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テーマ日産自動車と三菱自動車のM&A

2016年5月、三菱自動車を日産自動車が傘下に加えました。

当時の三菱自動車はデータ不正問題に揺れており、また日産自動車の出資金額も2,300億円と巨額になったことから、日本はもとより世界にも大きなインパクトを与えました。

このM&Aは具体的にはどんな手法が用いられたのか、この買収にはどんな意味があるのか、これから日本の自動車産業はどこへ向かっていくのか。

プロの視点で解説をしていきます。

「日産と三菱自動車のM&Aについて」

2016年11月30日
吉村史明

公認会計士
吉村 史明 北海道出身。一橋大学(商学部経営学科)卒。 平成3年公認会計士2次試験合格後、太田昭和監査法人(現新日本監査法人)に入所。金融商品取引法監査、会社法監査並びに株式公開支援業務に従事。平成7年公認会計士登録。平成12年監査法人退所後、公開準備会社に転職。公開業務終了後、独立。 現在は、税理士法人 AKJパートナーズにて、M&Aに関わる企業デューデリジェンス・組織再編・税務、不動産投資コンサルティングに従事。

 

2016年5月12日、誰もが驚く資本提携が発表されました。

2016年5月12日、誰もが驚く資本提携が発表されました。さる 4月20日に燃費不正問題を発表した三菱自動車に対して、日産が34%の真水の第三者割当増資を行い傘下に収める、という発表があったのです。増資完了後、日産が34%の支配権を持つと同時に、三菱グループの支配割合は22.4%に下落しました。実質オーナーが日産にとって代わり、今後三菱自動車の再建を推進していくことになります。

 

この資本提携について、新聞発表上は事業シナジーの点が強調されておりますが、実際には投資によるリターン成果を目論んでいる、という側面があることは疑いの余地はないと思われます。事業シナジーと投資効果の両面から、M&A戦略は組み立てられるものだからです。

「買い手側」に当たる日産の投資戦略

まず、今回のM&Aの「買い手側」に当たる日産の投資戦略について考えてみましょう。今回の燃費不正の発表が4月20日だったわけですが、1カ月も経過しない5月12日に資本提携を発表しています。したがって、日産はもっと早い段階で一連の不正行為に気付き、三菱自動車及びその主要株主とも協議を重ねたうえで、一連のストーリーを練り上げたものと思われます。日産は、まず三菱自動車に不正事実の発表を促します。発表直後、もちろん株価は暴落しました(発表前日終値864円→発表後の最安値412円)。その後資本提携が発表される前日までの加重平均単価で株式を取得する旨がリリースされており、最終的にその取得単価は468円52銭となりました。資本提携の発表直後は株価が持ち直し、一時600円を超えたものの、現在は500円前後で推移を見せておりますので、日産はそれなりの安値で三菱自動車の株式を取得したと言えるでしょう。

 

今後日産がどの程度の投資リターンを得られるかは、三菱自動車の業績回復次第となります。株価が取得価額の2倍を超えた場合は、2373億円の投資は4746億円になります。過去には2000円以上の株価が付いていた時期もある、三菱重工業の流れをくむ由緒正しい上場企業でもあるので、再生がうまく行くと4倍、5倍の企業価値になる可能性もあります。

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この点については、日産がお金だけを出すだけの投資家とは違い、同業他社として事業の運営ノウハウもあり、リストラ政策やビジネスシナジーにおいても非常に親和性が高いという優位性がポイントになります。事業シナジーが効果を発揮するほど、会社の再生に成功する可能性は高まり、ひいては投資のリターン効果が上がる可能性が高まるわけです。M&A戦略において、事業シナジーを発揮できることは、非常に重要なことになります。

 

 

さらに言えば、今回の投資は非上場会社の株式を高値掴みしたわけでもないので、買い手側はのれんの償却負担にあえぐこともありません。

日産は、目の前に現れた投資機会を逃さず「形」にしたと言えるでしょう。

 

「売り手側」と言える三菱グループの判断

次に、今回の「売り手側」と言える三菱グループの判断について考えてみましょう。過去三菱自動車の株式は、三菱重工業、三菱商事、三菱東京UFJ銀行など、三菱系で約34%を占めており、三菱グループの代表企業の一つでした。天下の三菱グループが、傘下企業の筆頭株主の座を割安な株価で他人資本に明け渡す、というのは苦渋の決断だったと思われます。ただし、三菱自動車は2004年にも「リコール隠し」問題を起こし、最近では業界7番手に甘んじている経緯があったため、その中での不正発覚は関係者にそれなりのダメージを与えたことでしょう。さすがに今回ばかりは、再生のためにグループ外の力も借りざるを得ない、という判断に傾いたことも頷けます。

 

三菱自動車は、グループ全体で約3万人以上の従業員・パートタイマーを抱えており、協力会社や家族も含めると、非常に多くの人の生活を支えている企業です。日産が提携に名乗りを上げたことにより、多くの人々の生活が今後も支えられるのであれば、やむを得ない判断であったろうと思われます。この判断に至るには、カルロス・ゴーン社長が、過去に日産の再建を成功させ、一度退職してもらった従業員を呼び戻した実績があることも、大きな影響を与えていることでしょう。

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日産がかなりのアドバンテージを持つ形

M&Aが行われる場合、売り手側にはどうしても「売る事情」というものが存在しがちであり、その事情により交渉事は不利に働いてしまいます。今回の日産と三菱自動車のM&Aのケースは、以上に述べた経緯により、日産がかなりのアドバンテージを持つ形で行われた典型例であると言えます。

 

どの会社も、売り手側にもなりえるし、買い手側にもなりえるのですが、いざというときに備え、普段から企業価値を毀損しない運営を心掛けることは大切なことです。それは、M&A以外の日常的なビジネス上の交渉でも大いに影響してくることでしょう。

 

以上、私見による分析で恐縮ですが、今回の資本提携が、日産側、三菱自動車側、双方の関係者から、やってよかった、と思われる結果となることを、心よりお祈り申し上げます。

 

文責:税理士法人AKJパートナーズ

代表社員・公認会計士  吉村 史明

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    中野友貴

    弁護士

    クレア法律事務所所属弁護士。 2010年慶応義塾大学総合政策学部卒業、2012年北海道大学法科大学院卒業。ベンチャー企業支援を主な業務とする現事務所に所属し、法務デューデリジェンス、契約書の作成・審査、サービスの適法性審査など、ベンチャー企業にかかわる法務支援を総合的に取り扱う。 著書として『IoTビジネスを成功させるための法務入門』(第一法規株式会社)。

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    照井 久雄

    中小企業診断士

    インクグロウ株式会社 取締役 事業戦略部長 中小企業診断士 1978年7月生まれ 経営コンサルタントとして提携フランチャイズ本部の立ち上げをした後、証券会社で公開引受業務や中堅中小企業の資金調達の支援を行う。 その後、中小企業を中心としたM&A業務に従事し、2013年にインクグロウ株式会社に入社。現職として数多くのM&Aを成功に導く。