» 三越伊勢丹HD、老舗旅行代理店買収の意図とは?

テーマ三越伊勢丹HDがニッコウトラベルを買収

三越伊勢丹ホールディングス <3099.T>は平成29年2月10日、ニッコウトラベル <9373.T>を株式公開買い付け(TOB)で完全子会社化すると発表した。「コト消費」に対応するため、シニア向けを中心にした旅行業を強化する。

平成29年2月13日から3月23日までTOBを行い、3月23日にTOBが無事終了した。買い付けなどの価格は1株390円、総株主等の議決権の数94,296 個のうち、86,026 個を取得した。

「三越伊勢丹HD、老舗旅行代理店買収の意図とは?」

2017年4月13日
北川朝恵

弁護士
紀尾井町法律事務所所属。慶應義塾大学卒。2004年10月弁護士登録。2009年度第二東京弁護士会常議員。2014年度日本弁護士連合会代議員。2007年度から現在に至るまで第二東京弁護士会刑事弁護委員会副委員長。企業法務事件にとどまらず、労働事件、一般民事事件、家事事件、刑事事件など幅広い業務を取り扱っています。法人から個人まで様々な依頼者のニーズに応えるきめ細やかなリーガルサービスを心掛けています。

1 はじめに

三越や伊勢丹などの大手百貨店を傘下に持つ(株)三越伊勢丹ホールディングスは、平成29年2月10日、株式公開買い付け(TOB)を通じ、老舗旅行会社(株)ニッコウトラベルの発行済み株式(自己株を除く)のすべてを買い付け、完全子会社化すると発表しました。デパートと旅行会社という、一見すると共通点がないようにみえる会社間の買収の裏には、どのような狙いがあったのでしょうか。


2 本件TOBの狙いとは

三越と伊勢丹といえば、ともに日本を代表する大手老舗百貨店であり、平成20年4月に両社が統合した際には大きく世間を賑わせたことも記憶に新しいかもしれません。実は、三越も伊勢丹も百貨店事業だけでなく、それぞれ三越は三越の顧客を対象にラグジュアリーバスを使用した国内旅行を企画したり、伊勢丹は伊勢丹の顧客を対象に他社のパッケージツアーの販売などを行ってきました。そして、平成27年には三越と伊勢丹の旅行事業部を統合し、(株)三越伊勢丹旅行を設立し、グループ顧客全体への販売促進を目指していました。しかし、三越と伊勢丹では顧客層も異なり、それぞれのニーズに合わせた旅行商品の企画、販売には不十分な側面がありました。そこで、旅行事業の拡大を目指し、新たな営業リソースの確保、とくに百貨店の主力顧客層であるシニア世代の獲得を目指して白羽の矢を立てられたのが、ニッコウトラベルです。


3 本件TOBのメリット

近年、消費者の消費対象は、商品そのものの価値である「モノ」から、特別な時間や体験といった目に見えない価値である「コト」へ変化してきたと言われています。三越伊勢丹HDは、時間とお金に余裕のあるシニア世代を主なターゲットとし、「コト」商品の代表である旅行事業の強化拡大を目指すことにしました。ニッコウトラベルは、ヨーロッパなどを中心とする海外旅行商品を得意とし、特に、シニア富裕層向けに、バス移動や徒歩移動の負担を少なくするなど「ゆとりのある豊かな旅」をコンセプトした商品を売りにしています。顧客層も、95%が60歳以上で、うち半分は70代とのことであり、平均的な旅行単価は80万円~100万円とかなり高額です。三越伊勢丹HD側としては、このようなデパートと顧客層が近いシニア富裕層をつかむことにより、売上の拡大を狙うというメリットがあります。

