プロコメ

2017.2.22

大戸屋のお家騒動 ~何故大手企業にお家騒動が生じるのか~

2017.2.22

「理屈」と「感情」がぶつかる、大戸屋お家騒動の真相

中原 陸
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大戸屋、大塚家具、吉本興業など、大手企業のお家騒動は、まるで芸能ゴシップのように報じられ、好奇の目にさらされて、お茶の間や井戸端会議を賑わす格好の材料とされます。過去に数多くの企業が様々お家騒動を起こし、失敗し、反省する姿を見てきているはずなのに、今もお家騒動がなくならないその本質的な理由を、「大戸屋のお家騒動」を事例に説明します。

お家騒動は、理屈と感情論の戦い

大戸屋のお家騒動は、事業承継と絡んで発生しました。まずは、事業承継について簡単に説明します。

事業承継では、後継者が引き受けるものが大きく2つあります。

  • 株式
  • 経営

株式の承継とは、その会社の所有権を引き受けることです。大戸屋のお家騒動では、大戸屋の発行済み株式の内、18.79%を三森久実氏が所有していました。当時の筆頭株主です。後継者はこの株式を引き受けます。
次に、経営を引き受けるとは、取締役や代表取締役という職を引き受けることです。

お家騒動は、この株式と経営を引き継ぐ際に、別の誰かが異を唱えることがきっかけとして発生します。そしてそこに、理屈(法律、ルール)と感情論(血筋、経営の考え方)が入り混じることで話がややこしくなり、お家騒動と言われるような「騒動」へと発展します。

理屈=株式会社の仕組み、感情=創業家の思い

大戸屋のお家騒動を理解するには、株式会社の仕組みを理解する必要があります。細かい法律の説明は省き、全体像の理解のためにかなり簡素化して説明します。株式会社の所有者は株主です。株主は会社に出資し、そのリターンを会社に期待します。会社はリターンを株主に提供するために利益を上げる必要があります。利益を上げるために、株主は経営を得意とする人間を取締役として選任し、会社の経営を託します。多くの中小企業では、株主は一人で、かつその人間が代表取締役として会社経営を兼任しています。このようなケースでは大戸屋のようなお家騒動は起きません。何故なら、後継者を任命する権利を100%今の株主兼代表取締役が所有しているからで、そこに誰かが異を唱えようと、そこには何も力が働きません。

さて、大戸屋のお家騒動の話に戻します。2015年の7月に大戸屋の創業者であり、代表取締役であった三森久実氏が急逝してしまいました。その株式は奥様に約13%、息子である三森智仁氏に約5%引き継がれました。生前、久実氏は智仁氏を後継者にしたいと考えられていたそうですが、当時智仁氏は26歳と若く、まだ経験不足であったため、経営は現代表取締役の窪田氏に引き継がれました。窪田氏は代表取締役に就任後、久実氏とは違う経営路線をとり、かつ取締役の大半を入れ替えようとします。しかし、創業家でかつ株主である智仁氏がその方針に異を唱えます。これがお家騒動のきっかけです。

取締役を任命するのは株主の役割です。仮に故久実氏が100%の株式を所有していて、それを全て奥様と智仁氏に引き継いでいたとすれば、取締役を任命する権利は法的に創業家にありますので、窪田社長による、取締役を入れ替えようという創業家の意に反する取締役改選案は否決されて終わります。しかし、大戸屋は上場企業であり、その株式の大半は市場に流通されていました。創業家が所有する株式は約18%に過ぎません。取締役の任命は、株主総会における「普通決議」事項です。決議するには過半数以上の株主(議決権)の合意が必要となります。逆も同様で、否決するためにも過半数の合意が必要となります。窪田社長が取締役の大半を入れ替えようとする人事案を創業家が否決するには、株式(議決権)が足りないのです。これが「理屈」です。

しかし、一方で智仁氏にとっては創業者である父の考えや思いを後継者は受け継ぐべきである、という考えがあったのだと思います。ですから、窪田社長が経営路線を転換したり、父が信頼し、共に経営してきた経営陣を刷新しようしたりすることに納得がいかなかったのでしょう。これが創業家の「感情論」です。創業家としての感情論を押し通したいところを、理屈が前に立ちはだかるのです。

お家騒動の顛末

窪田社長が提案する人事案を通すためには過半数の株主(議決権)による賛同が必要となります。逆に、智仁氏は、既に保有している約18%の株式(議決権)に加え、約33%の株主(議決権)を味方につけることができれば、窪田社長による人事案を否決することができます。ここで双方による議決権の取り合い競争が生じます。これが「騒動」として、その背景と共に取り上げられ、注目されたのが大戸屋のお家騒動です。

結果としては、窪田社長が過半数の株主(議決権)による賛同を得ることとなり、新しい取締役人事案が承認されることとなりました。創業家の思いは打ち砕かれることになったのです。

理屈と感情論の対峙は、上場企業であればどこにでも起きうることです。上場後も、創業家が過半数以上の株式を保有し続けることは稀ですから、多くの場合は上場すると、創業家が取締役を独断で選任する権利を失うこととなります。このお家騒動の本質的な問題としては、株式の過半数を持たなくなった後にも、依然として会社は創業家の所有物であると、創業家が認識を変えられないところにあります。創業家としての会社に対する強すぎる思いが邪魔をしてしまうのでしょう。株式の過半数を手放した時点で、その会社は過半数を持つ人・人達のモノに変わった、と切り替えることが創業家には必要です。一株主として、感情論は捨て去り、その会社にとっての最善を考えることがあるべき創業家の姿でしょう。

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