» リーガル面から視る、アサヒビールの欧州企業の買収戦略

テーマアサヒビールが世界最大手のビール会社から一部事業を買収

2016年12月13日にアサヒビールが東欧のビール事業を買収することについて大筋合意したと発表しました。

興味深いのはその相手先がビール会社世界最大手のアンハイザー・ブッシュ・インベブ(ベルギー)という点です。

世界最大手が切り離す事業を、アサヒビールはどのような目的で買収するのでしょうか。

「リーガル面から視る、アサヒビールの欧州企業の買収戦略」

2017年3月6日
阪野公夫

弁護士
阪野公夫法律事務所 代表(愛知県弁護士会所属) 1974年生まれ。早大卒。2003年に弁護士登録。主に愛知県や名古屋市における、中小・中堅企業の倒産や事業再生・M&Aの案件に携わる。最近では、コア部門の事業譲渡と清算を行う第二会社方式による再生案件に数多く関与。企業破産や破産管財人での実績も多数。2013年3月には「金融円滑化法終了を踏まえた事業再生の最新実務とM&Aの活用方法」の講演を共催。

 

昨年12月、アサヒグループホールディングス(以下「アサヒグループHD」)は欧州のAB InBev社との間で中東欧5カ国における事業等の取得に関して、株式売買契約を締結したと発表しました。

この大型買収案件の成否は、買収する東欧5カ国のビールもピルスナーウルケルなど名門ビールが多いことから、アサヒグループHDが、ブランド価値を生かして、自社のスーパードライ拡販と合わせて、相乗効果を生み出せるかがカギを握っていると報道されています。

一般的にM&Aにおいては、事業戦略に従って意思決定が行われます

アサヒグループHDの買収に限らず、一般的にM&Aにおいては、事業戦略に従って意思決定が行われます。

具体的に言いますと、買収企業(今回ではアサヒグループHD)は、中・長期的な経営戦略の観点から、既存事業を構成する製品やブランドとの相乗効果(シナジー効果)を考慮して、対象事業を構成する経営資源を取得するために買収するかどうかを決定します。

実際に、アサヒグループHDは、今回の買収案件について海外戦略を含めた中・長期的な経営戦略における位置づけをホームページ等で公表しています。

 

では、相乗効果(シナジー効果)を考慮して、対象事業を構成する経営資源を取得するために買収するかどうかの判断を行う場合、どのような過程(プロセス)を経るのか、法的(リーガル)な視点から考えてみたいと思います。

 

独占禁止法や知的財産権に関する法令に違反しないか

第一に、買収企業の製品やブランドといった経営資源と対象事業の製品やブランドが、買収によって、独占禁止法や知的財産権に関する法令に違反しないか、という視点です。

この点は、買収を検討する際、最初に行うリーガルチェックというべき事項といえます。ですので、そもそもこの点で法令の抵触が明らかになれば、その時点で買収しないとの意思決定になります。

その意味では、対象企業の製品やブランドが明らかであれば、自社の経営資源及び法令と照らし合わせて判断できますので、検討自体は比較的容易とも言えます。

 

人的物的な経営資源に関するリーガルチェック

第二に、対象事業の製品やブランドを支える、人的物的な経営資源(生産施設、社員や取引先など)に関するリーガルチェックです。

主なチェック項目としては

①生産施設などが環境法令その他の法令に違反していないか

②社員との雇用契約の内容や未払い残業代などの問題が噴出しないか

③取引先との取引契約において不履行などがないか

といった点が挙げられます。

これらの点は製品やブランドとは異なり、外部から一見しても見えない事項ですので、慎重な検討が必要となります。

ただ、外部から見えにくい事項ですので、検討するとしても、対象事業側が開示した内部資料を基に判断するしかない、というのが実情です。

ここで問題となるのが、対象事業側が買収企業に対して開示した内部資料が誤っていた場合にどうなるか、という点です。この問題は、海外での買収案件でも国内のM&Aでも生じます。

通常、買収の契約書において、対象事業側が開示した内部資料について正確性を表明し、保証するという条項が明記されます(表明保証条項といいます)。

このように、表明保証条項によって対象事業側の内部資料の正確性を担保するという方法をとります。

最近では、対象事業側が表明保証条項に明記したにもかかわらず、内部資料等に過誤があり、買収企業が損害を被った場合に、買収企業の損害を填補する「表明保証保険」が注目を集めています(日本経済新聞平成29年2月27日朝刊)。

以上のように、買収案件では製品やブランドといった外部から見える事項も重要ですが、それだけでなく製品やブランドを支える外部から見えない、生産設備や取引先といった事項についても非常に重要となります。

とりわけ海外の買収案件では、より企業内部が見えにくいという状況もありますので、外部から見えない事項のチェックが重要となります。

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    川井隆史

    公認会計士

    当時世界最大級の会計・コンサル企業であったアーサーアンダーセン、米コカ・コーラやGEなどのグローバル企業で事業計画やM&A後のインテグレーション責任者など従事後、その経験を生かし外資系日本法人のCFOや上場ベンチャー企業の役員などを経て創業。現在ハンズオン・CFO・パートナーズ㈱ 代表取締役社長として PMI業務(買収後統合業務)や外資系企業・ベンチャー企業の外部CFO業務、経営改善・税務会計コンサルティングなどを行っている。

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    家永勲

    弁護士

    家永 勲 弁護士法人ALG&Associates パートナー・弁護士 東京弁護士会所属 上場企業が手がけるM&Aにおける法務DDの責任者として対応するほか、会社法を活用した買収目的に適したスキームの策定等も実践し、M&Aに関わる法務問題を幅広く取り扱っている。 企業法務におけるトラブルへの対応とその予防策に関するセミナーのほかストレスチェックやマイナンバーなど最新の法改正に即したセミナーや執筆も多数行っている。

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    藤原宏高

    弁護士

    弁護士法人ひかり総合法律事務所、代表弁護士の藤原宏高です。 2006年~2014年までミネベア株式会社社外監査役、2016年~現在は、株式会社三越伊勢丹ホールディングスの社外監査役を務めております。 これまで顧客本位のリーガルサービスを目標として,ワンストップサービスを実現させるべく海外法律事務所ともネットワークを構築し,中小企業の海外進出支援や,中小企業の事業承継とM&A取引などに積極的に取り組んで参りました。