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2017.3.15

武田薬品工業のM&A戦略

2017.3.15

医薬品業界はなぜM&Aを行うか~武田薬品工業によるアリアド社の買収~

中野友貴
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武田薬品によるアリアド社の買収

2017年2月16日、武田薬品工業は、TOB(株式公開買い付け)を実施し、米国の製薬会社であるアリアド・ファーマシューティカルズ(マサチューセッツ州)の買収(合計54億ドル(約6100億円))を完了しました。

今回の買収は、2011年スイスの製薬会社ナイコメッド社の買収(買収額約1兆1200億)、2008年米国製薬会社ミレニアム・ファーマシューティカルズ社の買収(買収額約8800億円)に次ぎ、同社としては3番目の規模となる大型買収です。

このほかにも同社は、2012年には、ブラジルの製薬会社であるマルチラブ社の買収、米国の製薬会社であるURLファーマ社の買収、2008年には米国製薬会社アムジェンの日本法人の買収など積極的なM&Aを行っています。

医薬品業界のM&A

このような積極的なM&A戦略は、国内メーカーの中では売上高第1位を誇る武田薬品に限るものではありません。売上高第2位のアステラス製薬は、2016年に独バイオ医薬品企業ガニメド社の買収、2015年に米国バイオテクノロジー企業Ocata社の買収、2007年に米国バイオベンチャー企業アジンシス社の買収など行っています。国内第3位の第一三共は、2014年に米国バイオベンチャー・アンビット社の買収、2010年に米国製薬会社ルイトポルド社の買収、2008年にインド製薬会社ランバクシー・ラボラトリーズ社の買収などを行っています。

このように主要な国内メーカーは、積極的なM&A戦略をとっています。

M&A戦略の背景

主要な国内製薬会社の産業構造は、典型的な高付加価値型/研究開発型産業です。つまり、売上げから原価を引いた付加価値額が他産業に比して非常に高く、その大きな部分を研究開発費が占めています。

製薬会社は、研究開発により新規開発した医薬品を特許権で保護します。開発した医薬品が特許権による保護を受けると、開発した製薬会社は、その医薬品の製造・販売を独占することができますので、これにより保護された医薬品を販売して高い収益を上げるというビジネスモデルがとられています。

しかし、特許権は、原則として出願日から20年間という期間制限がありますので、主要な国内メーカーの特許権も失効することになります。特許権が失われると、その医薬品と同一の有効成分を有するジェネリック医薬品が非常に安価で販売されるようになるため、特許を有していた医薬品の売上げが激減します。そして、2010年前後に国内メーカーの主要な医薬品の多くが特許権を失うことになり、売上げが低下することになりました。武田薬品についても同様であり、タケプロン、アクトスなど主要な医薬品の特許を失っています。

このような状況を踏まえて、製薬会社は、新薬にかかる権利を取得することが急務となっています。しかし、新薬の開発には多大な研究開発費や高度なノウハウが必要になりますので、開発力・技術力の向上や、開発済み医薬品の権利取得による売上伸長などといったシナジーの獲得を目的に積極的なM&A戦略がとられています。

武田薬品の戦略

今回、武田薬品が買収するアリアド社は、がん治療薬に強みを持つ企業であり、発売済みの白血病の治療薬や、臨床試験中であり承認が見込まれる非小細胞肺がんを対象とした薬を有しています。M&Aによりこれらを取得することによって、武田薬品は、がん領域において持続的な成長を図ると発表されています。

武田薬品は、2014年に、消化器系疾患領域、オンコロジー(がん)、中枢神経系疾患領域、代謝性・循環器系疾患領域を4つの重点疾患領域と定めました。これに伴い、2016年には臨床検査薬大手の和光純薬工業の売却、英アストラゼネカ社に呼吸器系疾患領域ポートフォリオの売却なども行い、事業の絞りをかけています。

今回の買収は、重点分野であるオンコロジー分野の強化の姿勢が強く示された例といえます。

前述した医薬品業界の状況を踏まえると、武田薬品をはじめとする医薬品会社において、今後も今回と同様なM&A戦略がとられることが予想されるところです。

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