» 出版業界における買収のメリット

テーマカルチュア・コンビニエンス・クラブによる徳間書店買収について

2017年3月21日、TSUTAYAを展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブは3月21日付で徳間書店を買収した、と発表しました。

株式の保有比率を15%から97%まで引き上げたと発表されています。

このM&Aの目的や中身について考察します。

「出版業界における買収のメリット」

2017年6月7日
家永勲

弁護士
家永 勲 弁護士法人ALG&Associates パートナー・弁護士 東京弁護士会所属 上場企業が手がけるM&Aにおける法務DDの責任者として対応するほか、会社法を活用した買収目的に適したスキームの策定等も実践し、M&Aに関わる法務問題を幅広く取り扱っている。 企業法務におけるトラブルへの対応とその予防策に関するセミナーのほかストレスチェックやマイナンバーなど最新の法改正に即したセミナーや執筆も多数行っている。

今年の3月21日にカルチュア・エンタテイメント株式会社(以下、「CE社」)が株式会社徳間書店(以下、「徳間書店」)を子会社化したことが発表されました。

元々は、15%程度の資本提携及び業務提携関係にあったようですが、今回の手続で、97%程度の持ち株比率まで上昇させたとの報道があります。

これまでには、絶版の書籍の復刊などにおいて業務提携関係を活かしてきた両社ですが、今回の買収にはどのような背景が考えられるのでしょうか。

 

  • 業績の低迷する企業の買収と経営判断の原則について

 

本件では、CE社が、徳間書店の株式の保有比率を97%にまで高めたとのことですので、株主から株式を買い取る方法にて子会社化を推し進めたということが推察されます。

本件では、一部では徳間書店は債務超過に陥っていたとの報道もあるように、業績が低迷する企業であり、債務超過となると、純資産を基準とした評価方法などでは、株式自体に客観的な価値を見いだすことは難しい側面もあろうかと思います。

とはいえ、追加出資額が未公表ですので、どのような方法で買い取ったのかは不明ですが、幾ばくかの価値を付けなければ株主から買い取ることも難しいでしょう。

会社として、仮に株式に価値がないとすれば、一定の価額をつけてこれを購入するということは、無価値のものに金を払うという面のみを見た場合には、判断に誤りがあると言われかねません。しかしながら、企業買収の場面においては、主観的には価値がある場合もあり、経営判断の側面も大きくなります。

ただし、買収のプロセスや判断の根拠等に合理的な理由がない場合には、取締役らの責任が生じる場合もあります。経営判断に対する、裁判所の審査方法については、意思決定の過程、内容が著しく不合理でない限り、取締役らの責任を問うものではないと考えられています。

 

  • CE社にとっての徳間書店の価値はいかなるものか

 

CE社にとって、徳間書店が、財務諸表上に現れるような数値以外に価値を見いだしたとすれば、どのような側面か想像してみましょう。

誰もが想像できるように、徳間書店は数々の出版権や知的財産権を有しているものと思われます。これらの権利は、目には見えませんし、必ずしも全てが財務諸表上に資産価値として現れてくるわけでもないでしょう。また、徳間書店のように長く経営している企業においては、ほとんど使われていない古い権利も保有しているでしょう。

このような権利は、歴史のある企業でなければ有しておらず、短期間で新たに生み出すことは著しく困難であり、他に代替しがたい権利であり、企業の価値であると思われます。徳間書店以外は有していないオリジナルの権利やコンテンツが企業に詰まっているということです。

おそらく、仮に徳間書店が法的な破産手続又はこれに類する手続きをとった場合には、上記のような権利やコンテンツは、購入希望者を募り売却される可能性があります。とすると、権利関係はバラバラになり、一体として有していれば価値が生み出せたかもしれないコンテンツや権利も利用価値がなくなる恐れがあります。また、そのような事態に至った場合、できる限り高く購入を希望する者へ売却される可能性が高く、CE社としてもこれらの権利を入手できるとは限りません。

したがって、CE社としては、徳間書店が有する出版権や知的財産権、それらのコンテンツをまとめて入手する機会をつかんだといえるでしょう。

手に入れた徳間書店の権利やコンテンツを如何に利用するかは、CE社の計画次第ではあろうかと思われますが、近年、居心地を重視した書店を展開したり、コンセプトを明確にした売り場づくりを行い、単に本を売る場所としての「書店」という展開から脱却を図るために、徳間書店のコンテンツや同社が有する歴史が活用されていくことになるのではないかと思われます。

以上

その他専門家コラム

  • 「CCCによる徳間書店買収のユニークな点は何か?  」

    川井隆史

    公認会計士

    当時世界最大級の会計・コンサル企業であったアーサーアンダーセン、米コカ・コーラやGEなどのグローバル企業で事業計画やM&A後のインテグレーション責任者など従事後、その経験を生かし外資系日本法人のCFOや上場ベンチャー企業の役員などを経て創業。現在ハンズオン・CFO・パートナーズ㈱ 代表取締役社長として PMI業務(買収後統合業務)や外資系企業・ベンチャー企業の外部CFO業務、経営改善・税務会計コンサルティングなどを行っている。

  • 「徳間書店の子会社化は救済か?シナジー効果か?」

    阪野公夫

    弁護士

    阪野公夫法律事務所 代表(愛知県弁護士会所属) 1974年生まれ。早大卒。2003年に弁護士登録。主に愛知県や名古屋市における、中小・中堅企業の倒産や事業再生・M&Aの案件に携わる。最近では、コア部門の事業譲渡と清算を行う第二会社方式による再生案件に数多く関与。企業破産や破産管財人での実績も多数。2013年3月には「金融円滑化法終了を踏まえた事業再生の最新実務とM&Aの活用方法」の講演を共催。

  • 「株式会社徳間書店の買収の意味するもの」

    藤原宏高

    弁護士

    弁護士法人ひかり総合法律事務所、代表弁護士の藤原宏高です。 2006年~2014年までミネベア株式会社社外監査役、2016年~現在は、株式会社三越伊勢丹ホールディングスの社外監査役を務めております。 これまで顧客本位のリーガルサービスを目標として,ワンストップサービスを実現させるべく海外法律事務所ともネットワークを構築し,中小企業の海外進出支援や,中小企業の事業承継とM&A取引などに積極的に取り組んで参りました。