2017年2月3日、企業向けパソコンなどの情報機器を販売するソレキア株式会社の株式に対し、フリージアマクロス株式会社の会長である佐々木ベジ氏が、買付価格を1株2800円として公開買付け(TOB)を開始した。このTOBに対して、ソレキアは、企業価値を向上させることはないと判断し、反対の意見を表明した。その後、いわゆる「ホワイトナイト」として富士通株式会社が登場し、富士通もソレキアに対して、買付価格1株3500円でTOBを行うことを表明し、ソレキアはかかる富士通のTOBに対して賛同すると発表した。その後、両社は、そろって買付価格を引き上げるなど、ソレキアを巡って佐々木氏と富士通の間で買収合戦が激化している状況である。
ソレキアをめぐる佐々木氏と富士通の買収合戦は以下のような経緯になります。
以上のように、ソレキア株式に対して佐々木氏と富士通がTOBを実施すると公表した後、佐々木氏は買付価格を4回、富士通も買付価格を2回それぞれ増額しています。また、買付期間もそれぞれ変更しています。では、このような買付条件の変更に関して金融商品取引法の規制や制限等はないのでしょうか。
金融商品取引法は、一定の場合を除き、買付条件等の変更を行うことができると規定しています(金融商品取引法27条の6第2項)。そして、買付条件の変更を行うことができない一定の場合として、買付価格の引き下げ、買付予定の株券の数の減少、買付期間の短縮等を規定しています。つまり、TOBに応募する株主に不利になるような変更については行うことができないとしているのです。
したがって、TOB開始後は、応募する株主に不利になるような、買付価格を下げたり、買付期間を短縮するような変更は禁止されるのですが、今回のケースのように、買付価格を増額したり、買付期間を延ばすような変更は自由にすることができるということになります。
変更回数にも制限はありませんので、理論的には、増額という方向であれば何度も増額が可能ですし、期間も永遠を延長することを繰り返すことも可能なのです。
今回は、富士通はこれ以上増額しないことを公表しておりますので、増額方向での競争は一応決着がついているようです。
以上のように、ソレキアは、佐々木氏のTOBに対して反対の意見を表明するとともに、富士通のTOBに対しては賛同する意見を表明しております。昨今では、このようにTOBに対してTOBを受ける会社が意見を表明することは一般化しており、よくニュース等でも見受けられることなので特に気になることでもないかもしれませんが、このようにTOBを受ける会社が意見を表明することは法律上の義務なのでしょうか?
答えはYESです。
金融商品取引法は、公開買付公告が行われてから10日以内に意見表明報告書を提出しなければならないと定めており、TOBを受ける会社の意見表明は義務化されております(金融商品取引法27条の10)。
TOBを受ける会社の意見を公表することにより、株主・投資者の投資判断の的確性を高めることを目的とした制度となっております。
ソレキアの場合には、佐々木氏のTOBに対しては当初は意見を留保する旨の意見表明を行い、その後に反対する意見表明をしています。これに対して、富士通のTOBに対しては賛同する旨の意見表明を行っています。
なお、TOBを受けた会社は、意見表明報告書に質問を記載することにより、公開買付者に対して質問をする権利が与えられています(金融商品取引法27条の10第2項1号)。今回のケースでもソレキアによる意見表明報告書に質問が記載され、これに対する佐々木氏の回答書が提出されています。
以上、基本的なところですが、TOBにおける金融商品取引法上の制度と規制を見てきました。