» アサヒビール,旧SABミラーの東欧事業を買収

テーマアサヒビールが世界最大手のビール会社から一部事業を買収

2016年12月13日にアサヒビールが東欧のビール事業を買収することについて大筋合意したと発表しました。

興味深いのはその相手先がビール会社世界最大手のアンハイザー・ブッシュ・インベブ(ベルギー)という点です。

世界最大手が切り離す事業を、アサヒビールはどのような目的で買収するのでしょうか。

「アサヒビール,旧SABミラーの東欧事業を買収」

2017年3月13日
藤原宏高

弁護士
弁護士法人ひかり総合法律事務所、代表弁護士の藤原宏高です。 2006年~2014年までミネベア株式会社社外監査役、2016年~現在は、株式会社三越伊勢丹ホールディングスの社外監査役を務めております。 これまで顧客本位のリーガルサービスを目標として,ワンストップサービスを実現させるべく海外法律事務所ともネットワークを構築し,中小企業の海外進出支援や,中小企業の事業承継とM&A取引などに積極的に取り組んで参りました。

1.はじめに

アサヒグループホールディングス株式会社(以下「アサヒHD」という)は,2016年12月13日,ベルギーに本拠を置くビール世界最大手のアンハイザー・ブッシュ・インベブ社(Anheuser-Busch InBev SA/NV,以下「AB InBev 社」という)との間において,AB InBev 社が2016年10月に買収したイギリスを本拠とするSABMiller plc(以 下「SABミラー社」という)が保有していたチェコ、スロバキア、ポーランド、ハンガリー、ルーマニアの中東欧5 カ国のビール事業、及びその他関連資産の取得を目的として、株式売買契約(以下、「本件取引」といいます。)を締結した。

2016年12月13日付けIRによれば,本件資産の取得価格は7300百万ユーロ(約8883億円)で,アサヒHDが対象事業の買主として欧州委員会から承認されることが先行条件となっている。2017年2月15日付決算短信でも,追加情報として,今回の買収を開示しており,対象事業の取得に関連し、取得金額全額に対して融資予約契約を締結しているとのことである。

 

2.今回の買収に先行する買収

今回の買収に先立ち、アサヒHDは、2016年10月には、約3000億円を投じてSABミラー社のイタリア、オランダ、英国事業及びその他関連資産を取得し、「Peroni」、「Grolsch」といったプレミアムビールブランドを中心として、西欧における強い事業基盤を獲得したと言われている(2016年12月13日付M&A Times)。

株式を譲渡するAB InBev 社は,2016年10月10日、世界第2位のビールメーカーのSABミラー社を約10兆1000億円で買収したばかりである。アサヒHDのチャンスはここから生じたようだ。独占禁止法に抵触することを回避するため、AB InBev 社はSABミラー社の欧州4社を同年10月にアサヒHDに手放したのである。

 

3.売買対象資産について

今回の買収は、同様にSABミラー社から、中東欧 5 カ国市場における事業を買収するものである。売買対象の株式及び資産の内訳は,上記IRによれば,「AB InBev 社によるSABミラー社統合前に,SABミラー社が保有していた中東欧 5 カ国市場における事業及びその他関連事業を構成する会社の全株式、並びに「Pilsner Urquell」、「Kozel」、「Tyskie」ブランドを含む知的財産権(但し、米国・プエルトリコにおける「Pilsner Urquell」、「Tyskie」、「Lech」ブランド に係る知的財産権、中東欧5 カ国市場における「Miller」ブランドに係る知的財産権及び中東欧 5 カ国市場以外における「Redd’s」ブランドに係る知的財産権等を除く)その他関連資産」である(以下「本件資産」という)。

譲渡対象企業は全8社から構成される。

 

