プロコメ

2017.2.15

クックパッド創業者によるオウチーノ買収について

2017.2.15

オウチーノ買収を例にした公開買付けと第三者割当増資を組み合わせた取引の留意点

松本甚之助
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平成28年10月31日付けで、穐田誉輝氏(「穐田氏」)は株式会社オウチーノ(「オウチーノ」)の普通株式に対する公開買付け(「本公開買付け」)を実施し、本公開買付けは平成28 年12 月2日をもって終了した[i]。また、平成28 年10 月28 日付で公表した第三者割当の方法による募集株式の発行(「本第三者割当増資」)及び自己株式の処分(「本自己株式処分」、本第三者割当増資とを総称して「本第三者割当」。「本第三者割当」と「本公開買付け」とを総称して「本取引」)について、平成28年12月2日付けで本公開買付けが成立したことにより本第三者割当増資及び本自己株式処分に係る条件が成就したことから、同社は本第三者割当増資及び本自己株式処分を実施した[ii]

本公開買付けは、クックパッド株式会社(「クックパッド」)の前社長である穐田誉輝氏(「穐田氏」)が実施し、同社の前執行役員である4名も本第三者割当増資の引受人に名を連ねている。オウチーノの現代表者は退任をすることが既に開示されており[ⅲ]、新任代表取締役候補者は平成29年2月13日現在開示されていないが、穐田氏らが新たに経営陣となりその中から新代表取締役候補者が選ばれるであろう。穐田氏は、株式会社カカクコムを上場させ、クックパッドの上場を指南する等経営者としての手腕は高く評価され、クックパッドの代表取締役を退任した経緯などから、その穐田氏が実施したオウチーノへの公開買付けは高い注目を集めた。

このような注目の高い本公開買付けを例に、公開買付けと第三者割当及び自己株式の処分とが同時並行的に実施される取引に関する金融商品取引法(「金商法」)及び会社法上の留意点の主なものについて以下で説明をしたい。

本公開買付けのスキーム

本公開買付けでは、オウチーノの現代表者とその配偶者(「現代表者等」)は予め本公開買付への合意をしており、対象会社も保有する自己株式全てを応募することを合意していた。本公開買付けに現代表者等と対象会社が応募した場合には、公開買付者である穐田氏の所有割合は31.37%となる。また、公開買付けに対して応募株式数が下限を上回ったことを条件として、本公開買付け直後に払込期日が予定されていた募集株式の発行(自己株式の処分を含む)の引受株式数と併せると、最低でも議決権の61.63%、最大で議決権の66.00%を取得することが想定されていた。

急速な買付け

平成18年改正で導入された「急速な買付け」規制(金商法27条の2第1項4号、6号、同法施行令7条7項2号)の導入前は、株券等所有割合が3分の1を超える直前まで市場外での買付けを行い、3分の1を超える際の買付けのみを、立会市場内取引、新規発行取得または公開買付けによって実施すれば、少なくとも形式的には公開買付規制の対象とはならなかった。しかしながら、上記改正により「急速な買付け」規制が導入されたため、一連の買付け等については、公開買付けが適用されることとなった。

以下のいずれの要件も満たす場合には、「急速な買付け」に該当し、当該取得に含まれる買付け等に公開買付けが強制される(金融商品取引法27条の2第1項4号、同法施行令7条2項ないし4項)。

① 3か月以内に
② 10%を超える株券等の買付け等(取引市場内外を問わない)または新規発行による取得を行い
③ ②の取得の中に、5%を超える株券等の取引市場外での買付け等またはToSTNeT取引等による取得が含まれており(公開買付けまたは公開買付けの適用除外となる買付け等による取得を除く)
④ 取得後に、株券等所有割合が3分の1を超える場合

前述のとおり、現代表者等からの取得だけでは穐田氏の株券等所有割合が3分の1を超えないものの、現代表者等からの取得とその後3か月以内に行われることが予定されていた本第三者割当により穐田氏の株券等所有割合は3分の1を超えることが当初から予定されていた。本取引において、穐田氏は10%を超える株券等の買付け等及び新規発行による取得を実施し、その中に現代表者等からの取得が行われることから、その後に、新規発行による取得により穐田氏の株券等所有割合は3分の1を超えた場合には、当初の買付けに公開買付けが必要となる事になってしまうので、当初から公開買付けを実施し3か月以内の新規発行を可能としたものである。

「急速な買付け」に関する規制は、広範かつ複雑であり、また、将来の株券等の取得態様により事後的に規制に抵触する可能性もあるので、市場外取引またはToSTNeT取引等による

買付け等 (公開買付けによるものを除く)を3か月以内に5%を超えて行う場合には、その後の株券等の取得の可能性も含めて、慎重に検討をする必要がある。

自己株式の応募

自己株式の処分に伴う株式の取得は、買付け等(金商法27条の2第1項)に該当するとされており、対象者が公開買付けに対して自己株式を応募する事ができる。本公開買付けでも対象者であるオウチーノは自己株式を応募している。

対象者が自己株式の応募をする場合には、当然ながら、自己株式処分に必要な会社法の手続を実施する必要がある。具体的には、払込期日に公開買付の決済日を含む形で募集事項の決定を行ったうえ(会社法199条1項)、割当の手続(同法203条、204条)または総数引受契約(同法205条1項)の締結を行う必要がある。

