» RIZAPによるぱど子会社化~RIZAPによるメディア事業への本格 進出

テーマRIZAPグループが、フリーペーパー発行の「ぱど」を買収

2017年2月13日、RIZAPグループがフリーペーパーなどを発行する「ぱど」を子会社化すると発表され、3月31日にそれが完了しました。

ぱどが実施する第三者割当増資をRIZAPグループが引き受け、発行済み株式のうち約71%を保有することとなります。

RIZAPグループが何故今ぱどを買収するのかについて考察します。

「RIZAPによるぱど子会社化~RIZAPによるメディア事業への本格 進出」

2017年4月5日
坂元 英峰

弁護士
平成8年京都大学法学部卒、平成10年京都大学大学院法学研究科卒。 平成12年4月弁護士登録。平成17年6月税理士登録。日系企業のアジア進出支援に定評のある弁護士法人マーキュリー・ジェネラルの代表パートナー。 国内外の企業法務、M&A、事業再生等に豊富な経験を有し、社外役員を務める会社も多数あり、各分野に関する講演歴等も多数にのぼる。  

1 はじめに

RIZAPグループ株式会社(RIZAP)は、旧中期経営計画「中期ビジョン2018」を前倒し達成したことにより、平成27年2月に「COMMIT 2020」というRIZAPらしいタイトルの新中期経営計画を発表した。COMMIT 2020では、RIZAPが自己投資産業グローバルNo.1ブランドになり、売上高3000億円、営業利益350億円(いずれも連結)を計上することが目標として掲げられている。

この大目標達成に向け、RIZAPは、近年のコア事業であるパーソナル・トレーニングジム事業が好調を維持しているほか、上場・非上場を問わず、積極的なM&A(買収)戦略による拡大路線を加速させており、市場においても注目の的となっている。そのM&A戦略の一環として、平成29年2月13日、RIZAPは株式会社ぱど(ぱど)との戦略的事業資本提携の契約と、ぱどの第三者割当増資の引受けによる子会社化等を発表し、過日(平成29年3月31日)にかかる増資引受けの完了(子会社化)を発表した。そこで、本稿では、このRIZAPによるぱどの子会社化(資本業務提携)のねらい等について、筆者の見解を述べてみたい。

 

2 RIZAPの強み

RIZAPは元々「健康コーポレーション株式会社」として知られ、健康食品や化粧品等の販売事業をコアビジネスとして、平成18年5月に札幌証券取引所アンビシャスに上場したが、インパクトのあるTVコマーシャルでもお馴染みのパーソナル・トレーニングジム「RIZAP」事業等で近年急成長し、平成28年7月のRIZAPの純粋持株会社化によって、現在のRIZAPグループ体制に至っている。

RIZAPは、20代~30代の若年層に圧倒的な知名度と顧客基盤を有している。そしてRIZAPによると、同社が世界No.1を目指す「自己投資産業」は、生活必需品産業とは異なり、上限なき拡大の可能性がある市場であって、適切な商品及びサービスの投入により、業績の急拡大が可能とのことである。RIZAP事業の顧客層は、いわゆるシニア層に大きな未開拓領域を残しており、それ自体の成長余地があるだけでなく、積極的なM&A戦略の中で提供可能な商材を拡充していることを考えても、その宣言には実現可能性を感じさせるものがある。

そのRIZAPの強みは何か。それは、「自己投資産業」に関する若年層を中心とした強固な顧客基盤のほか、RIZAP自身がぱど買収の際の適時開示資料に記載している「RIZAPの爆発的成長を支えてきた独自のマーケティング力」にも注目する必要があり、これが今回のぱどの子会社化戦略においても重要な視点となりうる。

 

