» ソフトバンクの英アーム買収は無謀ではない!

テーマソフトバンクグループによる英ARM社の買収

2016年7月18日、ソフトバンクグループによる英国のARM Holdings plcの買収に関するリリースが発表されました。

その買収総額は約240億ポンド、当時レートで約3.3兆円と、M&A自体の目的以上に、その巨額な買収金額に多くの注目が集まりました。

「ソフトバンクの英アーム買収は無謀ではない!」

2016年9月28日
金子博人

弁護士

金子 博人 (東京弁護士会所属 / 金子博人法律事務所)
事業承継、M&Aなど、ビジネス面でのサポートに力を入れています。今は、インダストリー4.0ないしIOTのマネージメントのコンサルタントに力を入れています。法務だけでなく、海外進出を含め、経営戦略を総合的に支援します。 2014年からは、新たに医療法人、学校法人のM&A,承継、相続に力を入れていますが、さらに、16年は、インダストリー4.0ないしIOTの支援に努力します。

2016年7月、ソフトバンクグループが、3.3兆円で、英半導体大手アーム・ホールディングを買収するというニュースが日本中を駆け巡った。アームは、半導体の設計会社で、スマホのCPUの95%を設計する。しかし、年間売上520億、経常利益240億、企業価値2200億程度の企業であり、それに比して、買収額の大きさにみな驚愕した。しかも、ソフトバンクの現在の事業である通信事業、インターネット事業とはシナジーはない。

M&Aで企業価値は、通常、純資産プラス暖簾(暖簾は、経常利益の2年分くらい)である。ところが、アームの純利益は、2300億くらいなので、暖簾を加えた企業価値は、6000億くらいである。買い取り代金は、その5倍。既存の企業から見れば、無謀である。しかし、これは、世界の動きが見えている孫正義氏だからこそできたことである。

2008年のリーマンショックで、日本は不況をかこっていたが、シリコンバレーには世界から優秀なエンジニア、研究者が流入し、イノベーションが爆発した。それを、GEや、Google、アップルなどの巨大企業が育て上げた。その結果、ビッグデータ、クラウド、AI(人工知能),自動運転、フィンテック、シェアリング・エコノミ―などの急発展を見た。

このイノベーション爆発の原動力は、Googleが、1年間で75社のベンチャーに出資するなど、膨大で効果的なM&Aであった。

このアメリカの動きをみて、メルケル首相のドイツは、は、2011年から、産管学あげての、インダストリー4.0(第4次産業革命)のプラットホームで対抗した。そして、その実践の場を巨大な市場である中国に求めた。

ここでも、シリコンバレーのスピード感に対抗するのは、M&Aであった。タイヤメーカーから自動運転の機器の覇者に躍り出たコンチネンタルは、1998年からの15年間で100社を買収したという。

その結果、アメリカ、ドイツ、中国を中心に、まさに「産業革命」が勃発した。インダストリー4.0が目指すものの一つに、「多品種少量生産」がある。これは、部材企業から完成品メーカー・配送・販売の企業と、上流から下流までネットでつなぎ、顧客の嗜好、需要に対応するカスタマイズ化した製品の提供を目指すもので、従来からの大量生産方式を根本的に変えるものである。その他、この「革命」の範囲は、車がインターネットでつながる自動運転、スマートハウス、スマートシティ、スマート病院など、その範囲は広い。

これらアメリカでのイノベーションの爆発、ドイツのインダストリー4.0もたらす原動力は、インターネットで取得するビッグデータをAIで解析することである。

となると、アームが設計したCPUが、自動車や生産ライン、スマートシティ、スマート病院などで広く使われるはずである。孫正義氏はアームOSは、10年後には、GoogleのアンドロイドやアップルのiOSと対抗できる標準OSとなるとと読んだのだろう。

また、アームのOSは、クラウドにAIを搭載したシステムを前提とした、これからの産業用OSの標準をねらう、GEのPredixとも、共同できると思われる。

アームの3.3兆という買値は決して高くないであろう。しかも、ソフトバンクは、国際会計基準IFRSを採用しているので、膨大な暖簾を償却する必要もない。10年後のマーケットを考え合わせれば、むしろ、安い買い物というべきではなかろうか。

なお、一言付け加えれば、イノベーションのM&Aにシナジーは関係ない。イノベーションは、新たな世界を切り開くもので、既存の分野とシナジーが利くわけはない。シナジーが利くのは、イノベーションでなくインプルーブメント(改良)でしかないのだ。

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  • 「3.3兆円は高いか? ― 現代と未来の調査現場から」

    小黒健三

    公認会計士

    小黒健三 やまと監査法人パートナー
    専門はアジアM&A支援。東大経卒後、旭硝子、北関東の外食企業を経て、1998年青山監査法人(PwC)入所。2013年1月に独立し、2015年からやまと代表社員。16年間の海外M&A支援実績130件超。共著に「アジアM&Aの実務」(中央経済社)等。人材育成塾「アジアM&A実行の実務」講師。

  • 「ソフトバンクM&Aの歴史とARMの買収」

    照井 久雄

    中小企業診断士

    インクグロウ株式会社 取締役 事業戦略部長
    中小企業診断士
    1978年7月生まれ
    経営コンサルタントとして提携フランチャイズ本部の立ち上げをした後、証券会社で公開引受業務や中堅中小企業の資金調達の支援を行う。
    その後、中小企業を中心としたM&A業務に従事し、2013年にインクグロウ株式会社に入社。現職として数多くのM&Aを成功に導く。