買付予定数に上限が付された公開買付けにおいては、応募株数が上限を上回る場合には按分比例が行われ(金融商品取引法27条の13第5項)、買い付けられる自己株式の数が変動する可能性があるので、公開買付け期間が終了し、買い付けられる自己株式の数が確定してから、割当の手続または総数引受契約の締結を行う。

対象会社が上場会社である場合に、対象者が自己株式を応募する場合には、当該自己株式の処分は金商法条の募集に該当し(金商法2条3項、金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令9条1号)、金額に応じて有価証券届出書や有価証券通知書の提出が必要となる場合があることにも留意が必要である(金商法4条1項、6項)。

特定引受人の生じる第三者割当増資

本公開買付けでは、穐田氏が本第三者割当増資(穐田氏)及び本自己株式処分によりオウチーノ株式を取得する場合には、本取引により、穐田氏が会社法第206条の2第1項に規定する特定引受人に該当する可能性があったことから、公開会社における募集株式の割当て等の特則に基づく手続きが取られている。

平成26年会社法改正により、公開会社において、支配株主の異動を伴う募集株式の割当てを行う場合、株主に対して一定事項を通知等し、議決権総数の10分の1以上を保有する株主から要求があった場合には、原則として株主総会の決議が必要とされた(会社法206条の2第1項)。

支配株主の異動を伴う場合とは、親会社等(会社法2条4の2号)が引受人となる場合と法第202条の規定による株主への株式の割当て以外の以下の場合をいう(法206条の2第1項)。

この場合に該当する引受人が「特定引受人」となる。この特定引受人に該当するかは、引受人ごとに判断されるが、形式的に引受人を複数に分ける場合等、潜脱的な形式の場合は、実態を見て複数の引受人が一人として取り扱われる可能性もある。なお、特定引受人に該当するかの判断において、引受人の親会社等及び兄弟会社は議決権の算定上合算の対象とされていないし、公開買い付けの要否の場合には、議決権の合算対象となる引受人と共同して株式を引き受ける合意をしている者、議決権の行使について合意している者及び引受後に株式の譲渡を合意している者(金商法第27条の2第7項2号、8項参照)も合算の対象とはされていないので、その該非判定には注意が必要である。

今回の場合には、本公開買付けに対する応募株式数が下限を上回った場合には、本取引後の穐田氏の株券所有割合が0.5を超えることが想定されていたので、特定引受人に該当することとして株主に対する通知に代えて一定事項が有価証券届出書に記載され縦覧されたものである(会社法206条の2第3項、会社法施行規則42条の3)。

買付価格と募集株式(自己株式を含む)の払込価額との関係

買付価格の適切性については、それだけで様々な議論があるが、今回はその議論はおいて、買付価格と募集株式の価格(自己株式の処分価格)について若干触れたいと思う。

本公開買付けは、募集株式の募集及び自己株式の処分に関する取締役会決議の前営業日の市場価格に対しては、プレミアムが付されたものであり、募集株式の払込価額もこれと同額であった。

払込金額が募集株式の引受人に対して「特に有利な金額」に該当する場合(いわゆる有利発行の場合)には、株主総会における特別決議が必要とされている(会社法199条3項、会社法309条2項5号)。いかなる場合が、有利発行に該当するかについては、証券会社を構成員として組織される日本証券業協会が「第三者割当増資の取扱いに関する指針」[ⅳ](「指針」)という証券会社向けの指針を公表している。指針によれば、「払込金額は、株式の発行に係る取締役会決議の直前日の価額(直前日における売買がない場合は、当該直前日からさかのぼった直近日の価額)に0.9 を乗じた額以上の価額であること」とされている。また、ただし書では、「直近日又は直前日までの価額又は売買高の状況等を勘案し、当該決議の日から払込金額を決定するために適当な期間(最長6か月)をさかのぼった日から当該決議の直前日までの間の平均の価額に0.9を乗じた額以上の価額とすることができる。」とされている。

したがって、本公開買付けのように買付価格にプレミアムが付された場合に、当該買付価格と同額で募集株式の払込金額が決定された場合には、有利発行の問題は発生しない。一方、ディスカウントTOBの場合には、指針との関係で有利発行の問題が生じうるため、総会の特別決議を経ないようにするため、特別の事情がない限り払込金額を取締役会決議の前日の終値の90%以上とするのが一般的であろう。

[i] 「代表取締役の異動に関するお知らせ」https://corporate.o-uccino.jp/wordpress2/wp-content/uploads/2016/10/8xz4atfhzs.pdf

[ⅱ] 「穐田誉輝氏による当社株式に対する公開買付けの結果、 第三者割当による新株式発行及び自己株式の処分、 主要株主である筆頭株主及び親会社以外の支配株主の異動に関するお知らせ」https://corporate.o-uccino.jp/wordpress2/wp-content/uploads/2016/12/xfztxfmj3x.pdf

[ⅲ] 「第三者割当増資及び第三者割当による自己株式の処分に関する払込完了のお知らせ」https://corporate.o-uccino.jp/wordpress2/wp-content/uploads/2016/12/6xfakcbekt.pdf

[ⅳ] http://www.jsda.or.jp/shiryo/web-handbook/105_kabushiki/files/c0301.pdf

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