プロコメ

2017.2.22

大戸屋のお家騒動 ~何故大手企業にお家騒動が生じるのか~

2017.2.22

大戸屋のお家騒動から考える事業承継

小黒健三
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哀しみが力となる・・これはフィクションでの感傷である。哀しみが生じる前に実務的な対策を打て、これが現実である。

2014年7月、大戸屋ホールディングスの元会長の三森久実氏は末期の肺がんで余命1カ月と宣告されたという。会長本人にも想定外だったはずだ。56歳とまだ若かった。海外を飛び回り、活力にあふれ、まさか、と思ったであろう。なぜもう少し待ってくれないのか、呟いたかもしれない。

創業家の怒り

元会長が逝去して10か月後の2016年の5月。会社側の人事案に対して創業家が待ったをかけ表明化した大戸屋のお家騒動。お家騒動?大塚家具とは異なり、創業者と現経営陣の間の覇権争いではないか、最初はそう思った。なるほど、前会長は養子に出ており、前会長の実母は社長の窪田氏の母親の姉にあたる。窪田社長と会長は従兄弟の関係にある。本件はやはりお家騒動と言ってよさそうだ。

利益率は下がっているものの、大戸屋の連結売上は260億円に迫り、この3年で年率4-6%増加している。国内約350店舗の基盤も凄まじいが、成長が確実な海外で100店舗。海外の勝ち組にふさわしい成果である。失敗もあったろうが、創業者の久実氏が総じて将来につながる礎を築いたことに疑いはない。その中で、創業家を経営の中枢から外し、金融機関出身者を中心に現経営陣や元経営陣が主軸となる案は、創業家からみたら、乗っ取りと思えても不思議はない。お家騒動の怖いところは、ファミリーだからこそ、論理を超えて、感情も強く出ることである。

間に合わなかった対策

久実氏の持株比率は約18%。上場株を引継ぐ被相続人に、多額の相続税の負担は避けようがない。影響力を重視したか、保有信託、公益財団法人等を通じた対策も不十分だったと見える。見返りとして、被相続人への相続税は避けられない。

多額とはいくらか?法定相続6億円超の最高税率は55%である。上場株式は、相続時時価にしろ、一定期間の平均にしろ、株式の時価がそのまま被相続人に降りかかる。控除を考慮しても大雑把に相続税所得の半分は負担となる。大戸屋HDの時価総額は約150億円。その18%の1/2が相続税だとすると、13億円~14億円となる。

もめた挙句に否認された、相続対策を意識した創業者に対する功労金の検討額は8.7億円(参照:東洋経済オンライン)という。相続税が10億円ぐらいまでなら配偶者の三枝子氏と息子の智仁氏が株式を売却しなくても、何とかなるレベルでも、3-4億円が決定的に足りなかった、というのは大胆すぎる予想だろうか。

未上場企業への示唆

上場なんてしていなければ、お家騒動そのものが生じず、身内の騒動が世間に知られることもなく、相続税もこれほどかからずむしろよかったのでは、という方もいるかもしれない。

それでも、上場が成長の一因だった点を除外し事業承継に焦点を充てても、上場企業だったことは、は創業家の武器になったはずである。結果、融資を受けたものの、むしろ融資が受けられたことは見逃せない。三枝子氏と智仁氏は18%を維持できた。被相続人たる三枝子氏と智仁氏は、大戸屋が未上場株式なら最悪でも売却という選択すらもなく、株式を担保にすることもできなかっただろう。最悪、市場で換金化できる、という点は未上場会社とは次元の違う利点である。

大戸屋が未上場なら、相続税は原則、利益倍率、配当倍率、純資産倍率などの乗数法で評価することになる。相続税評価の現場では、法令通達の算式を利用する場面が多いだろう。投資理論を踏まえたValuationの立場も考察してみる。飲食業の上場企業では企業価値/EBITDAの倍率は10倍を超え、PBRで3倍弱(参照:SPEEDA)。大戸屋ホールディングスはEBITDAで14億円、純資産で45億円。未上場としての減額を考慮しEBITDA倍率6倍、純資産倍率2倍。100%企業価値でざっくり100億円程度となる。これを公正な企業評価とすると18%の半分は約10億円。法令通達に準じるとこれよりかなり低い試算になるがが、それでも数億円では済まない。融資も難しい中で何億円レベルの資金を保有することは容易ではなく、未上場企業での事業承継の難しさを垣間見る思いがする。

大戸屋のレベルであれば、子息は引き継ぐ意欲も出る。多くの企業はそうはいかない。負担に対しメリットが見合わない。本件を見ていくとむしろ未上場企業への示唆になる。事業承継の問題は、未上場企業にとってこそ質の違う深刻な問題であること、早めに対策しないと手遅れになることが、教訓として浮き彫りになる。

哀しみが生じる前に

元会長が末期がんの宣告を受けた時、息子の智仁氏は25歳。能力や可能性とは関係なく、市場から信頼を得るだけの実績を積むには無慈悲なまでに若い。

言葉の節々からも、現経営陣が創業者の元会長に敬愛の念をもっていることは明らかである。久実氏のファンが大戸屋を支えてきたこと、現経営陣にも理解できない訳がない。それでも、実績の薄い創業家に事業を賭ける、という判断は、従業業員にも、株主にも、成長を望んでいた元会長や創業家にすらも、誠実であればあるほどコミットできるものではない。創業家の気持ちは理解できる。それでも、もし私が現経営陣であったらーちょっとしたことで揺らぎ兼ねない心の葛藤はあったとしてもー最終的には現経営陣と似た判断をしたと思う。

5年後なら状況は違った、というのが悔やまれる。

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