3 ぱどの子会社化による「RIZAPメディア事業グループ」の推進

RIZAPは、平成29年2月13日付け適時開示資料「株式会社ぱどとの戦略的事業資本提携方針のお知らせ」において、以下のとおり宣言している。

『●当社グループは、今後、グループ各社の販売機会の最大化、マーケティング効率・宣伝広告費等の適正化、および、将来の事業の柱の創出を目的に、ぱどを「RIZAPメディア事業グループ構想」の中核企業として迎え、メディア事業への本格進出を進めてまいります。』『●「RIZAPメディアグループ構想」においては、「豆乳クッキーダイエット」「美顔器エステナード」「ボディメイクRIZAP」などRIZAPの爆発的成長を支えてきた独自のマーケティング力を基盤に、株式会社日本文芸社による出版事業、北斗印刷株式会社による印刷事業、および、株式会社ぱどによる地域メディア事業などのRIZAPグループ内のメディア関連の事業・機能を集約し、他に類を見ないマーケティング力を有する「RIZAPメディア事業グループ」としての事業を一体的に推進し、「より幸せに輝いて生きたい」という人々に対して最適な情報を提供し、信頼されるメディアグループの構築を目指してまいります。』『●短期~中期的観点からは、RIZAPの従来の強みである「マス・マーケティング」と、発行部数No.1の地域密着型メディアである「ぱど」とのベストミックス実現により、当社グループ全体のマーケティング機能のさらなる強化を進めてまいります。』

 

4 実際上想定される効果(PLインパクト等)

上記適時開示資料の一部をなすPPTスライド資料では、ぱどの広告媒体としての優位性分析もなされている。例えば、新聞折込に比べて料金も安く、地域的によりきめ細かな配布が可能で、ぱど同梱により捨てられにくいといった点が列挙されているほか、読者層の8割がRIZAPのメインターゲットである20代~40代であるといった分析も記載されており、それだけでも目先のシナジーは理解できそうに思える。

ただ、RIZAPとしては、ぱどの子会社化は、よりシンプルに広告宣伝費の一部のようなものであり、合理化の一環として考えている可能性もある。すなわち、平成28年3月期のRIZAPの連結損益計算書によると、同社は通期広告宣伝費として約91億9490万円を計上しており、その投資意欲の旺盛さは誰もが知るところである。そして、今回のぱどの第三者割当増資の引受け額は約10億円である。ぱどの株式評価は未だ割高ではないかという声はあるかもしれないが、RIZAPの広告宣伝費投資の一環ないし割合として捉えた場合には、前期(平成29年3月期)今期(平成30年3月期)ベースの数値で分析すれば、さほどではないのかもしれない。

他方で、ぱどの業績は広告出稿の減少等によって不調が続いており、慢性的な赤字体質になっている。その業績改善は決して簡単ではない、と思えるかもしれないが、RIZAPは平成29年3月29日付け適時開示「株式会社ぱどとの広告出稿業務委託契約に関するお知らせ」によって、この点を容易に解決してしまいそうな対策を明らかにしてきた。すなわち、同適時開示資料によれば、RIZAPはぱどが発行するフリーペーパーにおける不稼働の広告枠について一括契約をし、安価で広告宣伝活動を行うとともに、ぱどに年間5億円以上の発注を行うことで、同社の早期黒字化と中期的な成長路線への転換を加速させるというのである。

この点、ぱどの過去の損益計算書を見る限り、ぱどの粗利率は近年40%前後で推移している。そして、ぱどは平成27年3月期に1億6400万円の営業赤字、平成28年3月期に1億7500万円の営業赤字をそれぞれ計上している。ぱどの不稼働広告枠の活用であれば、上記5億円以上の発注によって、大きな販管費負担がある訳でもないであろうから、そのうち約40%、すなわち約2億円近い金額が営業利益に上乗せされること、すなわち早期の営業黒字化は、上記出稿が現になされるのであれば、現実味を帯びるシナリオであるように見える。このぱどのPLへのインパクトは、言うまでもなくぱどの株価に対する刺激ともなり(上記適時開示の翌日、ぱどの株価は終値ベース80円高のストップ高となった)、「まだまだ割高だ」と言われたぱどの株価を上げ、RIZAPのBSにも大きなポジティブインパクトを与える可能性もありうる。そうなれば、今後のRIZAPのM&A投資余力の拡大という観点からも、好影響をもたらすのではないかと考えられる。

 

5 RIZAPの今後のM&A戦略と、ぱどの位置付け

RIZAPグループは、本稿執筆時点で子会社44社(うち上場企業6社)により構成されるに至っている。注目すべきは、RIZAPが平成29年3月期第3四半期末(平成28年12月末)時点において約183億円もの豊富な現預金を保有しており、また、RIZAPの株式時価総額も1100億円前後の水準まで膨らんでおり、かつ、創業者の持株比率が高率を維持しているという点である。すなわち、RIZAPはまだまだM&A戦略上必要な資金の調達余力を、柔軟な方法論含めまだまだ保有しているということであり、今後も「COMMIT 2020」の(早期)達成に向けて、M&Aを含め様々な投資等を行うことができるということである。

