» ソレキアをめぐる、TOB合戦について

テーマソレキアをめぐる 富士通とフリージアマクロスとのTOB合戦

平成29年2月3日にフリージアマクロス社がソレキア社に対してTOB実施を届け出。同年3月10日には、ソレキア社が本TOBについて反対を表明。同年3月16日に富士通がTOBを届出。ソレキア社は富士通のTOBに対して賛同を表明。その後両社によるTOB価格を両社が競う形で価格が上昇した。

その結果、平成29年5月23日に富士通のTOBが不成立になったと発表した。

※なお、各コメントについては、平成29年5月20日までの本TOBの動向を記載したものであり、最終結果について記載されていないものであります。

「ソレキアをめぐる、TOB合戦について」

2017年7月11日
坂元 英峰

弁護士

平成8年京都大学法学部卒、平成10年京都大学大学院法学研究科卒。
平成12年4月弁護士登録。平成17年6月税理士登録。日系企業のアジア進出支援に定評のある弁護士法人マーキュリー・ジェネラルの代表パートナー。
国内外の企業法務、M&A、事業再生等に豊富な経験を有し、社外役員を務める会社も多数あり、各分野に関する講演歴等も多数にのぼる。  

1 はじめに

平成29年2月3日、佐々木ベジ氏がソレキアに対する株式公開買付(TOB)の実施を発表した後、ソレキアは佐々木氏によるTOBに対する反対意見を表明し、同年3月16日に富士通がホワイトナイトとしてソレキアに対するTOBの実施を発表し、ソレキアは富士通によるTOBに賛同意見を表明した。その後、両社による度重なるTOB価格の引き上げによって、ソレキア株は急騰し株式市場においても話題となったが、富士通はTOB価格を5000円からは引き上げない旨を表明しており、現在はソレキアの株価も佐々木氏による現時点(平成29年5月22日)でのTOB価格(5450円)を若干下回る水準で落ち着いている。本稿では、このソレキアに対するTOB合戦について経過を整理し、若干の考察を試みたい。


2 事実経過(時系列)

本件TOB合戦をめぐる事実経過(時系列)を整理すると、以下のとおりである。

【平成28年】

3月末までに、フリージア・マクロス(佐々木氏が会長)がソレキア株式の4.3%を保有するに至ったことが判明する。

11月10日に、フリージア・マクロスがソレキアの5%超の株式を保有するに至り、大量保有報告書を提出する。

【平成29年】

2月3日に、佐々木氏がソレキアに対するTOBを発表する(TOB価格:2800円、買付期間:2月3日~3月24日)。

2月16日に、ソレキアが佐々木氏によるTOBに対し、意見を留保する。

3月10日に、ソレキアが佐々木氏によるTOBに対し、反対意見を表明する。

3月16日に、富士通がホワイトナイトとして、佐々木氏によるTOBに対抗して、ソレキアに対するTOBを発表する(TOB価格:3500円、買付期間:3月17日~4月28日)。ソレキアはこれに対する賛同意見を表明する。

3月21日に、佐々木氏がTOB価格:3700、買付期間の終期:4月14日に変更する旨が発表される。

3月29日に、ソレキアが改めて佐々木氏によるTOBに対する反対意見を表明する。富士通がTOB価格:4000円に変更する旨が発表され、ソレキアはこれに対する賛同意見を表明する。

3月31日に、佐々木氏がTOB価格:4500円、買付期間の終期:4月19日に変更する旨が発表される。

4月5日に、ソレキアが改めて佐々木氏によるTOBに対する反対意見を表明する。富士通がTOB価格:5000円に変更する旨が発表され、ソレキアはこれに対する賛同意見を表明する。

4月12日に、佐々木氏がTOB価格:5300円、買付期間の終期:4月28日に変更する旨が発表される。

4月21日に、ソレキアが改めて佐々木氏によるTOBに対する反対意見を表明する。富士通はTOB価格を5000円からは引き上げない旨を表明しつつ、買付期間の終期:5月10日に変更する旨を発表し、ソレキアはこれに対する賛同意見を表明する。

