» 2017年のM&A市場の総括と2018年の展望。加速する事業承継型M&A

テーマ2017年のM&Aの総括

2017年も多くのM&Aが実施されました。今年1年のM&Aに関する総括と、来年の展望をプロの視点で解説いただきます。

「2017年のM&A市場の総括と2018年の展望。加速する事業承継型M&A」

2017年12月18日
河本秀介

弁護士
敬和綜合法律事務所所属。東京大学法学部卒業後、三菱重工業株式会社資金部における4年間の勤務を経て、2007年に弁護士登録。 以後、企業での勤務経験を活かした実践的な角度によるコーポレート分野のリーガルアドバイス、M&Aアドバイス、企業間訴訟などを幅広く手掛けるほか、IT法務や金融・ファンドの分野にも独自の強みを持つ。

1 2017年のM&A市場を振り返って

 

2017年の日本国内のM&A市場は、昨年に引き続き、景気回復基調を背景とした企業の統合が進み、件数でいえば前年と同水準か若干上回る見通しです。

一方で、金額規模で言えば、外国企業による日本国内(OUT-IN)の企業へのM&A金額が前年比で増加しているものの、日本国内企業同士(IN-IN)のM&A金額は前年よりも下回ると思われます。

これには、日本国内においては、大手企業同士の統合が一通り実施され、市場が一段落したとの見方があります。

その一方、大型案件でいえば、今後は、日本国内企業同士のM&Aから、日本国内の企業による外国企業(IN-OUT)の案件の増加が見込まれるとの予想もあるようです。

さて今回は、以上のような大型案件の動きから少し目線を移して、日本国内の中小企業のM&Aの動向に着目してみたいと思います。

 

 

2 中小企業の事業承継問題とM&Aの活用

 

日本国内における全企業のうち99%以上が資本金額または従業員数が一定以下の中小企業であり、全企業の85%が従業員数のさらに少ない小規模企業であるとされていますとされています(中小企業庁調査室2017年版中小企業白書より。下表参照)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうした国内企業の大半を占める中小企業では、経営者の高齢化と事業承継の問題が深刻化しつつあります。

統計によると、1995年当時の中小企業の経営者年齢のピークが47歳であったのに対し、2015年の統計では66歳と20年で高齢化が進んでいます。中小企業の経営者の引退年齢は平均して70歳前後と言われていますので、中小企業における事業承継の問題は、いよいよ企業社会における重要な課題となってきています。

これに対して、約70%の企業が事業承継を経営上の課題として考えているのに対し、民間の信用調査会社の報告では、約50%の会社が事業承継の計画を進めていないという報告もなされているようです[1]

その一方で、一般的に後継者の育成には5年から10年を要すると言われており、自社内での問題解決は容易ではありません[2]

日本の企業社会を支える中小企業が、事業の存続が可能な状態にあるにもかかわらず後継者不在により廃業を余儀なくされるとなると、雇用機会の減少や技術や知的財産の喪失などを含む、企業社会に対する損失が懸念されています。

そこで、昨今、経営者の高齢化に伴う事業承継の一手段として、社外の第三者に対する事業譲渡や株式譲渡、吸収合併など、M&Aの活用がますます重要性を帯びてきています。

また、以前であれば、M&Aには、主に機関投資家によるファンドなどによる敵対的買収が話題になるなど、何となくネガティブなイメージが付きまとっていたものですが、昨今ではそのようなイメージは薄れつつあります。また、現実問題として、核家族化が進む昨今において親子間の事業承継が難しい場合も少なくなく、事業承継の現実的な選択肢としてM&Aを検討する経営者も増えているようです。

実際に、M&Aによる事業承継のサポート業務を行う東京都事業引継ぎ支援センターが11月に発表したところによると、2017年度上半期(4月から9月)内の事業承継・譲渡に関する相談は、新規相談が前年同期比で27%増、成約に至った案件が3%増と、過去最多を記録しています[3]

 

3 事業承継型M&Aの加速が予想される2018

 

以上の通り2017年内において、事業承継の手段としてM&Aを選択する中小企業は増加しつつあり、経営者の高齢化が一層進む2018年以降も、より一層事業承継型M&Aのニーズが高まることが予想されます。私の所属する法律事務所でも、本年の半ばごろから、比較的小規模のM&A案件の相談が増えつつあるのを実感しています。

そのような流れを受け、事業承継を目的とするM&Aに向けた環境整備も図られつつあるようです。

まず、一部報道ではあるものの、2018年度税制改正において、事業承継の促進を目的とした改正が検討されており、その中で株式譲渡や事業譲渡に関わる税負担の軽減も検討されているようです[4]。仮に、それら税負担の軽減が実現された場合、事業承継の解決策として、M&Aの活用がより有用な選択肢として挙がってくると考えられます。

金融その他のサービスの面でも、事業承継型M&Aに向けた環境が整備されつつあるようです。

例えば、ある大手証券会社は、本年、今後事業承継等の案件にファンド形式で資金を提供するビジネスを立ち上げるとしており、ファンド設立のため多額の資金拠出を検討していることを公表しました。

現段階ではファンドの具体的な内容は公表されておらず、どのようなサービスが展開されるのかは分からないものの、今後、事業承継を目的としたM&Aに対する資金提供を目的としたサービスは増えてゆくものと予想されます。

2018年のM&A市場では、今後もニーズが見込まれる事業承継型のM&Aについてさらなる環境整備が図られることで、案件の増加が期待されると予想します。

 

[1] 2017年11月30日付 日本経済新聞(電子版)

[2] 中小企業庁「経営者のための事業承継マニュアル」

[3] 2017年11月29日付 日本経済新聞(電子版)

[4] 2017年11月29日付 毎日新聞朝刊

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    川井隆史

    公認会計士

    当時世界最大級の会計・コンサル企業であったアーサーアンダーセン、米コカ・コーラやGEなどのグローバル企業で事業計画やM&A後のインテグレーション責任者など従事後、その経験を生かし外資系日本法人のCFOや上場ベンチャー企業の役員などを経て創業。現在ハンズオン・CFO・パートナーズ㈱ 代表取締役社長として PMI業務(買収後統合業務)や外資系企業・ベンチャー企業の外部CFO業務、経営改善・税務会計コンサルティングなどを行っている。

  • 「2017年度M&A市場の総括と展望」

    藤原宏高

    弁護士

    弁護士法人ひかり総合法律事務所、代表弁護士の藤原宏高です。 2006年~2014年までミネベア株式会社社外監査役、2016年~現在は、株式会社三越伊勢丹ホールディングスの社外監査役を務めております。 これまで顧客本位のリーガルサービスを目標として,ワンストップサービスを実現させるべく海外法律事務所ともネットワークを構築し,中小企業の海外進出支援や,中小企業の事業承継とM&A取引などに積極的に取り組んで参りました。

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    照井 久雄

    中小企業診断士

    インクグロウ株式会社 取締役 事業戦略部長 中小企業診断士 1978年7月生まれ 経営コンサルタントとして提携フランチャイズ本部の立ち上げをした後、証券会社で公開引受業務や中堅中小企業の資金調達の支援を行う。 その後、中小企業を中心としたM&A業務に従事し、2013年にインクグロウ株式会社に入社。現職として数多くのM&Aを成功に導く。