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2016.11.23

M&Aに成功している企業はどこ?

2016.11.23

M&Aのスキーム選択と労働契約の関係

家永勲
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M&Aの実行スキームについて、株式譲渡によることが最も一般的ですが、株式譲渡以外のスキームとして、事業の全部又は一部の譲渡、合併、会社分割などが存在します。

株式譲渡による場合、株主が変動するのみであり、買収対象会社自体は存続するため、労働契約の移転という法的な問題は生じません。しかしながら、事業譲渡、合併、会社分割によってM&Aを実行する場合、会社の事業やそれに付随して従業員による労務の提供先も変更され、会社組織自体が再編されることになる結果、労働契約の移転という法的な問題が生じます。

事業譲渡が「特定承継」による資産や契約関係の移転を行う必要があるため、各資産や契約関係ごとに移転の手続きを検討することになるのに対して、合併及び会社分割は「包括承継」により資産や契約関係の移転であるため、原則として、個別の移転手続きを行う必要はありません。そして、労働契約関係を個別に移転させるためには、民法625条1項に基づき、労働者の個別の承諾が必要とされています。

会社分割における労働契約の承継については、「会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律」(以下、「労働契約承継法」といいます。)や「商法等の一部を改正する法律(平成十二年法律第九十号)」の附則第5条が労働契約の取扱いに関する措置として定める協議義務(以下、「5条協議」といいます。)が適用されることになります。

会社分割においては、承継させる対象となる事業に関する資産や契約関係を分割会社に移転する必要があり、それらは分割契約又は分割計画(以下、「分割契約等」といいます。)に定められることになります。当然のことながら、労働契約を移転するか否かについてもこの分割契約等に定められることになります。

この際、承継対象となる事業で従事している労働者は、一般的には、事業と共に分割会社へ移転することになりますが、分割契約等に定めれば、分割対象となる事業に従事している労働者であっても承継しないということや、従事していなかった労働者を分割会社へ移転することも会社法上は可能となっています。このような性質があるために、過去には、会社分割を悪用して、実質的には不要な労働者を解雇したり、リストラするために会社分割という手法が利用されていることが疑われるような事例も存在していました。

会社分割を実行するときに、従事してきた業務を失う労働者や、これまで従事してきた業務と異なる業務に従事させられることになる労働者を保護するために定められたのが上述の労働契約承継法や5条協議です
したがって、会社分割の場合は、労働契約承継法を遵守しておかなければ、労働契約の移転に関して、法的な問題が生じることになり、M&A実行において重要な労働者と考えていた人材に関する労働契約を移転できないという可能性も否定できません。

他方で、合併の場合は、法人格の一部を切り離すような手続ではなく、従前の労働契約が同一の条件で移転されるということになるため、会社分割のような配慮は不要であり、特別な法律上の規制はなされていません。ただし、合併の場合には、二つの会社がそれぞれ定めてきた異なる労働条件を如何にして融和、統一していくかという課題を抱えることにはなりますので、M&Aに伴う労働問題が生じないというわけではありません。

最後に、事業譲渡に関してですが、特定承継ということもあり、原則として個別の同意を得ることになるため、問題が少なそうに思われますが、そのようなことはなく、厚生労働省は、平成28年9月1日から適用される指針として、「事業譲渡又は合併を行うに当たって会社等が留意すべき事項に関する指針」を告示しました。法律ではありませんが、過去に紛争となった裁判例を背景として、個別の同意を取得するにあたって必要となる手続や留意点に加えて、労働組合が存在する場合の留意事項なども詳細に定められており、今後の裁判においても参照される可能性が高いと考えられます。

当該指針は、概ね労働契約承継法が定めるような手続を事業譲渡においても踏まえるべきということが整理されています。

これらの労働契約関係の移転に関する諸手続が存在することにより、M&Aの実行に係る契約のクロージングや開示の時期などを踏まえて、どのようなタイミングで労働者と協議するかという点についても計画的に進めていかなければならなくなっていることには注意が必要です。

以上

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