他方、ニッコウトラベル側としては、三越伊勢丹というブランドを背負うことにより認知度が格段に上がるとともに、三越伊勢丹の管理部門やシステム部門の相互利用により経営の効率化を図れるというメリットがあります。また、近年ヨーロッパを中心に多発するテロ事件などの影響により売上が伸び悩む海外旅行だけではなく、三越伊勢丹グループが保有するシニア向け国内旅行のノウハウを基に積極的な商品開発を行えるというメリットもあります。

このように、両社は主要業態こそ違えど、シニア富裕層を主な顧客とするという共通点をうまく利用し、お互いの強みを相互に利用しあうことで相互に業務拡大を狙うというメリットがあります。


4 本件TOBの結果

本件TOBの結果、三越伊勢丹HDは応募のあったニッコウトラベルの株式8,602,694株のすべてを取得することとなり、三越伊勢丹が有する議決権割合は91.22%(但しニッコウトラベルの有する自社株を除いた割合)になりました。本件TOBの目的は、単なる資本提携ではなく、完全子会社化による強固な関係構築、事業連携でありましたので、議決権の90%以上を有するに至った三越伊勢丹は、さらに残りの株式すべてを取得し完全子会社化するために、会社法179条(株式売渡請求)に基づき、ニッコウトラベルの残存株主に対し、その所有する株式の全部を自社に売り渡すように請求しました。

株式売渡請求とは、対象会社の総株主の議決権の90%以上を有する株主(特別支配株主)が、対象会社の承認を受けた上で、他の株主(少数株主)の有する株式の全部を強制的に取得できる制度であり、平成26年会社法改正により完全子会社化の手法の一つとして規定されたものです。会社法改正前は、上場会社を完全子会社化するためには、TOBによって株主総会の特別決議を得られる数の株式を取得した上で、全部取得条項付種類株式または株式交換の方法を用いることが主流でした。改正により新設された株式売渡請求は、全部取得条項付種類株主、株式交換などと異なり、対象会社における株主総会決議が必要でなく、取締役会決議で足りること、また、端数処理も不要という簡易な手続きというメリットがあります。

ニッコウトラベルの取締役会は、三越伊勢丹HDによる株式売渡請求を承認したため、三越伊勢丹HDはニッコウトラベルの全株式(自社株を除く)を取得することとなりました。これに伴い、東証2部に上場されていたニッコウトラベル株は、東京証券取引所の上場廃止基準に該当することになったため、平成29年5月2日をもって上場廃止となる見込みです。これからますます高齢化していく社会において、このようなシニア世代をターゲットにした企業買収等はさらに増えていくかもしれません。

 

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    金子 博人 (東京弁護士会所属 / 金子博人法律事務所) 事業承継、M&Aなど、ビジネス面でのサポートに力を入れています。今は、インダストリー4.0ないしIOTのマネージメントのコンサルタントに力を入れています。法務だけでなく、海外進出を含め、経営戦略を総合的に支援します。 2014年からは、新たに医療法人、学校法人のM&A,承継、相続に力を入れていますが、さらに、16年は、インダストリー4.0ないしIOTの支援に努力します。

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    弁護士 大塚一暁 大塚・川﨑法律事務所代表パートナー。2006年弁護士登録後大手渉外法律事務所であるアンダーソン・毛利・友常法律事務所にて執務、その後2012年大塚・川﨑法律事務所を設立。中小企業から上場会社等に至るまで幅広く、M&A取引(デューデリジェンス及び契約交渉等)、MBOファイナンス等の買収ファイナンス、ストラクチャードファイナンス、金融規制等のアドバイスを専門として業務を行う。また、ベンチャー企業の支援も多数行っている。

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    小黒健三

    公認会計士

    小黒健三 やまと監査法人パートナー 専門はアジアM&A支援。東大経卒後、旭硝子、北関東の外食企業を経て、1998年青山監査法人(PwC)入所。2013年1月に独立し、2015年からやまと代表社員。16年間の海外M&A支援実績130件超。共著に「アジアM&Aの実務」(中央経済社)等。人材育成塾「アジアM&A実行の実務」講師。