ぱどが開示した平成29年2月23日付「資本業務提携、第三者割当による新株式の発行、主要株主、主要株主である筆頭株主及び親会社の異動並びに発行可能株式総数の変更に関する定款の一部変更に関するお知らせ」によれば、同社は直近の厳しい経営状況が続いており、業績の悪化及び財政状態の毀損等により、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような状況が存在していることから、RIZAP グループの連結子会社となることで、RIZAP グループからの広告出稿及び、RIZAグループのマーケティング・営業ノウハウの活用により、収益を拡大し、また、「ぱど」を通じたRIZAP グループ企業製品・商品の販売等を共同で取り組むことも可能となること等から、ぱどの企業価値向上に資するとの認識のもと、RIZAP グループへ第三者割当増資を実施した。
M&Aにおいて第三者割当増資が行われる場合の特徴は以下が考えられる。
このような特徴から、第三者割当増資を利用したM&Aは、友好的なM&Aとして資本業務提携の一環として行われることや、対象会社の財務が悪化しており、他の資金調達の利用が困難な場合に救済的に行われることが多い。
一方、既存株主の議決権の希釈化や支配権の異動を伴う第三者割当増資については、現経営陣が支配株主を選ぶことを可能とするなど問題点も多かった。そこで、近時、会社法や上場規程が改正されてきたのでそれらを踏まえつつ、主要な留意点に限って以下解説をする。
第三者割当増資を利用したM&Aの場合には、特に有利な金額で引受人に募集株式を発行するケースも多い。有利な金額で募集株式を発行する場合、その理由を株主総会で説明し、
株主総会における特別決議を得る必要がある(会社法199条3項、会社法309条2項5号)。いかなる場合が、有利発行に該当するかについては、証券会社を構成員として組織される日本証券業協会が「第三者割当増資の取扱いに関する指針」[i](「指針」)という証券会社向けの指針を公表している。指針によれば、「払込金額は、株式の発行に係る取締役会決議の直前日の価額(直前日における売買がない場合は、当該直前日からさかのぼった直近日の価額)に0.9 を乗じた額以上の価額であること」とされている。また、ただし書では、「直近日又は直前日までの価額又は売買高の状況等を勘案し、当該決議の日から払込金額を決定するために適当な期間(最長6か月)をさかのぼった日から当該決議の直前日までの間の平均の価額に0.9を乗じた額以上の価額とすることができる。」とされている。
ぱどのケースの場合、本第三者割当増資の取締役会決議日の直前営業日(以下「直前営業日」といいます。)である平成29 年2月10 日の東京証券取引所における当社株式の終値(以下「終値」といいます。)(281 円)に対しては73.67%のディスカウント、直前営業日から1ヵ月遡った期間の終値の単純平均値(286 円)に対しては74.13%のディスカウント、直前営業日から3ヵ月遡った期間の終値の単純平均値(289 円)に対しては74.39%のディスカウント、直前営業日から6ヵ月遡った期間の終値の単純平均値(299 円)に対しては75.25%のディスカウントを行った金額となされており、有利発行に該当し、株主総会の特別決議を得て発行をしている。
ぱどによるRIZAPグループに対する第三者割当増資の場合、その実施後のRIZAP グループの議決権数が総議決権数の71.11%となるため、会社法第 206 条の2第1項に規定する特定引受人となる。
したがい、会社法第206条の2第1項に規定する所定の事項の通知等が必要になるが、上場会社の場合には所定事項を有価証券届出書に記載することでその要件を満たすことになる。
また、特定引受人が発生する第三者割当増資の場合には、議決権総数の10分の1以上を保有する株主から要求があった場合には、原則として株主総会の決議が必要とされる(会社法206条の2第1項)。その結果、株主総会を予定していない場合でも、それが必要となった場合に備えた準備も必要となるが、今回の場合にはいずれにしても株主総会の決議が予定されていたことから、総会決議を通すための準備をすればよかったわけである。
上場会社が大規模な第三者割当増資を行う場合で、希釈化率が25%以上となる場合又は支配株主が異動する見込みがある場合には、①経営者から一定程度独立したものによる当該割当ての必要性及び相当性に関する意見書の入手、又は②当該割当てに係る株主総会決議などによる株主の意思の確認の手続をとる必要がある。ただし、資金繰りが急速に悪化していることなどにより上記のいずれも行うことが困難であると取引所が認めた場合には、この限りではないとされている。
ぱどの場合も、株主総会において、既存株主の意思を確認するという手続を取っている。
第三者割当増資は、会社の支配権に争いがある場合に、現経営陣が敵対的な株主以外に株式を割り当てることによって行われる場合もある(いわゆる買収防衛策として利用される場合)。
このような場合、現経営陣に会社の支配維持の目的があることは、不当な目的とされているが、会社支配維持の目的があれば直ちに著しく不公正な方法に該当するわけではなく、それが主要な目的の場合のみ著しく不公正な方法とされている。そして、会社に資金調達の必要がある場合に、資金調達を目的に第三者割当増資を実施した場合には、会社支配維持の目的が否定できない場合にも、著しく不公正な方法には該当しないとされている。
このように第三者割当が著しく不公正な方法に該当するかを第三者割当増資の主要目的が資金調達にあるかによって判断する枠組みは主要目的ルールと呼ばれており、多くの裁判例がこのルールに従っているので、会社支配権に争いがあるような場合に、第三者割当増資を実施する場合には、主要目的ルールに則って、著しく不公正な方法に該当するかを検討しておく必要がある。
[i] http://www.jsda.or.jp/shiryo/web-handbook/105_kabushiki/files/c0301.pdf