» CCCによる徳間書店買収のユニークな点は何か?  

テーマカルチュア・コンビニエンス・クラブによる徳間書店買収について

2017年3月21日、TSUTAYAを展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブは3月21日付で徳間書店を買収した、と発表しました。

株式の保有比率を15%から97%まで引き上げたと発表されています。

このM&Aの目的や中身について考察します。

「CCCによる徳間書店買収のユニークな点は何か?  」

2017年6月3日
川井隆史

公認会計士
当時世界最大級の会計・コンサル企業であったアーサーアンダーセン、米コカ・コーラやGEなどのグローバル企業で事業計画やM&A後のインテグレーション責任者など従事後、その経験を生かし外資系日本法人のCFOや上場ベンチャー企業の役員などを経て創業。現在ハンズオン・CFO・パートナーズ㈱ 代表取締役社長として PMI業務(買収後統合業務)や外資系企業・ベンチャー企業の外部CFO業務、経営改善・税務会計コンサルティングなどを行っている。


はじめに

 

3月21日CCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社)の子会社であるCE(カルチュア・エンタテインメント株式会社)が株式会社徳間書店の株式を取得し取得持分を97%取得し子会社化しました。徳間書店はエンタメに強い老舗の出版社で、かつてはアニメ制作事業としてスタジオジブリを抱えていたことでも有名でした。(ジブリは2005年に分離・独立)。しかし、近年は主力雑誌(アサヒ芸能、アニメージュ、GoodsPress)が軒並み不振で2015年3月期には10億円の赤字を計上し、債務超過に陥っています。CCCは15%の株式をすでに所有し、絶版となった本を新たに復刊にむけプロデュースするプロジェクト「復刊プロデュース文庫」を、徳間書店より発刊するなど共同事業を行っていましたが3月に子会社化しました。一見すると経営不振の徳間書店の経営支援のようですが、それだけなのでしょうか。PMI(買収後統合)の観点から見ていきたいと思います。

 

これはどのような形態の買収なのか?

 

以前このコラムで紹介したのですが私の考え方として買収には型があります。詳細についてはこのURL(https://ma-jouhouhiroba.jp/procmmt_column/20161123003/)を参照していただきたいのですが、私はこのディールはビジネス型の戦略タイプ(経営企画型)だと思っています。ビジネス型戦略タイプは基本的にトップダウンで戦略的見地から現在グループでは手掛けていない新たな事業を買収するタイプです。ちなみに、もう一つのタイプはビジネス型のセールスタイプ(営業型)です。なぜビジネス型セールスタイプかと言うと営業とは基本的に1件1件顧客を獲得していく活動ですが、この型のM&Aによって投網で掬うように一気に顧客ベースを拡大するため広い意味での営業活動と考えられるからです。

ビジネス型の戦略タイプ(経営企画型)だと思う理由はCCCの増田社長は単に徳間書店を買収後、リストラをし、主力雑誌をテコ入れして利益を出す体質にしていくなどと言う単純なモデルは考えていなさそうなことです。直接の親会社であるCEは「出版、映像、音楽製作・企画等エンタメ分野におけるSPA事業」を謳っており要するに自分でコンテンツを作って売るということで一見そのラインナップに一社増えただけのような気がします。主力雑誌の読者を取り込むだけのセールスタイプに見えるのです。しかし、これは以前破たんした「美術手帖」などを発行しているアート専門出版社の美術出版社の統合をみればそれとは異なることは明らかです。

CCCは4月20日にオープンした「GINZA SIX」に、蔦屋書店初となるアートをテーマにした店舗を開設しました。「文具・雑貨、CAFÉ、ギャラリー、イベントを通して、アートとともに暮らす生活を提案する」とのことでアートブックの品ぞろえ日本一をめざし6万冊のアート関係の書籍雑誌を並べ、実際にアート作品の展示販売もするようです。ここで活躍したのがこの美術出版社のメンバーです。開業に向けて、アーティストやアート作品市場に詳しい編集部がオリジナルのムックなどを編集・出版したほか、店舗開発の企画にもさまざまなノウハウを提供したようです。このようにCCCは美術出版社を統合することにより全く新しい形態の書店を生み出しました。

このビジネス型戦略タイプのM&Aはかつて述べたように天才型のディールで事業構想力のない典型的サラリーマン社長が行うとほぼ100%失敗する難易度の高いものです。一方一般の投資家では目にみえない将来への投資なので買収価額の高い・安いに関する議論はさほど意味がありません。買収価額よりもどのような事業をここから構築していくかのPMIが非常に重要なのです。

 

今後の展望

 

本当の事業の行き着く先は自分のような凡人では想像もつかないものだと思われますが、なにかしら徳間書店の持つアニメに関する知見を単なる出版ではなくエンタメコンテンツとして生かしていくと思われます。このビジネス型の戦略タイプの統合の場合、セールスタイプとは違い完全自社の形に染めていくことはなく、後者に比べると緩やかな統合になると思われます。この手の買収で効率性を優先させて創造性を殺してしまっては元も子もないからです。徳間書店の文化で残すべき部分は残し、一方CCCグループとして守っていかねばならない観念(コアバリュー)は守ってもらうという形の統合が望ましいと思われ、おそらくその方向だと思われます。

その他専門家コラム

  • 「徳間書店の子会社化は救済か?シナジー効果か?」

    阪野公夫

    弁護士

    阪野公夫法律事務所 代表(愛知県弁護士会所属) 1974年生まれ。早大卒。2003年に弁護士登録。主に愛知県や名古屋市における、中小・中堅企業の倒産や事業再生・M&Aの案件に携わる。最近では、コア部門の事業譲渡と清算を行う第二会社方式による再生案件に数多く関与。企業破産や破産管財人での実績も多数。2013年3月には「金融円滑化法終了を踏まえた事業再生の最新実務とM&Aの活用方法」の講演を共催。

  • 「出版業界における買収のメリット」

    家永勲

    弁護士

    家永 勲 弁護士法人ALG&Associates パートナー・弁護士 東京弁護士会所属 上場企業が手がけるM&Aにおける法務DDの責任者として対応するほか、会社法を活用した買収目的に適したスキームの策定等も実践し、M&Aに関わる法務問題を幅広く取り扱っている。 企業法務におけるトラブルへの対応とその予防策に関するセミナーのほかストレスチェックやマイナンバーなど最新の法改正に即したセミナーや執筆も多数行っている。

  • 「株式会社徳間書店の買収の意味するもの」

    藤原宏高

    弁護士

    弁護士法人ひかり総合法律事務所、代表弁護士の藤原宏高です。 2006年~2014年までミネベア株式会社社外監査役、2016年~現在は、株式会社三越伊勢丹ホールディングスの社外監査役を務めております。 これまで顧客本位のリーガルサービスを目標として,ワンストップサービスを実現させるべく海外法律事務所ともネットワークを構築し,中小企業の海外進出支援や,中小企業の事業承継とM&A取引などに積極的に取り組んで参りました。