» 三越伊勢丹ホールディングスによるニッコウトラベルの買収にみる、二段階買収の手法

テーマ三越伊勢丹HDがニッコウトラベルを買収

三越伊勢丹ホールディングス <3099.T>は平成29年2月10日、ニッコウトラベル <9373.T>を株式公開買い付け(TOB)で完全子会社化すると発表した。「コト消費」に対応するため、シニア向けを中心にした旅行業を強化する。

平成29年2月13日から3月23日までTOBを行い、3月23日にTOBが無事終了した。買い付けなどの価格は1株390円、総株主等の議決権の数94,296 個のうち、86,026 個を取得した。

「三越伊勢丹ホールディングスによるニッコウトラベルの買収にみる、二段階買収の手法」

2017年4月12日
大塚 一暁

弁護士
弁護士 大塚一暁 大塚・川﨑法律事務所代表パートナー。2006年弁護士登録後大手渉外法律事務所であるアンダーソン・毛利・友常法律事務所にて執務、その後2012年大塚・川﨑法律事務所を設立。中小企業から上場会社等に至るまで幅広く、M&A取引(デューデリジェンス及び契約交渉等)、MBOファイナンス等の買収ファイナンス、ストラクチャードファイナンス、金融規制等のアドバイスを専門として業務を行う。また、ベンチャー企業の支援も多数行っている。

今年2月、株式会社三越伊勢丹ホールディングスは、老舗旅行会社である株式会社ニッコウトラベルの発行済株式(自己株式を除く。)の全部を取得し同社を完全子会社化することを目的として、TOB(公開買付け)を実施することを発表しました。ニッコウトラベルの顧客の95%は60歳以上であり、このうち約50%は70代が占めるといわれており、平均的な旅行価格も80万~100万円ほどの高めの価格帯であるといわれております。

高齢化の進む現代において、熟年世代を対象としたシルバー市場の規模は約50兆円もあるといわれており、その中でも、旅行などに代表される「コト消費」が特に注目されております。

三越伊勢丹ホールディングスによるニッコウトラベルの買収の狙いは、こような「シルバー市場」の「コト消費」にあり、注目を集めているところであります。


二段階買収とは

このような三越伊勢丹ホールディングスによる買収の目的は、ニッコウトラベルの発行済株式の全部を取得し完全子会社化するところにあります。株式を上場していない中小規模の閉鎖会社であれば株主は数名~数十名程度のことが多く、かかる株主全員から株式を取得すれば完全子会社化の目的は比較的容易に達成することができると思います。

しかしながら、ニッコウトラベルのような上場会社を買収する場合には、個人の一般投資家等も含めて多数の株主が存在しており、TOBを実施しても、このようなすべて株主から応募があることはまずなく、TOBにより全株式を取得し、完全子会社化を実現することは現実的にはあり得ないこととなります。

そこで、第一段階としてTOBを実施してTOBに応募してきた株主から株式を買い取り(通常は、TOBによる買付予定株式数の下限として対象会社の議決権総数の3分の2以上が設定されることが多いです。)、第2段階の手続きとしてTOBに応募してこなかった少数の株主から強制的に株式を取得するという手続きが必要となってきます。

このように、TOB実施し、その後にTOBに応募してこなかった少数株主から株式を強制的に取得することのより完全子会社化を実現する買収方法を二段階買収と呼びます。なお、上述のような多数(支配)株主が少数株主から強制的に株式を取得する(少数株主を締め出す)方法をスクイーズアウトともいいます。


日本の会社法における二段階買収(完全子会社化)の手法

では、日本の会社法においては、少数株主から強制的に株式を取得するスクイーズアウトを実現する手法として、どのような法的制度があるのでしょうか。

上場会社のMBO(マネージングバイアイアウト)などの案件でもお多く見受けられましたが、平成26年会社法改正(平成27年5月1日施行)以前は、株式交換(会社法767条以下)又は全部取得条項付株式(会社法108条1項7号)を用いたスキームが多く用いられておりました。

その後、平成26年会社法改正により、特別支配株主の株式等売渡請求制度(会社法179条以下)が導入されるとともに、株式併合についても反対株主の株式買取請求(会社法182条の45)等の少数株主保護のための法的手続が整備されたことから、現在においては、特別支配株主の株式等売渡制度と株式併合(会社法180条以下)を用いた二段階買収スキームが実務において一般的となってきました。


特別支配株主の株式売渡制度と株式併合スキーム

平成26年会社法改正によって導入された特別支配株主の株式等売渡制度とは、特別支配株主(対象会社の議決権の90%以上を有する株主)が対象会社の承認を得た上で、対象会社の他の株主全員(少数株主)に対して保有する株式全部の売渡しを請求でき、強制的に株式を取得することができるという制度です。

次に株式併合を用いたスキームについてですが、株式併合とは、簡単に言えば既存の発行済株式を特定の割合で合体させる、例えば、2株を1株にするという制度です。このような株式併合の制度を用いて、少数株主が保有する株式数が1株未満となるような割合で株式併合を行い、少数株主から強制的に株式を取得する(少数株主は、当該端数に見合う現金対価を受けとる。)というスキームです。

平成26年改正以前の会社法においても存在した制度ですが、この制度は少数株主の保護が不十分であるといわれており、スクイーズアウトのためにはあまり使われていなかったスキームでしたが、会社法改正により少数株主保護手続等が充実したことにより、実務おいても定着してきたスキームとなっております。

では、現在の実務においてこの両制度をどのように使い分けているかですが、特別支配株主の株式等売渡制度を利用する場合には議決権の90%以上を取得することが必要となります。

そこで、TOBにより対象会社の総株主の議決権の90%以上を取得できた場合には特別支配株主の株式等売渡制度を利用し、TOBの結果取得できた議決権数が90%未満となった場合には株式併合スキームを利用することによりスクイーズアウトを実現するという手法が実務において定着しております。なお、スクイーズアウトにより少数株主に支払われる対価は、少数株主の保護の観点からTOBの買付価格と同額とされることが一般的です。

本件の三越伊勢丹ホールディングスによるニッコウトラベルの買収においても、このような特別支配株主の株式等売渡制度と株式併合スキームを併用するスキームが用いられております。

 

 

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    金子 博人 (東京弁護士会所属 / 金子博人法律事務所) 事業承継、M&Aなど、ビジネス面でのサポートに力を入れています。今は、インダストリー4.0ないしIOTのマネージメントのコンサルタントに力を入れています。法務だけでなく、海外進出を含め、経営戦略を総合的に支援します。 2014年からは、新たに医療法人、学校法人のM&A,承継、相続に力を入れていますが、さらに、16年は、インダストリー4.0ないしIOTの支援に努力します。

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    小黒健三 やまと監査法人パートナー 専門はアジアM&A支援。東大経卒後、旭硝子、北関東の外食企業を経て、1998年青山監査法人(PwC)入所。2013年1月に独立し、2015年からやまと代表社員。16年間の海外M&A支援実績130件超。共著に「アジアM&Aの実務」(中央経済社)等。人材育成塾「アジアM&A実行の実務」講師。

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    弁護士

    紀尾井町法律事務所所属。慶應義塾大学卒。2004年10月弁護士登録。2009年度第二東京弁護士会常議員。2014年度日本弁護士連合会代議員。2007年度から現在に至るまで第二東京弁護士会刑事弁護委員会副委員長。企業法務事件にとどまらず、労働事件、一般民事事件、家事事件、刑事事件など幅広い業務を取り扱っています。法人から個人まで様々な依頼者のニーズに応えるきめ細やかなリーガルサービスを心掛けています。