ぱどが、RIZAPが適時開示資料において公言しているとおり、2020年までに発行部数を現状の2倍近い2000万部にまで伸ばすことになれば、これも公言どおり「圧倒的No.1の地域密着型マーケティング企業」になるであろう。そうなれば、ぱどは連結BS、PL、株価のすべてにおいてRIZAPに好影響をもたらし、ぱどを通じたメディア関連のM&A推進という戦略も想定することができ、これがRIZAPにとってのベストシナリオの1つであると思われる。

 

6 総括

本稿では、上記「不稼働広告枠への年間5億円以上の出稿」に関する適時開示があったこともあり、今回のRIZAPによるぱどの子会社化について意外な分かりやすさを感じたため、ポジティヴな評価を中心に記載した。

しかし、他方において、ぱどに限らず紙媒体全般について漂う斜陽感は、どうしても否めない面もある。これは否定できないところであり、「RIZAPがぱどを子会社化」というニュースに接しての第一印象も、決して良いものとは言えなかったというのも、正直なところではある。ただ、現在のぱどの主要顧客層であるという30代(40.1%)、40代(23.4%)は、いずれ必然的に齢を重ねて50代、60代になっていくものであり、また、これらの年代層が高齢化してから急に「紙媒体ではない尖ったメディア」に傾斜していくのかと言えば、これも疑問なしとしない。やはり、上記のようにRIZAPとして目先のシナジーが見込めるのであれば、少なくともRIZAPにとっては投資に値する案件という判断であったとは言えるのではないか。

ところで、RIZAPは「会社をひたすら買っている」というイメージが先行しているかもしれないが、シナジーが見込めないと判断した子会社等については、割合早期に売却もしている。そういった動きも含め、RIZAPのメディア事業の展開に関するM&A戦略には、今後も注目したいところである。

(以上)

その他専門家コラム

  • 「RIZAPグループによる株式会社ぱどの子会社化について」

    飯島康央

    弁護士

    弁護士 飯島康央 紀尾井町法律事務所所属。2000年4月弁護士登録。2015年度第二東京弁護士会副会長。2015年6月からパルシステム生活協同組合連合会員外監事を務めています。 離婚や相続問題、交通事故や消費者事件などの他、企業間の法的トラブルに関する訴訟事件や契約書の作成、審査、債権回収、労務問題など、中小企業の法務支援にも力を注いでいます。

  • 「RIZAPグループとぱどとの資本業務提携にみる第三者割当増資を利用したM&Aについて」

    松本甚之助

    弁護士

    2006年弁護士登録、2012年アメリカ合衆国ニューヨーク州弁護士登録。クロスボーダーM&Aを含むM&A案件と国際取引、国際紛争、国際倒産処理手続等の渉外案件を中心に取り扱う。現在三宅坂総合法律事務所のパートナーとして、国内案件のみならずASEAN諸国や中国・インドなどにおけるクロスボーダーM&A等提携取引の事例と相談を多く手がけている。

  • 「RIZAPグループによる「ぱど」子会社化について」

    小林幸与

    弁護士・税理士

    明治大学法学部卒業後の昭和61年から弁護士活動開始。結婚出産子育てを経て、平成9年より豊島区池袋にて弁護士活動を再開。その後、東京税理士会に登録して税務分野に拡大。法人化を機会に平成26年東京銀座に進出。現在は、弁護士法人リーガル東京と税理士法人リーガル東京の代表として、銀座本店と池袋支店で弁護士5名・税理士2名の体制にて、相続税務や事業承継を含む相続全般・不動産関係に特化した事務所を経営する。

  • 「Rizapグループとぱどとの資本提携にみる再建型ファイナンスについて」

    花澤健司

    公認会計士

    大手監査法人で会計監査業務および会計アドバイザリー(IPO、企業価値評価、企業再生及びM&Aのための財務デューデリジェンス)の業務に従事したほか、PE Fundおよび不動産ファンドに対して、M&Aアドバイス及び会計スキーム構築アドバイス、内部統制アドバイスに行った。2012年1月より独立開業、バイオベンチャーのCFOや資金調達支援といったコンサルティング以外の業務も積極的に行っている。