4月25日に、佐々木氏がTOB価格:5450円、買付期間の終期:5月12日に変更する旨が発表される。

4月28日に、ソレキアが主要株主の異動等について開示する。結果、同月25日時点において、ソレキア従業員持株会(議決権数11.6%)に次いで、吉田知広氏が第2位の主要株主(議決権数10.12%)となったことが明らかになった。

5月8日に、富士通が買付期間の終期:5月22日に変更する旨が発表される。

5月9日に、佐々木氏が買付期間の終期:5月23日に変更する旨が発表される。

5月23日に、富士通がTOB不成立を発表する。

5月24日に、佐々木氏がTOBに対し28万5499株(自己株式を除くソレキアの発行済み株式の32.9%相当)の応募があったことを発表する。これにより、佐々木氏がソレキアの筆頭株主となることが明らかになった。


3 敵対的TOB

企業買収の手段としてTOBが実施される場合には、大きく分けると、①対象会社の経営陣等の同意の下に行われる「友好的TOB」と呼ばれるものと、②対象会社の経営陣等の同意を得ないで一方的に行われる「敵対的TOB」がある。実務上は、友好的TOBが圧倒的多数を占めるが、本件の佐々木氏によるソレキアに対するTOBは、上記分類からすると敵対的TOBに該当することになる。他方で、ホワイトナイトとして登場した富士通によるTOBは、友好的TOBと分類されることになる。

友好的TOBの場合には、公開買付者は対象会社側と秘密保持契約を締結するなどして、事前にデュー・ディリジェンス等を行い、対象会社の企業価値等を分析して、合理的なTOB条件を設定することがよりやりやすくなるが、敵対的TOBの場合にはこのようなプロセスを通常踏むことができないため、公開買付者の側も企業価値算定等においてある程度のリスクを負うことになる。

ただ、ソレキアのようなように上場企業の場合には、敵対的TOBの場合でも、決算短信や有価証券報告書等の開示情報、現に株式市場において形成されている株価や各種指標等に基づいて、一定の企業価値算定等を行うことは可能とも言える。


4 ソレキア及び富士通の主張

ソレキアは、佐々木氏によるTOBに対し、一貫して反対意見を表明している。その理由は要約するに、①佐々木氏にはソレキアの事業分野に関する経験が乏しく、ソレキアの事業、ひいてはソレキアの企業価値の本質についての理解が不足している、②佐々木氏の想定する施策を導入しても、ソレキアの企業価値の向上は見込めず、逆に企業価値を毀損するおそれがある、というものである。

富士通は、国内有数の富士通の販売パートナーであり、システム事業の顧客サポートも手掛けるソレキアとの関係を維持し、さらにはソレキアの技術を駆使したデジタルビジネスの拡がりという可能性も評価して、ソレキアのホワイトナイトとして名乗りを上げたようである。


5 ソレキアの企業価値の評価

今回のTOBに際し、富士通もソレキアも当然、第三者機関を起用して企業価値の評価を行っている。特に注目されたのは富士通側の価値算定結果で、具体的には市場株価法:2110円~2778円、類似会社比較法:3756円~4255円、ディスカウンティド・キャッシュ・フロー(DCF)法:3281円~5769円となっていた。

富士通は、上記結果を踏まえて、前記事実経過のように当初はTOB価格を3500円に設定したものの、その後佐々木氏との価格引き上げ合戦に伴い、最終的には5000円まで上げるに至った。富士通がTOB価格を5000円まで上げた際には、「この引き上げ合戦はどこまで行くのか?」という議論もあったようであるが、いくら上記のとおり企業価値の算定には複数の方式があり、それぞれの方式においても幅(レンジ)があるとは言っても、5000円でもやや際どいと評価されかねない高値水域に入りつつあるとの評価もあり得た。ゆえに、富士通が5000円を最後にTOB価格の引き上げをやめたこと自体は、十分に想定し得たものと評価できる。


6 割高にすぎるTOBを成立させてしまった場合のリスク

富士通の本件TOBにかかる開示内容を見る限り、富士通としては二段階買収による完全子会社化を想定していたようであるが、事前の価値算定結果からすると合理性の説明が困難になる高値での買収となってしまった場合において、その後万が一、ソレキアが投資に見合った業績を実現できない場合には、富士通の経営陣としては、経営判断の原則に照らして、善管注意義務違反等による法的責任の追及を受けかねなかったであろう。

