» 伊藤忠によるヤナセ株TOBに見る今後のTOBの傾向

テーマ伊藤忠商事によるヤナセへのTOB

5月25日、伊藤忠商事がヤナセに対するTOBを実施すると発表しました。

元々39.4%の株式を保有する筆頭株主ではありましたが、今回のTOBを通じて株式の保有比率を最大65%程度にまで引き上げるということです。これによりヤナセは伊藤忠商事の子会社となります。

伊藤忠商事は何を目的に子会社化を行うのか、考察します。

「伊藤忠によるヤナセ株TOBに見る今後のTOBの傾向」

2017年7月5日
小坂俊介

弁護士

東京総合法律事務所代表パートナー。同所母体である西川茂法律事務所に2004年10月入所、2009年よりパートナー。主な業務は顧問業務。付随する個別案件として、相続・事業承継、M&AのDDや契約交渉、企業倒産等を扱う。現場主義をモットーとし、クロスボーダー案件では、東南アジア内陸部等のサイトビジットを活発に行う。

■ヤナセ株TOBのターゲット

伊藤忠商事が5月25日、関連会社のヤナセを子会社化すると発表した。もともと伊藤忠商事はヤナセの筆頭株主だが(所有割合39.49%)、株式公開買付(TOB)を実施し、50.1%以上に引き上げ連結子会社化する予定である。

TOBというと一般的な株主からの公募というイメージするが、今回は既に第2位株主のあいおいニッセイ同和損害保険をはじめ、東京海上日動火災保険、三井住友海上火災保険、損害保険ジャパン日本興亜といった応募予定株主が取得に内諾している。4社合計の応募予定株式数は全株式の19.88%にあたり、取得費用は約65億円の予定ということである。

ヤナセは主力のメルセデスベンツなどの好調もあり、目下の業績は順調であるが、国内市場は既に飽和状態となりつつあることから、今後の業績拡大には海外事業の展開が課題となっていた。そのため、伊藤忠商事は、同社の海外販路を活用することなどが必要と判断し、ヤナセの子会社を決定したとのことである。

従前既に、伊藤忠はヤナセ株の筆頭株主であったが、今回過半数取得により、役員構成により伊藤忠の意見を反映させることになったこと、またシナジー戦略としても、支配会社として、より伊藤忠のノウハウの提供がしやすくなるなどの効果が期待されていると思われる。

 

■一般的なTOBと今回の位置付け

金融商品取引法第27条の2により、有価証券報告書の提出が義務付けられている株式会社は、市場外で株式を取得する場合、原則として公開買付け(TOB)によらねばならない。

取引の範囲としては、従前は証券会社の大口顧客取引による株価変動の影響を抑えるため、市場の時間外取引はTOBによる必要がなかったが、ライブドア事件以降、一般株主保護のために、時間外は市場内外問わずTOBによる必要がある。

また対象会社の範囲としては、上場会社以外にも有価証券報告書の提出義務がある会社について、株主保護の要請から、いずれもTOBによる必要がある。

今回のTOBにかかるヤナセ株は上場株ではないものの、有価証券報告書の提出義務があるため、TOBによる必要があるということである。

 

■TOBの一般的項目からみた本件TOBの内容

TOBは、一般に次のような項目を定めて募集されている。

・応募価格

応募価格はTOB募集者が自由に定めることができる。市場価格や会計上の評価額より高い場合、差額は一般にプレミアムと呼ばれる。プレミアムを付けることで、応募を広く確保することができる。他方、市場額や評価額よりも低く設定される場合がある。これは既に応募予定株主との内諾を取った上でのTOBであり、相対で価格が決定されるため、市場額ないし評価額より低廉になることが当然ある。本件のようなケースも後者に該当する(TOBの応募価格は、会計評価額の6割程度に留まっている)。

本件は非上場であるが、上場株の場合、株価チャートとしては、TOBの規模にもよるが、TOB発表後は直ちに応募価格に近似し、募集期間中は応募価格に張り付いて、狭いレンジの値動きが続く。TOB実行後、TOBの評価に準じてブレイクするなどの経過を辿り、通常の取引に移行していくことになる。

 

・応募期間

法定では20営業日がミニマムであるが、TOBの成功率を高めるため、一般には30営業日以上をとることが多い。ただ、長期にわたると株価変動に対する影響が懸念され、そのバランスを見極める必要がある。本件では32営業日であった。

 

・下限、上限の設定

TOB募集者は、何%の取得を目指すのかのターゲット及び予算を予め設定している。そのため、募集の下限(それ以上集まらなければTOB全部が不成立)と上限(それ以上集まった場合には、按分買取を行い、それ以上の応募は不成立)を設定することができる。

例えば、完全子会社化を図る場合には、プレミアムを付けながら、下限を設定しつつも、上限は無制限とする方法が採られる。今回は、連結子会社化であるが、予算の関係から、完全子会社化までは目論んではいない。

 

■TOBの今後と株価推移の予測

現在TOBは比較的増加傾向にある。その要因として、買収者において、株価が底値圏にあると思っているためであるとの分析が多く見られるが、筆者はそうは考えない。

ビジネスの展開として、販路拡大の戦略として、これまでは営業活動が盛んに行われてきた。しかし、コンプライアンス浸透と共に、いわゆる日本型営業では販路拡大が困難になったこと、また日本企業の競争力の低下もあって、営業活動と併せて、企業買収(M&A)によることが合理的であるとの判断が企業側に浸透したためである。

そのため、今後も株価の相場に関わらず、MAのためのTOBが盛んになることが一般的傾向として継続すると思われる。

株価推移については、これまで、一般的な投資家(特にシストレの間で)判断として、TOBの実行後は上昇傾向にあるという予測があり、現在そのようなチャートも確かに多いが、ファンダメンタルとしては、必ずしもそうは言えない。

そのため、現在のTOB株の上昇傾向は、一過性の流行りとみておくのが無難であり、保有株についてTOBを受け、上場廃止が図られた場合を除き、TOB株は安全な投資対象としては難しいと考えられる。

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  • 「伊藤忠によるヤナセに対するTOBにおけるTOB価格の妥当性」

    清野 訟一

    弁護士

    2008年弁護士登録(第二東京弁護士会)、祝田法律事務所パートナー。大手証券会社M&Aアドバイザリー部門への出向経験も活かし、M&A、会社関係訴訟・非訟、コーポレート・ガバナンス等を中心に手掛ける。株価決定事件や新株発行差止仮処分命令申立事件などのM&A関連の事件を数多く担当し、紛争解決を見据えたM&A対応に強みを有する。著作論文等として『コーポレート・ガバナンスの法律相談』(共著)(青林書院、2016)ほか多数。

  • 「伊藤忠商事によるヤナセTOBの株価」

    吉村史明

    公認会計士

    吉村 史明
    北海道出身。一橋大学(商学部経営学科)卒。
    平成3年公認会計士2次試験合格後、太田昭和監査法人(現新日本監査法人)に入所。金融商品取引法監査、会社法監査並びに株式公開支援業務に従事。平成7年公認会計士登録。平成12年監査法人退所後、公開準備会社に転職。公開業務終了後、独立。
    現在は、税理士法人 AKJパートナーズにて、M&Aに関わる企業デューデリジェンス・組織再編・税務、不動産投資コンサルティングに従事。