ビジライフ

2016.12.22

「質の良いものを長く着る」 高級スーツを選ぶための予備知識

「高級スーツ」と言われても、どこが高級なのか?仕立ては何が違うのか?そもそも生地の違いでそこまで変わるのか?などの疑問を持つことが多いと思います。実際にその「違い」が細かく示されていないため、多くの方は、個人の主観で高級スーツを見極めなくてはなりません。究極を言ってしまうと「個人の自由」でありますが、今回はスーツを購入するとき、生地を選ぶときの判断材料になればと思い、記載させて頂きます。

スーツの歴史

「スーツは軍服だった」

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スーツの歴史をたどると我々が普段来ているスーツは軍服にたどり着きます。もちろん、日本に洋服文化が入る前の話です。スーツの始まりについては諸説ありますが、16世紀の英国であるという説が一番有力です。スーツの原型は、農民が農作業の際に着ていたフロックコートというコートに似たつくりの衣服であったと考えられています。その後すぐに、軍人や貴族などに広まり、動きやすさも考えられるように改良されていきました。

19世紀に入ると、現在でも結婚式などで着用することがあるモーニングコートや燕尾服が生まれます。実はこれらも動きやすさを考えて、加工がされています。モーニングコートは、その名の通り、朝(モーニング)の散歩の際に歩きやすくするためにフロックコートから前の裾を大きくカットしています。燕尾服に関しては、乗馬に適した加工がされるようになりました。しかし、これらの衣服はすべて屋外で着用することを目的としたものでした。そのため、屋内でもくつろいで着用できるものとして、モーニングコートや燕尾服の裾を大胆にカットした、現在のテーラードジャケットの原型のモデルが誕生しました。この時に誕生したジャケットは後のタキシードジャケットとなります。19世紀に本格的に誕生したテーラードジャケットのスーツスタイルはほとんど、内側にベストを着用するスリーピーススタイルで、そのスタイルが貴族のたしなみとされていました。

20世紀に入ると、更にテーラードジャケットは形を変え、さらに裾丈が短いものや肩幅や胸幅が広いものが誕生しました。この時代のジャケットは肩パットが厚くなり、ジャケットの襟幅も広く、体格とよくみせることを重視されていました。また、徐々に軽いスーツの生地も開発されるようになりました。色味もグレーやネイビーと現在使用されている色に近づいてきました。1920年代に入るとアメリカの経済成長により、ビジネスマンが影響を持つようになりました。ゴルフやテニスなどのスポーツが人気を集めて、特にアメリカンフットボールリーグの学生がアイビースタイルとして、紺色のブレザーにベージュのチノパンというスタイルが確立され、大人気ファッションとして変化していきました。その後、ダークトーンが主体のスーツスタイルにシャツの色を変えることで、個性を主張するスーツスタイルが確立されました。現在でもその名残が残っていることから、当時のアイビースタイルの影響力の強さが伝わります。

日本で本格的にスーツ(洋服)が普及したのは明治維新後になります。当時はスーツを仕立てる職人もいなかったため、海外から入ってきた、フロックコートが主流でした。しかし、大正時代に入るとスーツスタイルも一般的になり、スーツを仕立てることができる職人もでてきて、当時のスーツは職人の手によって一人一人の体型に合わせて作られていました。職人によって仕立てたスーツも戦後は、機械化が進み、現在のようにほとんどのスーツが既製品で済んでしまうようになりました。機械化が一気に進んだことで、日本ではテーラーと言われるスーツを体型に合わせて一着ずつ仕立てることができる方が減ってきているのが、現状です。

生地は多種多様

生地もスーツとともに変化してきました。例えば、ウールの太い糸をたくさん編むことで寒さを防ぐことはできますが、これによりできた衣服は通常の何倍も重くなってしまいます。現在では着心地が重要視されており、いかに薄い生地で保温性が高く、動きやすいかということが考えらえています。多くの生地メーカーがこの難題に試行錯誤しています。

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スーツの生地を選ぶ際は以下の3つが重要です。

  • メーカー(ブランド)
  • 質感
  • 光沢感

もちろん、それぞれにメリットとデメリットがあります。
メーカー(ブランド)は、一般的に内側にタグが記載されています。記載されているタグには縫製した店舗名やブランド名、生地メーカーに分けられます。

