» お家騒動を防ぐには~大戸屋に見る退職慰労金規定と相続対策~

テーマ大戸屋のお家騒動 ~何故大手企業にお家騒動が生じるのか~

2016年5月、大戸屋のお家騒動が発覚しました。

2015年7月に創業者の三森久実氏が急逝し、社長を引き継いだ窪田氏が新役員人事案を提案したことに対し、創業家がそれを真っ向から否定し、株主の議決権を巡る争いが生じたのです。

このようなお家騒動は何故起こるのでしょうか。また、その顛末について説明します。

「お家騒動を防ぐには~大戸屋に見る退職慰労金規定と相続対策~」

2017年2月22日
金子博人

弁護士

金子 博人 (東京弁護士会所属 / 金子博人法律事務所)
事業承継、M&Aなど、ビジネス面でのサポートに力を入れています。今は、インダストリー4.0ないしIOTのマネージメントのコンサルタントに力を入れています。法務だけでなく、海外進出を含め、経営戦略を総合的に支援します。 2014年からは、新たに医療法人、学校法人のM&A,承継、相続に力を入れていますが、さらに、16年は、インダストリー4.0ないしIOTの支援に努力します。

昭和シェルの合併に絡んだ出光興産のお家騒動など、企業社会ではお家騒動は少なくないが、大戸屋のお家騒動は、中堅、中小企業者にとっては、人ごとではないであろう。

「大戸屋ごはん処」といえば女性が入れる定食屋として人気がある。会社設立は1983年であるが、92年に「大戸屋ごはん処」のモデルとなる店を開業して以来急成長して、2001年に店頭公開し、現在ジャスダックに上場している。16年6月現在で、国内348店(フランチャイズ206店)、海外90店(フランチャイズ77店)に達している。

その大戸屋の創業者三森久実氏が1年間の闘病生活の上、2015年7月27日、肺ガンで急逝した。57歳の若さであった。

その1年後の、16年6月の定時総会で、取締役11人のうち8人を入れ替えるという異例ともいうべき人事が提案され、それに対し、18、79%強の株式を持つ久実氏の妻三枝子氏(13.15%)と長男智仁氏(5.64%)が反対するという事態が発生したことから、お家騒動が天下に知れ渡ることとなった。

実は、久実氏が15年6月の定時総会で、26歳の長男智仁氏の取締役就任を承認させ、常務取締役海外事業本部長に抜擢していた。これは、死の1ヶ月前である。長男を自分の後継者として据えたかったのであろうし、自分が力を入れていた、海外進出の事業を引き継がせたかったのであろう。

個人消費が停滞し、節約嗜好のなかで外食産業は苦しい。さらに、安さを売りにしているところは、コンビニやスパートと競合し、競争は激化している。ことに、女性が入れる定食屋というイメージだと、「やよい軒」などが強力なライバルとして存在する。

その打開策として久実氏は、海外市場をねらっていた。国内が頭打ちであれば、海外にでるというのは、時代にかなった的確な経営判断であったといえよう。

久実氏は12年4月、社長を従兄弟の窪田健一氏に任せ、自らは海外に注力し、香港、シンガポール、ニューヨーク、タイ、上海に90店ほど出店させたが、15年3月期で海外部門の営業損失1億6700万円となるなど、苦戦していた。他方、ライバルの「やよい軒」が、タイを中心に170店ほど出させ、海外進出を軌道に乗せていた。久実氏としては、収益性の高いマーケットを選択し、そこに集中投資するという「選択と集中」の必要に迫られていたはずだ。

その時の急逝ということで、久実氏としては、さぞ無念だったろう。26歳の智仁氏を、死の直前に常務取締役海外事業本部長にすえ、海外部門の責任者に抜擢したというのも、焦りがもたらしたのかもしれない。

 

後継者を育てるためには、時間をかけるのが当然

本来、後継者を育てるためには、時間をかけるのが当然である。とはいえ、久実氏の逝去後49日も経ていない時期に、窪田社長は、智仁氏を常務取締役海外事業本部長からはずし、香港赴任を命ずるという強引な手段にでた。事業本部長は速すぎるということだろうが、これが、お家騒動の発端となったようだ。その後、智仁氏は11月には常務を辞任し、翌年2月には、取締役も辞任している。

それだけでなく、窪田社長は久実氏の逝去の直後から、それを待っていたが如く、それまでの中心価格帯が800円台だったのに、1000円台の商品を定番メニューへ入れるような、高級化路線を打ち出した。

「ちょい高ブーム」にのり、仕入れや人件費、光熱費の上昇を、価格帯を上げることで吸収したかったのだろうが、安さを売り物にしていた店舗が、お客に値上げをイメージさせるのは、危険なことである。ことに、大戸屋は、ライバルの「やよい軒」に比べ、値ごろ感で劣っていると評されていたようで、値上げによる経営危機の打開は望ましいとは思えない。

