プロコメ

2017.3.8

アサヒビールが世界最大手のビール会社から一部事業を買収

2017.3.6

アサヒビールの買収は高値づかみか?-「セールス型買収」の見地からみると

川井隆史
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1.はじめに

後に詳しく述べますが、この東欧事業にあたってはアサヒビールがSABミラーの東欧事業を買収しましたが高値買いをしたと話題になっています。買収合意が伝えられた12月13日は一時6.4%下落となり、市場の評価はあまり好意的ではありませんでした。しかし、割高かどうかはきわめて静的な分析でありどのように統合を行うかによって左右されます。そのあたり見ていきたいと思います。

2.買収の流れ

大きな流れについて簡単に復習していきたいと思います。これはアンハイザー・ブッシュ・インベブ(ABインベブ)と合併する前に統合前の旧SABミラーが保有していた中東欧5カ国のビール事業を約8883億円(73億ユーロ)で買収したものです。10月にもSABミラーの西欧事業を2045億円(25.5億ユーロ)で買収しています。今回の東欧事業の買収については入札方式でスイスの投資会社ジェイコブズ・ホールディングや中国の華潤ビールなどおよそ6社の提案に対して競り勝っています。問題とされている点ですが買収額73億ユーロは買収対象事業が2016年3月までの1年に稼いだEBITDA(利払い・税金・ 減価償却・償却控除前利益)の約15倍という点でしょう。買収の巧者である日本電産の永守会長がEBITDA倍率10倍以上の案件は手を出さないと述べているように難易度は高い案件だとは思われます。

3.今回のポイント

私の買収タイプでいうと今回は「セールス(営業型)」です。つまり欧州市場において営業マンを配置して開拓していくのは時間とお金がかかります。今回は買収によって一気に市場に参入して大きなシェアを獲得できたわけです。EBITDA倍率が15倍ということですが、これはあくまで「過去に買収対象が獲得した利益」であって「将来獲得する利益」ではありません。アサヒビールが統合することにより「将来獲得する利益」が増加するならば全然高い買い物ではありません。

ただし、そのためにはPMI(買収後統合)に長けたインテグレーションチームの存在が必要不可欠です。相手方の企業文化も理解しつつも基本的にはアサヒビールの営業戦略に統合してシナジーを出していけるチームです。例えばスーパードライをこの買収によって当該国で拡販していく、またはこの買収したブランドをテコ入れして当該国または当該国以外でもどんどん拡販していくことがあるでしょう。または統合により低コストを達成して利益を出していくなども考えられます。これは当然日本人が突然この欧州事業にやってきて運営するだけでは一般的に無理で当該国の人々とチームを組んでやっていかなければならないわけです。いずれにしても国際経験も豊富でかつ統合プロジェクトに長けたという非常に難易度の高いプロジェクトに対応する人材が必要です。残念ながらアサヒビールは海外進出が進んでいる会社とは言えませんし、国内でも特に積極的にM&Aを仕掛けている会社でもありません。また、特に外部から著名なこのあたりの人材を採用したという話も聞きません。入手した情報から判断する限りでは大失敗にはならないかもしれませんが、投下資金に対する期待するほどのリターンは秘密兵器的な人材がいない限り考えにくいところです。

ある外資系投資銀行の幹部(外国人)が以前いっていました。グローバルプレイヤーは買収の尺度がきちんとあってその基準に合わなければほしい案件であってもきちんとあきらめる。しかし、大抵の日本企業はなぜか買収合戦に勝つことが目的になってしまい、担当者も負ければ自分の地位が危ないのでかなり無理しても高値で買収に走るので非常においしい相手だとのことです。この案件がそういった案件でないことを祈りたいと思います。

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