ミル系のメーカータグ

ミルとは生地そのものを自社にて直接織っているメーカーのことです。有名なブランドとしては「ロロピアーナ」「ハリスツイード」などがあります。このようなメーカーは生地自体がブランド力です。素材に対しての妥協を許さず、良いものだけを提供するという信念があります。しかし、一方でメーカー側の意向も強いため、総合的な記事展開ができないことがあります。現在では、ハリスツイードなどは多くの企業から様々なアイテムが展開されていますが、これはハリスツイードの生地を独自に仕入れ、各企業で企画していることが多いため、目にする機会が多くなっています。ハリスツイードの生地については、スーツ以外にも使用できる生地であるため、時代に合わせて生地メーカーとして総合的な展開をすることで、ブランド力を高めているということになります。

マーチャント系のメーカーのタグ

マーチャントとは商社のことです。自社で生地を製造していないため、商社として世界中から良い生地を集めてきて、その生地を使って自社で製造しています。有名な商社としては「ドーメル社」「スキャバル社」などがあります。商社として生地を仕入れているため、生地そのものの質に関してはミル系メーカーに比べると思い入れは弱くなります。また、生地を仕入れてきて、自社で製造するため、中間マージンが掛かるため、割高になります。

ライセンス系のメーカーのタグ

ライセンスメーカーとは昔は自社で直接生地を織っていたこともあります。しかし、時代背景から経営難になり、ライセンスのみを他社に譲渡してブランドだけが現在も残っているというメーカーになります。これらのブランドは当時からのブランドポリシーは受け継がれていますが、マーチャント系メーカー同様にブランドへの思い入れは弱くなります。また、時代の変化とともに低コストを求めることもあり、良い素材が少なくなってしまうことも起こりえます。代表的なものとして三陽商会が展開している「マッキントッシュロンドン」があげられます。

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次に生地の質感や光沢感については「生地の織り方」と「SUPERの表示」が判断基準になります。多くのスーツを仕立てるテーラーさんは、ほとんどがこの「質感」「光沢感」を重視して生地を仕入れます。それはスーツそのものの着心地に大きく影響するため、職人の目で厳しく見極めています。

生地の織り方

実は生地が良い、生地が悪いという判断基準の一つになってしまうのは生地の織り方です。生地の織り方は原材料によっても大きく変わりますが、起毛感のある生地と光沢のある生地、打ち込みが甘く、ニットのような生地など織り方は様々です。打ち込みとは生地の織り密度のことです。織り密度とは縦糸と横糸で織った生地の中にどれだけの本数の糸が入っているかということです。当然数が多い程、しっかりした生地ということになります。極端に言ってしまえば、打ち込みが甘い=使用している糸が少ないということなので、必ずしもいい生地ではないということになります。

SUPERの表示

「SUPER120」や「SUPER100」などはよく目にすることが多いと思います。実はこのSUPER~という単位は重さ1キロの原毛から何キロの長さの糸を引くことができるか、という基準になります。数値が大きくなれば原毛1本あたり細く、長くなるので、柔らかく、デリケートな素材になります。しかし、間違えやすいことにSUPER120と記載されていても、その生地全体がSUPER120で出来ているとは限らないということです。例えば、ウール100%と表示されていても、全てがSUPER120の糸を使用しているわけではないということです。1%でも使用していれば、表記して良いということになっています。選ぶ基準として、SUPER~という基準で選ぶのではなく、あくまで生地を触ったときの質感で選ぶことが大切になります。

仕立ての良さとは

高級スーツは仕立てが良いと言われています。仕立てが良いというのは、一言でいえば、スーツが出来上がるまでの工程が多く、複雑であるということです。まずはパターンオーダーでもオプションで選ぶことができる「本切羽」「ステッチ」「台場仕立て」「バルカポケット」については特に仕立ての良し悪しに関係ありません。ほとんどの高級スーツはすでに、このような仕様になっていることがほとんどです。仕立てについて重要なのか「毛芯」です。その名の通し芯のことをいい、ジャケットの前身頃のラペルと言われる襟の裏についています。現在の既製品で販売されている、ほとんどのスーツには毛芯ではなく、接着芯が使われています。接着芯とは糊のようなもので、スーツ生地の裏にそのまま貼り付けます。日本では欧米に比べて、湿気が多いのでどうしても生地が水分を吸って、シワがでます。そのため、接着芯を使うことで、無理やり生地と糊で固定するため、生地は伸び縮みがしにくくなるために、シワはできづらくなります。最近では、有名な生地を使用しているメーカーのスーツでも、コストを抑えることができ、尚且つ日本の気候に合っているということから、あえて毛芯を使わずに、接着芯を使うことも増えてきています。しかし、高級スーツでは、絶対に接着芯は使いません。それは、生地自体の呼吸を阻害してしまい、本来の生地の良さでもある伸び縮みができなくなってしまうからです。そしてテーラーさんが伸び縮みを考慮したうえで、パターンを引いていくことが、仕立ての良いスーツと言えます。ここについては、一番は馴染みのテーラーさんを見つけることです。職人であるテーラーさん自身からお話しを伺うことで、新しい価値観が発見できると思います。