久実氏は、味を追求するということで、野菜工場を運営して自ら食材の開発に取り組み、セントラルキッチンを使わないという経営方針だった。しかし、窪田社長は、野菜工場を廃止し、セントラルキッチンを開設するなど、久実氏の死後、矢継ぎ早に経営方針を変更していった。「店内調理」を売りにし、味で勝負していたところが、いままでのブランドイメージに反する方向に歩み始めつぃまった。

窪田社長は、大戸屋の創業者三森久実氏に生前、頭を押さえられ、不満を募らせていたのだろうか。勿論真相は分からないが、外から見れば、カリスマ経営者の死を待っていたかのような経営方針の大転換は、営業成績に響くだけでなく、それ自体がお家騒動の種にもなりかねないものである。

さて、久実氏亡き後の最初の決算期である16年3月期では、営業利益は増加したものの、客数が3.5%減り、売り上げが0.2%下がって、経常利益は9.8%減となった。外食産業として最も避けるべき、「客離れ」を起こしてしまったようだ。

従来のブランドでマーケットが限界に来たときに、そのブランドのまま、ブランドのイメージに反することをするのは危険である。この場合、価格帯を上げて切り抜けたいのであれば、別ブランドの別会社を設立して高級志向で進み、旧ブランドの方は、不採算店は閉鎖するなどして、両ブランドをそれぞれのマーケットに適合させながらシナジーを効かせて運営するのが手筋である。

更に効果的な打開策は、別会社設立に変えてM&Aで競争力があるブランドを購入することである。ブランド構築の手間を金で買えて、遙かに効率的である。

似た状況となって失敗したのが大塚家具である。父親の高級ブランド路線が行き詰まれば、M&Aで大衆ブランドを購入するか新たなブランドを立ち上げ、同時に高級ブランドの不採算店を閉鎖して、経営資源を娘の目指すブランドに移動すればよい。高級、大衆両ブランドでシナジーを効かせられれば、お家騒動も起こすこともなく、経営危機を切り抜けられたはずだ。

 

相続人である三枝子氏と智仁氏の相続税

さて、大戸屋にはもう一つ難問があった。相続人である三枝子氏と智仁氏の相続税である。創業者の相続では、株式の相続税を支払えるだけの現金の相続が必要である。創業者は、時間をかけて、その対策をたてておく責任があるのだが、久実氏の場合、その時間がなかったのである。

創業者だと高額の退職金を出すことが可能なので、それで納税問題を解決できることが多い。ところが驚いたことに、大戸屋には役員の退職金規程がなかったのだ。かつて、ある取締役に数千万円の退職金支払いの問題が生じたときに、久実氏がそれに反対して、自ら退職慰労金規定を廃止してしまったようだ。それが自分の遺族に、大きな負担をかけることになるとは、思いもよらなかったのだろう。

今回は、配偶者と長男併せて税額は8億円となったようだ。とりあえず、三枝子氏が株を担保に銀行から借入して納税したが、この処理の問題が、このお家騒動の解決を複雑にしているようだ。創業家としては、功労金の名目で会社から支出してほしかったようだが、そのためには株主総会の承認を得る必要がある。

しかし、公表されている大戸屋の連結財務諸表を見ると、平成28年9月30日現在で、流動資産45億5000万円、流動負債38億3000万円で、差額は7億2000万円。これは、会社としてはキャッシュフロー余力として8億円の支出は無理ということを示している。

この相続税問題の解決にも時間がかかりそうである。会社経営者は、遺族の相続税の支払いについても、生前に対策を立てておく必要があるのだ。

 

その他専門家コラム

  • 「大戸屋のお家騒動から考える事業承継」

    小黒健三

    公認会計士

    小黒健三 やまと監査法人パートナー
    専門はアジアM&A支援。東大経卒後、旭硝子、北関東の外食企業を経て、1998年青山監査法人(PwC)入所。2013年1月に独立し、2015年からやまと代表社員。16年間の海外M&A支援実績130件超。共著に「アジアM&Aの実務」(中央経済社)等。人材育成塾「アジアM&A実行の実務」講師。

  • 「「大戸屋のお家騒動」 ~内紛が示す企業のライフサイクルと資本政策・事業承継~」

    片山 智裕

    弁護士・公認会計士

    片山法律会計事務所代表。裁判官として裁判実務経験を積んだ後(1997~2003),弁護士登録(2003~第二東京弁護士会),監査法人(旧中央青山監査法人)の実務経験を経て(2003~2007),弁護士業務を中心に据えて現在に至る。M&A(組織再編)のスキーム立案,DD,契約交渉をはじめ,新しい収益認識基準に対応した契約条項の支援など法律と会計が相互に関連する分野を重点に取り扱い,執筆・セミナーも多数行っている。

  • 「「理屈」と「感情」がぶつかる、大戸屋お家騒動の真相」

    中原 陸

    M&Aアドバイザー

    インクグロウ株式会社 事業戦略部 統括マネージャー
    1983年5月生まれ
    中小企業向けの経営コンサルティングに従事した後、2011年にバイアウトしたインクグロウに転籍。実施主義のコンサルティング経験を活かし、数多くのM&A案件の成約に関与。食関連事業を得意とし、業界への知見やM&A経験で支持を得ている。