富士通の経営陣がTOB価格の引き上げに対しブレーキを踏んだ判断自体は、その時期についてはさらなる異論もあろうかとは思われるが、妥当なものであったとは評価しうる。


7 ソレキア株価のその後

前記のとおり、結果として、富士通のTOBは不成立に終わり、富士通はソレキアを子会社化する動きからは撤退し、佐々木氏がフリージア・マクロスも含めソレキアに対する持株比率を急増させることとなった。しかし、佐々木氏がソレキアに対する経営支配を法的に強めるには、本件TOBによって取得した株数では中途半端な感も否めず、佐々木氏その後どのような動きに出るのか、効果が明確でないTOB終了後に株価は軟調に推移するのではないか等と予想する向きもあった。現に、5月末ころには、ソレキアの株価は弱含み、1週間ほどは4200円前後で推移していた。

しかし、ソレキアの株価は6月に入ってから、佐々木氏による最終的なTOB価格をも上回る水準にまで急騰する動きを見せた。TOB終了後の終値ベースでの最高値は、6月30日の7890円である(平成29年7月10日時点)。ソレキアの大量保有報告書によると、その間、フリージア・マクロスはソレキア株の買い増しを徐々に進めているようであり、これがソレキアの株価上昇の一因となっている可能性がある。

ここまで株価が上昇しているという事実を見れば、富士通としては、さらなるTOB価格の引き上げも考えて良かったのではないかという評価もありうるかもしれないが、それはあくまでも結果論である。例えば、富士通のTOBが成立した場合には、前述のとおり二段階買収による完全子会社化が想定されていたため、本件のようにフリージア・マクロスによるソレキア株の買い増しも、ソレキア株価のTOB価格を上回る推移という結果が生じていたかといえば、疑問をもたざるを得ないであろう。

いずれにせよ、本件TOB期間中及びTOB終了後の株価の推移は、株式市場参加者としても予想困難なイレギュラーなものであったという評価が可能で、個人投資家等には翻弄された向きも少なくなかったのではないかと推察される。

 


8 佐々木氏の今後の動き

本件TOB終了後、佐々木氏がソレキアに対してどのような経営関与を求めるのか等が注目されたが、報道等によって伝わってくる情報はない。ただ、本件TOBの結果、佐々木氏側に比べればかなりの少数派株主にすぎない富士通が、ソレキア経営陣に複数の取締役を送り込んでいると見られていることからすると、今後佐々木氏側からも何らかの経営関与に繫がりうる提案等がなされる可能性があるかもしれない。

佐々木氏によるソレキアに対する関わりに対しては、引き続き注目したい。

 

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    公認会計士

    小黒健三 やまと監査法人パートナー
    専門はアジアM&A支援。東大経卒後、旭硝子、北関東の外食企業を経て、1998年青山監査法人(PwC)入所。2013年1月に独立し、2015年からやまと代表社員。16年間の海外M&A支援実績130件超。共著に「アジアM&Aの実務」(中央経済社)等。人材育成塾「アジアM&A実行の実務」講師。

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    弁護士 大塚一暁
    大塚・川﨑法律事務所代表パートナー。2006年弁護士登録後大手渉外法律事務所であるアンダーソン・毛利・友常法律事務所にて執務、その後2012年大塚・川﨑法律事務所を設立。中小企業から上場会社等に至るまで幅広く、M&A取引(デューデリジェンス及び契約交渉等)、MBOファイナンス等の買収ファイナンス、ストラクチャードファイナンス、金融規制等のアドバイスを専門として業務を行う。また、ベンチャー企業の支援も多数行っている。

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    弁護士

    金子 博人 (東京弁護士会所属 / 金子博人法律事務所)
    事業承継、M&Aなど、ビジネス面でのサポートに力を入れています。今は、インダストリー4.0ないしIOTのマネージメントのコンサルタントに力を入れています。法務だけでなく、海外進出を含め、経営戦略を総合的に支援します。 2014年からは、新たに医療法人、学校法人のM&A,承継、相続に力を入れていますが、さらに、16年は、インダストリー4.0ないしIOTの支援に努力します。