最近のスーツ市場

最近のスーツ市場は「原点回帰」と言われています。ひと昔前までは、スキニーパンツが流行っていたように、スーツにもタイトなシルエットが流行しました。「ラペル」というジャケットの襟が細くて、スラックスが細く体に吸いつくようなシルエットです。しかし、現在は、ラペルは太く、スラックスは腰回りに余裕を持たせるために「タック」というつまみの部分があります。全体的に少しゆとりのあるシルエットが、クラシックとされ、原点回帰といわれる所以です。ゆっくりではありますが、スーツにもトレンドがあります。そしてそのトレンドも十何年という月日で回ってきます。その際に、ひと昔前のスーツを着こなせるとかっこいいと思います。現在のように、既製服を購入してシーズンが終わったら、オークションに出したり、リサイクルショップに売ったりというサイクルでは味わえないことです。1着でも良い仕立てのものを長くきて、自身の子供や孫の世代まで、受け継がれるスーツが価値であると思います。だから高級スーツは必要なのです。その人の生きた生き様が詰まっています。その思いを次の世代にも引き継ぎましょう。

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スーツの用語について

スーツにも知っておいた方がいい用語あります。文中にもでてきている言葉もあるので、覚えておくとスーツをオーダーする際に便利かもしれません。

本切羽(ほんせっぱ)
本開きとも言います。ジャケットの袖口がボタンによって開閉できるか、ということです。実は本切羽は長さを調節するのが難しく、お直し泣かせと言われています。現在、ほとんどのスーツは本切羽ではありません。それは袖の長さが調整しやすいように、筒になっていて、ボタンは飾りです。袖口から短くしたい分だけ切り、ボタンを付け替えればお直し完了です。しかし、本切羽はそうはいきません。短くする際は、ジャケットの肩を外して、肩の生地を短くします。この方法では、肩の着心地が損なわれます。従ってお直しは基本的にできないと思って頂いたほうがいいと思います。

台場仕立て
ジャケットの裏地の仕様のことです。ジャケットの裏地は表の生地を守るため使われています。当然、長く来ていると裏地も古くなってきます。そこで、裏地を変える際に内ポケットなどの余計な部分まで、糸をほどいて縫っていくのは大変であるとのことから、台場仕立ては裏地を取り換える時に、内ポケットなどがほどかなくてもいいように、離れてぬってあります。台場仕立てにもテーラーによっていろいろな種類があります。

バルカポケット
ジャケットの胸ポケットの縫い目が船底のようにカーブしていることから言われています。スーツを着る人間に直線はない、という考えからきています。人間の体は必ず曲線であり、その曲線を一番美しくみせるために、あえて丸みを帯びた縫い方をしています。

ベント
ジャケットの背中の切れ込みです。センターベントとサイドベントがあります。乗馬の際、騎士が刀を抜き取るためなど歴史は諸説あります。ベントは動きやすするためにつけられています。

ラペル幅
ジャケットの襟の幅です。太い方がクラシック、細い方がモードな印象を与えます。また、ラペル幅と近い幅のネクタイを締めるとバランスがいいと言われています。

裾幅
裾幅は、スラックスをダブルにする際に必ず聞かれます。裾をダブルにするのもお好みです。一般的には夏物で3.5センチから4センチ、冬物で4センチから4.5センチと言われています。これは生地の重さでバランスが変わるからです。夏は軽い生地のため、裾に重みはいりません。逆に冬は生地も厚いので、裾もしっかりと主張するように裾幅をとります。

このようにスーツには歴史があり、様々な着こなし方があります。ご自身の大切な一着を仕立ててみてはいかがでしょうか。

インクグロウ株式会社 山田 健司