プロコメ

2016.11.1

ソフトバンクグループによる英ARM社の買収

2016.9.28

ソフトバンクの英アーム買収は無謀ではない!

金子博人
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2016年7月、ソフトバンクグループが、3.3兆円で、英半導体大手アーム・ホールディングを買収するというニュースが日本中を駆け巡った。アームは、半導体の設計会社で、スマホのCPUの95%を設計する。しかし、年間売上520億、経常利益240億、企業価値2200億程度の企業であり、それに比して、買収額の大きさにみな驚愕した。しかも、ソフトバンクの現在の事業である通信事業、インターネット事業とはシナジーはない。

M&Aで企業価値は、通常、純資産プラス暖簾(暖簾は、経常利益の2年分くらい)である。ところが、アームの純利益は、2300億くらいなので、暖簾を加えた企業価値は、6000億くらいである。買い取り代金は、その5倍。既存の企業から見れば、無謀である。しかし、これは、世界の動きが見えている孫正義氏だからこそできたことである。

2008年のリーマンショックで、日本は不況をかこっていたが、シリコンバレーには世界から優秀なエンジニア、研究者が流入し、イノベーションが爆発した。それを、GEや、Google、アップルなどの巨大企業が育て上げた。その結果、ビッグデータ、クラウド、AI(人工知能),自動運転、フィンテック、シェアリング・エコノミ―などの急発展を見た。

このイノベーション爆発の原動力は、Googleが、1年間で75社のベンチャーに出資するなど、膨大で効果的なM&Aであった。

このアメリカの動きをみて、メルケル首相のドイツは、は、2011年から、産管学あげての、インダストリー4.0(第4次産業革命)のプラットホームで対抗した。そして、その実践の場を巨大な市場である中国に求めた。

ここでも、シリコンバレーのスピード感に対抗するのは、M&Aであった。タイヤメーカーから自動運転の機器の覇者に躍り出たコンチネンタルは、1998年からの15年間で100社を買収したという。

その結果、アメリカ、ドイツ、中国を中心に、まさに「産業革命」が勃発した。インダストリー4.0が目指すものの一つに、「多品種少量生産」がある。これは、部材企業から完成品メーカー・配送・販売の企業と、上流から下流までネットでつなぎ、顧客の嗜好、需要に対応するカスタマイズ化した製品の提供を目指すもので、従来からの大量生産方式を根本的に変えるものである。その他、この「革命」の範囲は、車がインターネットでつながる自動運転、スマートハウス、スマートシティ、スマート病院など、その範囲は広い。

これらアメリカでのイノベーションの爆発、ドイツのインダストリー4.0もたらす原動力は、インターネットで取得するビッグデータをAIで解析することである。

となると、アームが設計したCPUが、自動車や生産ライン、スマートシティ、スマート病院などで広く使われるはずである。孫正義氏はアームOSは、10年後には、GoogleのアンドロイドやアップルのiOSと対抗できる標準OSとなるとと読んだのだろう。

また、アームのOSは、クラウドにAIを搭載したシステムを前提とした、これからの産業用OSの標準をねらう、GEのPredixとも、共同できると思われる。

アームの3.3兆という買値は決して高くないであろう。しかも、ソフトバンクは、国際会計基準IFRSを採用しているので、膨大な暖簾を償却する必要もない。10年後のマーケットを考え合わせれば、むしろ、安い買い物というべきではなかろうか。

なお、一言付け加えれば、イノベーションのM&Aにシナジーは関係ない。イノベーションは、新たな世界を切り開くもので、既存の分野とシナジーが利くわけはない。シナジーが利くのは、イノベーションでなくインプルーブメント(改良)でしかないのだ。

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