務も積極的に行っている。

現在、事業拡大の手段としてM&Aは、最重要な手段の一つとして考えられている。

それはM&A自体が自社の売上・利益増大につながるからであるが、当然にその逆の自社の財務状況を悪化させるケースも存在する。いわゆるM&Aの失敗といわれるものである。今回は、弊職の経験と事例をもとにM&Aの失敗の原因と成功するためのポイントを考えていきたい。

 

ケースその1 買収価格が高すぎた

最もM&Aの失敗の原因として挙げられるケースである。背景には会社を買収することは不動産の購入と同様、全く同じ会社(不動産)は存在しないため、どうしてもその会社が欲しいとき又は競合相手がいる場合は買収価格が跳ね上がることが考えられる。

もちろん、買収時の株式価値の評価が甘かったということもある。このような場合、買収した会社は、のれんの減損という形で巨額の損失を計上することが多い。例えば、日本郵政は2015年に豪物流大手のトール・ホールディングスを6,200億円で買収した。しかし、本業の物流で業績は低迷し、2017年3月期に約4,000億円もの減損損失を計上することとなった。この4,000億円のうちそのほとんどはのれんの減損である。のれんは買収額と買収先の純資産の差額で計上される資産であるが、ざっくりいうと買収先の株主に支払ったプレミアム部分であるため、当然に買収先の業績が悪いと減損という形で損失計上することになる。日本郵政の場合わずか2年でのこのような大きな金額の減損を余儀なくされるのは、楽観的なシナリオに基づくずさんな買収価格の決定であったといわざる得ない。

 

(成功へのポイント)
・買収価格の決定は慎重にかつ、評価の前提をよく検討すること
・どうにかなるという過剰な成功シナリオは失敗のもと
・過大なのれんの計上が必要な買収は慎重に行うこと

 

 

ケースその2 買収時の調査が不十分

これも良くあるケースである。会社を買収する際に、弁護士、会計士、税理士といった専門家に会社の財務やコンプライアンスの状況を調査してもらうのであるが、それを怠ったまたは調査の範囲を絞ったために発生するM&Aの失敗事例である。

このような場合は、買った会社に存在する不良資産や不正が見抜けず、買収会社が大きな損失を計上することになる。例えば、2014年、LIXILはドイツの水栓金具大手グローエを4100億円で買収した。しかし、その傘下の中国系子会社であるジョウユウで不正会計が発覚し、急遽、破産手続に入ってしまう。LIXILは、この破産によりのジョウユウの株式簿価の減損だけでなく、債務保証の負担も発生しトータルで660億円の損失計上が必要となった。企業の買収を行う際は、時間も判断する資料も限られた状態で行うことが多いため、調査が十分にできないことが多いが、もし、買収時にこの不正会計が見抜けていれば、この子会社を買収対象から外すことができたかもしれない。または、売買契約に不正会計による破産といった場合には、売り手も応分の損失負担をする契約があれば巨額の損失計上は避けられたかもしれない。

 

(成功へのポイント)
・買収時の調査は、できる限り時間をかけて行うこと
・買収コストがかかるといって買収先の調査を惜しまないこと
・調査に時間をかけられないときは売買契約等で損失補てん可能な状況にしておくこと

 

 

ケースその3 企業文化がなじまなかった

これは一見して表に出てこない場合が多いが、よく見る失敗事例である。せっかく良い会社を買収しても、買収した会社のキーマンが辞めたり、企業文化が合わず、従業員同士が反発しあったりした結果、買収効果が薄れてしまったケースである。

会社は買ってみないと中身がわからないといわれるし、実際そうであると思うが、それが一番顕著に表れるのが、人材の部分ではないかと思う。会社を買う際、資産や負債の査定はできても人材の査定はなかなか難しい。ましてや会社を買収する際は、トップ同士以外は相手会社の人に会えることはないのが一般的である。そのため、会社を買収してから初めて従業員同士が会うため、お互いが認め合うのに時間がかかり、結果お互いで反発しあうことがよくある。これを防ぐための行うのが、「100日プラン」や「Post Merger Integration(通称PMI)」と呼ばれる買収後に実施される経営統合プランの実施である。100日プランといわれるのは買収後約100日に以内に統合を実施しないと買収効果が薄くなるといわれているためである。そのため、PMIにはスピードが重要とされている。

PMIがうまいと評価されるのはJTの海外会社の買収やアサヒビールのニッカウヰスキーの件があげられる。いずれも買った会社が強いのではなく、買われた会社の社風を大事にしたり、独立性(権限の委譲)を図ったり、統合のための事前準備をしっかり行っている会社である。

 

(成功へのポイント)
・会社の買収は、買うだけではなくその後の統合のことまでしっかりと準備する
・買収した会社が強いのではなく適切な権限委譲も必要
・統合は時間をかけるのではなく、スピードを重視すること

 

 

M&Aは会社の規模拡大には手っ取り早い方法であるが、成功に導くためには、買収価格の決定、買収時の調査、PMIの迅速な実行といった各段階においた慎重な対応が必要であると思う。

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