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2017.2.22

大戸屋のお家騒動 ~何故大手企業にお家騒動が生じるのか~

2017.2.22

「大戸屋のお家騒動」 ~内紛が示す企業のライフサイクルと資本政策・事業承継~

片山 智裕
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資本政策(株主構成)変更目的のM&A・組織再編

M&Aや組織再編の多くは,事業戦略に従って意思決定を行います。買収企業は,多くの場合,中・長期的な経営戦略の観点から,既存事業を構成する経営資源との相乗効果(シナジー効果)を考慮し,対象事業を構成する“経営資源”を取得するために買収するかどうかを決定します。しかし,対象事業を構成する“経営資源”を取得することを目的とせず,企業の資本政策(株主構成)を変更することを目的とするM&Aや組織再編もあります。いわゆるマネジメントバイアウト(MBO)がその典型例ですが,事業承継のために行われたり,稀に内紛の解決や予防のために行われたりすることもあります。

「大戸屋のお家騒動」は,実際にM&Aや組織再編を伴っていませんが,企業のライフサイクルの観点から資本政策(株主構成)と事業承継を考えさせられる事例です。

「大戸屋のお家騒動」のあらまし

現・株式会社大戸屋ホールディングスは,1983年に故三森久美氏が「和洋食の大戸屋」の店舗展開を目的として設立し,1992年に既存店を全面改装し,現在展開する店舗のモデルとなる「大戸屋ごはん処」を開業しました。店内調理にこだわり,健康を志向したメニューや女性が入りやすい雰囲気で業容を拡大し,2001年に現・ジャスダックに上場し,国内342店・海外94店を展開しています(2016年3月31日現在)。

18.79%の株式を保有する故久美氏は,2012年に社長職を従兄弟である窪田健一氏に譲っていましたが,他方で,2013年に子・智仁氏を入社させ,2015年に常務取締役に任命し,将来的に後継者に育てようとしていた矢先,2016年7月に急逝しました。その直後,窪田氏が智仁氏に香港赴任を告げたことや,酒食中に智仁氏と口論になったことなどの経緯から感情的なもつれがあって,同年9月,妻・三枝子氏(智仁氏の母)が故久美氏の遺骨を社長室に持ち込み,窪田氏を難詰する事態に発展しました。会社は,相続税の支払に備えて故久美氏に功労金を支給する議案について,いったん臨時株主総会に上程する決議をしたものの,故久美氏が生前に手掛けた“負の遺産”(上海出店,植物工場事業など)による多額の損失に対するメインバンクの意向もあって,臨時株主総会の開催を中止しました。故久美氏の株式は三枝子氏が13.15%を,智仁氏が5.64%を相続し,株式を担保に調達した資金で相続税を支払いました。

その後,智仁氏は取締役を辞任し,会社(窪田氏)と創業家(三枝子氏・智仁氏)の間で,互いに代理人弁護士を立てて話し合いが行われましたが,和解に至らず,2016年6月23日に開催された定時株主総会では,会社が上程した役員人事案(取締役11名・監査役2名選任)が可決されたものの,創業家が反対票を投じました。会社は,創業家との対立・確執の原因・経緯の究明を目的に第三者委員会を設置しましたが,その中立性に疑義が示され,創業家の協力を得られず,調査担当委員単独で実施した調査の報告書が公表されています。

企業のライフサイクルと資本政策・事業承継

以上のような株式会社を舞台とした「お家騒動」は,古くから繰り返されており,特に創業者など現経営者の死亡に伴って生じる後継者をめぐる内紛は決して珍しくありません。創業者と企業は,創業期(家業・法人成り)➡成長期(非上場・上場準備)➡成熟期(上場後・創業者の死亡)というライフサイクルを辿ることが少なくなく,「大戸屋」も例外ではありません。企業は,創業期は所有と経営が一致していますが,その規模が大きくなるにつれ,次第に所有と経営が分離していきます。事業承継には,①事業を支配する株式・持分の承継という財産の面(株主の立場)と②事業を経営する指揮・能力の承継という人材の面(経営者の立場)の両面があります。企業の上場は,事業承継の①の面が基本的に完了することを意味しており,「大戸屋」の例でも,創業家が持株比率の維持に拘らなければ,株式の売却により相続税の支払が可能であったといえます。事業承継の②の面では,株式・持分により事業を支配していない人材は後継者になれるとは限りません。経営手腕・カリスマ性のある創業者は,上場により株式が分散したとしても,多くの株主の支持・期待を得られることが多いのですが,その創業者の親族に同じように経営能力があるとは限りません。上場後も相当の持株比率や影響力を持ち,かつ,事業承継の②の面をよほど周到に準備しない限り,上場後に創業者の親族を後継者にすることは難しいでしょう。親族への確実な事業承継を望むのであれば,上場せず,所有と経営を一致させる方向にM&Aや組織再編を活用すべきです。

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