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2017.4.12

三越伊勢丹HDがニッコウトラベルを買収

2017.4.12

三越伊勢丹ホールディングスのニッコウトラベル買収が示唆するものは?

金子博人
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2017年2月10日、三越伊勢丹ホールディングスは、東証2部上場のニッコウトラベルを買収すると発表した。それから1ヶ月もたたない3月7日、突然大西洋社長が任期途中の4月1日付で退任するというニュースが流れ、世間を驚かした。

ニッコウトラベルの買収は、上場会社(東証2部)の買収のため公開買付の手法をとり、買い付け期間は2月13日から3月23日。大西社長の解任劇は、まさにこの買付期間中であった。これは、2月10日の時点では大西社長は解任されるとは思っていなかったことを想像させる。その後の3月24日、三越伊勢丹ホールディングスは、公開買付で91.2%を取得し、5~6月をめどに残りの株式を全部取得して、ニッコウトラベルを完全子会社化すると発表した。

デパート業界は典型的な構造不況業種であるが、ことに最近はネット販売に押され、更に中国人の爆買いも終演し、どこも売り上げの劇減に直面している。

高島屋はショッピングセンターに軸足を移し、不動産収入に活路を見いだしたようだ。J・フロントリテイリングも、同じようにテナントに販売させる不動産賃貸業に注力している。松坂屋銀座店跡地に4月オープンする銀座シックスは、商業施設、業務施設、文化・公共施設を展開する巨大複合施設で、同社はこれからは賃貸収入を得る不動産管理業をデパートに変わるメインの収入源とするのだろう。

ライバルの老舗デパートは、このようにもはやデパート事業に頼っていない。ところが、三越伊勢丹ホールディングスは、今だ売り上げの9割以上がデパートであり、構造改革に後れを取っていたと言わざるを得ない。中国観光客の爆買いも影を潜めた現在、売り上げの急減に対し、改革は待ったなしであったはずだ。

構造転換の遅れを取り戻すため、大西社長は、16年9月に、三越千葉店など2店舗を閉鎖し、広島三越など4店舗で抜本的なリストラを進めることを発表した。不採算の地方店から撤退し、都心店に集中させたいのだろう。同時に大西社長は多角化する戦略に出た。1月には、エステ会社を傘下におさめ、2月に、旅行業のニッコウトラベルの買収に出たというわけである。M&Aは多角化のためのスピードアップの常とう手段であり、世間は、三越伊勢丹ホールディングスもやっと生き残りに本腰をいれだしたな、という感想を持ったはずだ。

大西社長は伊勢丹出身であり、新宿店のメンズ館を成功させ、その手腕はデパート業界で高く評価されていた。日本百貨店協会の会長にもついていた彼は、三越伊勢丹の中興の祖となることを期待されていたはずである。

その大西社長が道途中で追放されてしまった。経済界は大きな衝撃を受けたが、このような事態を招いた原最大の動力は従業員である。

三越伊勢丹ホールディングスは、デパートの三越と伊勢丹が2008年4月 共同株式移転で設立したものだが、一方はカジュアル他方は高級路線で、顧客の重なりは少なく、シナジーを利かせやすい組み合わせであったはずだ。ところが内部的には、社風の違いが意思疎通を阻み、両者の対立構造はかなりのものだったようだ。

改革やM&Aで最も強く反対するのは、従業員である。入社直後の新人教育から始まり、与えられたことを忠実に黙々と尽くすのが日本のサラリーマンである。改革は、今まで黙々とやってきたことが否定されることであり、簡単には受容できないのであろう。

三越系店舗は、もっぱら上質な富裕層を顧客として商売をしてきたが、その分野の商法は特に落ち込みが激しく、ことに地方は顕著だったようだ。とはいえ、三越系従業員は、簡単には方向転換できない。大西社長の改革は、三越系の従業員にとっては、追い落としと感じたようだ。日本の企業は閉鎖的なタコツボを形成するといわれるが、その欠点は、このように合併した時に強く現れるようだ。

いずれにしても、跡を継ぐ杉江俊彦社長は大変であろう。従業員の融和をはかりながら、改革を進めなければならず、大西社長に倍するリーダーッシップが求められているはずだ。

さてここで、ニッコウトラベルの買収に戻ろう。

同社は、昭和51年に日航トラベル株式会社としてスタートし、54年に株式会社ニッコウトラベルへ社名変更し、主として欧州を中心とする海外旅行の商品を販売していた。河川クルーズ船「セレナーデ2号」を運用しているオランダのライム・ツリー・クルーゼを事実上の子会社としていた。顧客は、60歳以上が95%、特に70歳代の比率が全体の半数を占める富裕層だった。彼らは海外旅行経験豊かで多様化なニーズを持ち、高品質のサービスを求める。しかし、広告媒体たる新聞行部数の低下もあり、同社は顧客獲得に苦闘していたようだ。

他方、買手の三越伊勢丹ホールディングス側では、株式会社三越伊勢丹旅行という旅行会社を持っていた。この出自を見てみよう。

旧三越百貨店は、主に三越の客を対象とし、国内の三越オリジナルのラグジュアリーバスを核とした高付加価値、高価格帯旅行の商品を提供していたが、客の確保に苦労していたようだ。

旧伊勢丹は、持ち分法適用関連会社の株式会社JTB伊勢丹トラベル(06年にJTBと提携して設立)を有し、伊勢丹のお客様に、他社のパッケージツアーの旅行商品を販売していた。しかしそれだけでは収益が伸びず、自主開発の顧客ニーズに適合する商品の開発の必要性を痛感していたようだ。

その結果、15年1月、三越伊勢丹旅行営業部を中心に株式会社三越伊勢丹旅行を設立し、JTB伊勢丹トラベルを解散し、両社を一本化した。

旅行業とデパート業は顧客を共有できて親和性が強く、シナジーを利かせやすい。多角化の手段として、デパートが旅行業を手に入れるのとは的確な選択だと言える。

しかし、本体のデパート業でも三越と伊勢丹の社風の違いは、なかなか克服できなかったが、旅行事業でも、同じことが起きていたようだ。自主開発商品の拡販が求められていたが、三越と伊勢丹の顧客層の違いを生かすどころか、タイムリーの商品の開発に苦労していたようだ。

そこで、欧州を中心とする海外旅行を企画してきた開発能力の高いニッコウトラベルを買収して、国内だけでなく世界をまたぐ開発力を獲得することを目指したようだ。

三越伊勢丹旅行は売り上げ70億円、ニッコウトラベルの売上高40億円、合計で110億円と、今回の買収で中堅の旅行会社へと成長する。とはいえ、成功するかどうかは、従業員次第である。三系統の社風をまとめ上げられる、有能なリーダーを得られるかどうかが成功の鍵であろう。

さて、今回のM&Aの買取価格は一株390円であった。買収発表日の2月10日の終値は301円なので、29.6%のプレミアム付き。これ自体は一般的な設定である。943万1197株が対象なので取得総額は約37億円となる。売上高40億からするとやや安い印象もあるが、、無理のない買収金額といえよう。ニッコウトラベル自体も、経営の停滞に直面していたからである。

問題は、三社の社風が融合し、創造的な企業風土を構築できるかである。本体の三越伊勢丹ホールディングスを反面教師とできればよいのだが。

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