» 中国マクドナルド売却~記憶の価値

テーマ米マクドナルドが中国事業を売却するのは何故か?

2017年1月9日、米マクドナルドがその中国事業を中国中信集団(CITIC)、並びに米投資ファンドのカーライル・グループに売却すると発表した。

中国には2600もの店舗がありながらも、食材の賞味期限問題などから業績が低迷していました。

CITICは今回の買収を通じて、フランチャイズ加盟店として20年間の運営権利を獲得する、ということが特徴的と言えます。

本件の中身について考察します。

「中国マクドナルド売却~記憶の価値」

2017年3月29日
小黒健三

公認会計士
小黒健三 やまと監査法人パートナー 専門はアジアM&A支援。東大経卒後、旭硝子、北関東の外食企業を経て、1998年青山監査法人(PwC)入所。2013年1月に独立し、2015年からやまと代表社員。16年間の海外M&A支援実績130件超。共著に「アジアM&Aの実務」(中央経済社)等。人材育成塾「アジアM&A実行の実務」講師。

マクドナルドの記憶

食は記憶を伴う。その中にはマクドナルドを初めて食べた時の記憶も、あるかもしれない。私の場合、35年ほど前、働き盛りの父に連れられて、池袋でマクドナルドを初めて食べさせてもらった。私の記憶はこうだ。「パサパサしているなあ。」完全にあ満足はさせないところがファースト・フードの真骨頂でもあることまでには気がつかなかった。

13年前上海に駐在していたとき、中国ではKFCは悪くないな、と感じた。中国は鳥のおいしい国なのだ。KFCのアプローチは大雑把にいえば地産地消。もしかしたら中国産ではなかったかも知れないが-中国の悪くはない鳥がKFCにそのまま使われているのだろう、私は勝手にそう思った。

逆にマクドナルドの素晴らしさは、世界中どこでも同じ味である点だ。マクドナルドは、店舗数はKFCの半分ほどだったが、存在感は1/2をはるかにこえて薄かった。食に対して並々ならぬ愛情をもっている中国人に、ちょっとした記憶を超えて、何かを残せるかは疑問だった。

中国マクドナルド事業売却

今年の2017年1月、中国の国有複合企業CITICが52%、カーライルが28%でマクドナルドの中国事業を買収すると発表した。20%は米マクドナルドの出資が残る。今年7月には案件は成立する見込みらしい(出所:Bloomberg)。

CITICとカーライルによる、マクドナルド中国事業の買収価格は、100%事業価値で20億8千万米ドル(110円/米ドル換算で2,288億円)という(出所:Dow Jones & Co -2017/01/10)。果たしてこれは高いのか、安いのか。

 

中国ファースト・フード市場

中国レストラン・ファーストチェーンのグラフを見てみよう。2014年の中国における一定規模以上のレストランの業界売上高は3,348億元(出所:SPEEDA)、前期比で初のマイナス成長となった。一方で、中国のファースト・フードの市場規模は913億元でプラス成長を維持した。ファースト・フードは市場規模こそ小さいが、2005年から2014年まで年平均成長率18%で、レストランの同15%を上回る。

そのなかで、中国の街を、特に地方都市を歩けば分かることがある。伸びの多くは、「真功夫」、「大家楽」または「大快活」といった中華系のものだろう、と確信する。ファースト・フードであろうと、食は、最後ローカルが勝利する。中国で米系ファースト・フードが市場を席巻した時代は数年前には終わっていた。

マクドナルドも中国では売り時を迎えていた。

 

 

 

 

 

出所:CEInet

 

20.8億ドルの価値

マクドナルドは、中国では、歴史も知名度もKFCに遜色ないものの、店舗数や売上高ではKFCに大きく引き離されてしまっていた。KFCの米本社YUM!の年次報告書によれば、2015年末時点で中国KFCの店舗数は5003店、中国事業の利益の75%をたたき出しているという。他方中国マクドナルドは、2015年末時点で約2,400店舗(米マクドナルド年次報告書)と半分にみたない。しかも、KFCが第2、第3都市も含めて広い地域に進出しているのと異なり、マクドナルドが包括する都市は、第1級都市が主である。

KFCの包括地域はマクドナルドの約4倍。マクドナルドは中国の地方都市ではほとんど見かけない。今後成長が鈍化し、多くの人口の所得が欧米や日本レベルにまではなかなか達しないであろう中国において、マクドナルドの地方進出の遅れは決定的な意味をもっているはずである。

もう一度問う、中国マクドナルドの20.8億ドルの事業価値は高いか、安いか。


KFCを有するYUM!チャイナの時価総額は100億ドル(出所:Dow Jones & Co-2017/01/10)という。YUM!年次報告書によれば、KFC中国はYUM!中国事業の利益の75%を占める。利益基準で乱暴に言えばKFC中国の価値は75億ドル。私からみて、ファースト・フードの決め手は立地であり、店舗数である。マクドナルドは店舗数から言えば、KFCの半分程度として37億ドル程度が適正と見える。

それでは、米マクドナルドは割安で売ってしまったのか。

マクドナルドはそれほどバカではない。20年間の売上ロイヤリティの6%、これは強力である。中国KFCの売上高が日本円で5,000億円として、マクドナルドはせいぜい2,000億円とみる。中国マクドナルドのロイヤリティは年間で約120億円となる。税金を考慮しても年間約1億ドル、現在価値の割引率7%として20年間のロイヤリティの価値は15億ドル近くとなる。中国事業単体での20.8億ドルを加えると、米マクドナルドが得る価値と、中国事業の合計の価値では36億ドル程度、となる。結果は前述の値に近似する。2014年夏に発覚した期限切れ鶏肉の問題もかかえていた中国マクドナルドとしては、それほど悪くない条件だったと思える。

近年、世界のファースト・フードの経営は、資産をもたない方向に動いている。FCを基盤にし、フランチャイジーに資産とリスクを負ってもらい、元締めは収益だけを確保する。逆にCITICは不動産など資産をすでに多く抱えており、ファースト・フードに知見がなくても、その相乗効果は普通に見出せる。これから注力すべき地方都市の急拡大には、CITICは有効な投資家だと見える。

 

記憶の価値

都市部を中心に、多くの中国人の青春の思い出に、マクドナルドの記憶も少しは含まれているだろう。その意味では、この味気なくも思う肉やポテトも、中国の人民に何かを残しているのかも知れない、池袋で食べた記憶と同じぐらいパサパサの肉を、シンナー臭の混じる上海の海路でかじりながら、当時はそんなことも思った。

その13年後、中国マクドナルドが売却されるなど予想もしていなかった。感傷ではない。当時の記憶が現代に繋がり、考察を湧き立たせる、これほど面白いことも少ないな、と思うのである。

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  • 「日本のマクドナルドも売られるのか?」

    照井 久雄

    中小企業診断士

    インクグロウ株式会社 取締役 事業戦略部長 中小企業診断士 1978年7月生まれ 経営コンサルタントとして提携フランチャイズ本部の立ち上げをした後、証券会社で公開引受業務や中堅中小企業の資金調達の支援を行う。 その後、中小企業を中心としたM&A業務に従事し、2013年にインクグロウ株式会社に入社。現職として数多くのM&Aを成功に導く。