» ホリイフードサービスに対するTBIホールディングスによる株式公開買付~株主一人だけからのディスカウントTOB~

テーマTBIホールディングスによるホリイフードサービスへのTOB

株式会社TBIホールディングスは、ホリイフードサービス株式会社の株式に対するTOBを行い、52.5%の株式を取得しました。今回のTOBの目的について考察いたします。

「ホリイフードサービスに対するTBIホールディングスによる株式公開買付~株主一人だけからのディスカウントTOB~」

2017年7月3日
中島成

弁護士

昭和34年8月生 東京大学法学部卒 裁判官を経て昭和63年4月弁護士。中島成総合
法律事務所を主宰。日本商工会議所・東京商工会議所「会社法制の見直しに関する検
討準備会」委員、東京商工会議所「経済法規・CSR委員会」委員等を務める。平成
16年度まで中小企業診断士試験委員(経営法務)。全国地方銀行協会研修所などで
の講演多数。『図解 会社法のしくみ』(日本実業出版社)『民事再生法の解説~企
業再生手続~』(ネットスクール)など著書多数。

平成29年6月2日、株式会社TBIホールディングス(以下「TBI」)は、ホリイフードサービス株式会社(以下「ホリイ」)の株式に対する公開買付(TOB)手続(以下「本件TOB」)が終了したことを発表した。

TBIは、投資ファンドであるインテグラル投資事業有限責任組合等が出資し首都圏を中心に飲食店等を展開する非上場会社であり、ホリイは、昭和58年に創業され、「居酒屋 村さ来」のフランチャイジーとしてチェーンストアを運営してきたノウハウ等によって、現在、多種類の居酒屋等を運営する東証JASDAQスタンダード市場の上場会社である。

 

 

【株主一人だけからのTOB】

本件TOBは、ホリイの創業者で代表取締役会長である堀井克美氏(以下「堀井氏」)一人だけから、ホリイの株式52・5%を取得して終了した。他の株主が本件TOBの買い付けに応じることはなかった。

これは、本件TOBの買付価格が1株430円で、本件TOB開始前日である平成29年4月17日の終値・1株553円より22.3%安い、いわゆるディスカウントTOBであったことが最大の理由である。本件TOBの買付期間中の株価も1株536円から588円前後で推移し、各日とも本件TOBの買付価格より高かった。

しかしそれだけではなく、他の株主が買付に応じなかった理由には、本件TOB後もホリイの上場を維持するよう努めることがTBIから表明されていたこと、一般株主からすればTBIの資金やノウハウ、人材等によってホリイの営業成績向上が期待できたことがあると考えられる。

 

 

【本件TOBの価格はどうやって決められたか。なぜ堀井氏は市場価格より低い価格で支配株式を手放したのか】

通常、TOBにおいては、対象会社がTOBに対する意見表明を行うために第三者機関に企業価値を前提にした適正価格の算定をさせて公表し、また、一般株主が応じるインセンティヴにするためや、TOB実施者が支配権を取得する等のため、市場価格より高いプレミアム価格で買付け価格が設定される。

しかし、本件TOBは上記のとおり市場価格より相当低額なディスカウントTOBであった。

その価格は、事前にTBIと堀井氏の間で協議されて決められたもので、平成29年4月11日のTBI取締役会で承認を得たものだった。そのため、ホリイは第三者機関に価格算定もさせていない。

 

このようなディスカウントTOBが行われる背景には、ホリイの業績低迷と、業績改善のためには他社と提携するしかないという堀井氏の判断があったと考えられる。

ホリイの業績は、平成28年3月期、売上高8,224百万円(前期比3・8%減)、営業利益334百万円(前期比40・9%減)、経常利益334百万円(前期比41・2%減)で、113百万円の当期純損失であった。翌平成29年3月期には、売上高7,292百万円(前期比11・3%減)、営業利益61百万円(前期比81・6%減)、経常利益44百万円(前期比86・8%減)で、当期純損失は502百万円と更に急激に低迷した。売上の低下率に比べて営業利益の低下率が激しい理由は、売上が損益分岐点を割りつつあるからと考えられる。

そのような中、ホリイは、堀井氏個人の有する株式を利用した他社との資本提携による生き残りを探り、入札手続きまで実施していた。

堀井氏としても、他社とシナジー効果を生めるような提携なしには、業績改善や株価維持は困難と判断してディスカウントTOBにあえて踏み切ったと考えられる。

その意味で本件ディスカウントTOBは、業績改善と堀井氏の今後の損失をできるだけ小さくすることの二兎を追ったものといえる。

 

 

【なぜ株主一人だけからの取得でTOB手続が必要なのか】

本件TOBはディスカウントTOBだから、堀井氏以外の株主が本件TOBに応募しないことはあらかじめ予測できる。だからTBIとしては、単純に堀井氏との証券市場外での相対取引で買い取る方が合理的である。公開買付実施には相当の費用もかかる。

なぜ本件TOBを実施したのだろうか。それは3分の1ルールがあるからである(金融商品取引法27条の2第1項2号)。3分の1ルールとは、市場外での買付け後に、株式所有割合が3分の1を超える場合、当該買付は公開買付によらなければならないというルールで、上場株式取引の一定の透明性を確保するためや、株式買付けに応じる機会の公平性確保のために設けられている。

 

TBIが取得する本件ホリイ株は所有割合52.5%だったから、3分の1ルールによってこれを市場外で買い付けるには公開買付手続きが義務付けられる。

ただし、TBIは、堀井氏所有株以外の株式を取得する必要がなかったため、他の株主が応募しない価格設定のディスカウントTOBを実施したのであり、本件TOBの実態は、TBIと堀井氏の協議に基づく相対取引に他ならない。

 

 

【最後に】

本件TOBに堀井氏以外の株主が応募しなかったことや、本件TOB実施以降に市場価格が大幅に下落することがなかったことからすれば、ホリイの一般株主は、TBIによる本件TOBや本件業務提携を好意的に受け止めていると思われる。

本件ディスカウントTOBが二兎を獲たTOBとなれるか、今後が注目される。

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