4.買収リスクについて

今回、買収する中東欧5カ国のビールもピルスナーウルケルなど名門ビールが多く、営業利益率は約21%。アサヒGHDがこのブランド価値を生かし、自社のスーパードライ拡販と合わせて、相乗効果を生み出せるかが焦点であると言われている(日刊工業新聞ニュースイッチ2016年12月14日)。

問題は買収価格が巨額であり、アサヒHDにとっては、巨額の「のれん」が発生するおそれがあることである。アサヒHDは、上記決算短信でのれんの処理について、以下のように記載している。

「(ⅲ) 企業結合 企業結合は取得法を用いて会計処理しております。取得対価は、被取得企業の支配と交換に譲渡した資産、引き受けた負債及び当社が発行する資本性金融商品の取得日の公正価値の合計として測定されます。取得対価が識別可能な資産及び負債の公正価値を超過する場合は、連結財政状態計算書においてのれんとして計上します。」

ブルームバーグの2016年12月15日付の報道では、買収価格は高騰したが、対象資産の価値は約6500億円から7000億円相当であるとのことである。この情報を基に、買収価格の約8883億円との差額がのれんになると仮定して、単純なプレミアム率を計算すると、プレミアムは26%から36%程度となる。

 

5.会計基準の変更について

アサヒHDは、巨額の買収に備えてか、会計基準を2016年よりIFRSに変更した。

2016年2月15日付IRでは、以下のように記載している。

「アサヒグループは、財務情報の国際的な比較可能性の向上や開示の充実により、株主・投資家の皆さまをはじめとしたステークホルダーに対して、より有用性の高い情報を提供し利便性を高めることを目的として、当年度(2016年 1月1日から2016年12月31日まで)より、国際財務報告基準(IFRS)を適用しております。」

IFRSの利点は、のれんの計上が少なくて済むことである。このように、リスクの高い巨額の買収に際しては、のれんの処理が重要な課題となり、安易な買収を行うと、買収した事業が赤字に転落した際は、巨額の減損処理を迫られる恐れがある。

このような視点からは、アサヒHDが会計基準をIFRSに変更したのは望ましいことと考えられる。

以上

その他専門家コラム

  • 「リーガル面から視る、アサヒビールの欧州企業の買収戦略」

    阪野公夫

    弁護士

    阪野公夫法律事務所 代表(愛知県弁護士会所属) 1974年生まれ。早大卒。2003年に弁護士登録。主に愛知県や名古屋市における、中小・中堅企業の倒産や事業再生・M&Aの案件に携わる。最近では、コア部門の事業譲渡と清算を行う第二会社方式による再生案件に数多く関与。企業破産や破産管財人での実績も多数。2013年3月には「金融円滑化法終了を踏まえた事業再生の最新実務とM&Aの活用方法」の講演を共催。

  • 「アサヒビールの買収は高値づかみか?-「セールス型買収」の見地からみると」

    川井隆史

    公認会計士

    当時世界最大級の会計・コンサル企業であったアーサーアンダーセン、米コカ・コーラやGEなどのグローバル企業で事業計画やM&A後のインテグレーション責任者など従事後、その経験を生かし外資系日本法人のCFOや上場ベンチャー企業の役員などを経て創業。現在ハンズオン・CFO・パートナーズ㈱ 代表取締役社長として PMI業務(買収後統合業務)や外資系企業・ベンチャー企業の外部CFO業務、経営改善・税務会計コンサルティングなどを行っている。

  • 「アサヒビール、旧SABミラーの東欧事業を買収」

    家永勲

    弁護士

    家永 勲 弁護士法人ALG&Associates パートナー・弁護士 東京弁護士会所属 上場企業が手がけるM&Aにおける法務DDの責任者として対応するほか、会社法を活用した買収目的に適したスキームの策定等も実践し、M&Aに関わる法務問題を幅広く取り扱っている。 企業法務におけるトラブルへの対応とその予防策に関するセミナーのほかストレスチェックやマイナンバーなど最新の法改正に即したセミナーや執筆も多数行っている。